強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三百九十七話「今度こそ到着デース」

「しかしな……いや、何も無いに越した事はないのだが」

 

 何処かの戦国武将よろしく「万難辛苦ばっちこーい」とか主張するようなつもりは毛頭無いし、むしろ何かあることの方が異常だと言うことだって理解していたと思う。

 

(けどさ、あれだけ色々あればまた何かあるんじゃないかって身構えるのは普通だよね?)

 

 だいたい、この船の船員だってまともな人もいるが、幽霊船に乗り込んで骨を拾ってくる人とか一人になると歌い出しちゃう副船長とか変な人も居るのだ、思わずツッコミ入れてしまいそうな人が。

 

「……ここまで静かで何もないと眠くなってくるな」

 

 甲板に出て暫く歩いた俺はいかんいかんと頭を振ると、時間を潰せるモノはないかと周囲を見回し。

 

「あ」

 

 たまたま目に留まったのは、元の世界の都市部ではまずお目にかかれない、満天の星空。

 

(うわぁ)

 

 こちらに来てからは珍しいモノではない、だが何故か目を奪われた。

 

(のんびり星を眺める機会だって作ろうと思えばあったはずなのになぁ)

 

 早くオーブを集めなければ、バラモスを倒さなければと言う焦りに、いつしか心のゆとりを失っていたんだろうか。

 

(にしても綺麗だ。一人でぼーっと見てるのが勿体ないぐらい)

 

「誰かと一緒にこの星空を見られたなら、きっと――」

 

 一人で見るより良い思い出になると思う、ただ。

 

(目を閉じて、シャルロットと一緒に星を眺めてる所とか想像するのは、こう、キモいよな?)

 

 そもそも、交代に見張りをする為、睡眠を取っているシャルロットをこっちのエゴで起こすと言うところからしてどうかしている。

 

(一緒に星空を見てくれる候補なら、船倉に隠れているクシナタ隊のお姉さんだっているのに)

 

 副船長とか船員は流石にNOサンキューだが。

 

(と言うか、船員のオッサンと、とか。ギャグにしかならないよね? あの腐った僧侶少女辺りなら歓喜しそうだけど)

 

 歓喜で終わらず、話を書き始めるかも知れない。

 

(副船長の場合なら、横で俺へのラヴソングを歌い出すとか。……うっ、何だか気持ち悪くなってきた)

 

 勿論、勝手に想像内で愛の歌を歌わされた副船長も俺の想像の被害者だけれど。

 

(どうして、こんな ろくでもない はっそう に いたった)

 

 心の中で棒読みの声を発してみるが解っていた、シャルロットと夜空を見上げる想像から出来る限り離れようとした結果が、アレだったことは。

 

「物事に動じるようなことはあまりなくなった、と思っていたが……気のせいか」

 

 思い起こすと、最近も振り回されっぱなしの気がする。シャルロットの行動にしても、影武者を務めてくれるお姉さんが樽に填った一件にしても。

 

「……船縁を一周してから、戻ろう」

 

 頭を冷やす必要を感じて、俺は再び歩き出し。結局、この日は何もなく終わった。

 

「……で、アニメとかなら『次の日の朝の事であった』とかナレーションが入ったりして事件が起こるんだろうけれど」

 

 ポツリと呟いたのは、三日目の夕方。

 

(肩すかしにも程があると言うか、いや、平和は良いことなんだけどさ)

 

 交代に寝ていたからこそ、以前宿屋であったような生殺しも発生せず、睡眠時間は充分とれた。食事だけは海の上と言うこともあり、陸で食べていたときほどの贅沢は見込めないものの、旅に持って行く携帯食料よりは遙かに豪華なメニューに恵まれ。

 

「お師匠様、何か仰いました?」

 

「いや、何でもない」

 

 地図によればそろそろ陸地が見えてきても良いはずだという船員の話を聞いた俺は、シャルロットを起こし、甲板上の人となっていた。

 

「ん……あ、あれじゃないですか、お師匠様。何か見えましたよ?」

 

「ほう、確かに何か見えるな」

 

 まだ寝たりないのか、目を擦りつつも、一点に目を留めたシャルロットがこちらを向き、寸前までシャルロットが見ていた方を見れば、陸地らしきモノが見え。

 

「シャルロット、少し身体を支えていて貰って良いか? タカのめを使ってみる」

 

「あ、はい」

 

「では、頼むな」

 

 シャルロットが承諾する所まで見届けてから、心の目を大空へ解き放つ。

 

「どう、ですか……」

 

「船員の言ったとおりだ。陸地と、それに陸地に何か見える」

 

 ゲームの知識としては知っていたが、ゲーム通りでないことはこれまでいくつもの町や国で目にしてきた。だからこそ、これが初めて見るこの世界のランシールと言うことになると思う。

 

「じゃ、じゃあ」

 

「ああ。もうすぐ上陸と言うことになるだろうな」

 

 俺の背中にはシャルロットの柔らかい何かが既に上陸しているのだが、元バニーさんといい、シャルロットといい。

 

(この世界の女の子 は ちょっと むぼうび すぎるんじゃないか と しんぱい に なりました、まる)

 

 おもわず とちゅうから ぼうよみ に なったって しかたない と おもう。

 

(こっちから言うのも恥ずかしいというか、かえって恥をかかせそうだしなぁ)

 

 心の目がさっさと帰ってくれば、もう良いとシャルロットに言えるのに、もう少しかかるのが憎々しかった。

 




(副船長の場合なら、横で俺へのラヴソングを歌い出すとか。……うっ、何だか気持ち悪くなってきた)
 勿論、勝手に想像内で愛の歌を歌わされた副船長も俺の想像の被害者だけれど。
(どうして、こんな ろくでもない はっそう に いたった)
 心の中で棒読みの声を発してみるが解っていた。
(俺は副船長のことがす――)


 ええと、ごめんなさい。あの僧侶少女なら、どう続けるかなぁ、とちょっとだけ魔が差して……。

次回、第三百九十八話「上陸とランシールなのです」

尚、最近のタイトルは闇谷が提督業を始めたこととは関係ないと思いたいです。



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