強くて逃亡者   作:闇谷 紅

457 / 554
第四百十話「おからだにさわりますよ」

「ふむ」

 

 いざ触ろうとなると、一点問題が出てきた。

 

(当たり判定詐欺って言うか、このシルエットの見た目、アテにならないことも多いんだよなぁ)

 

 例えば水色生き物ことスライムが正体だった場合のあやしいかげもシルエットの見た目では実物にない腕や翼がある。

 

(本来の大きさ形状に関係なく別の姿の幻を貼り付けて見た目だけ変えてると考えるなら、へんげのつえと仕組みは同じような気もするけれど)

 

 色々と謎は多い。

 

(まぁ、そう言う考えただけでは解らないところは、後に回すとして、今は確認作業が先だ。まずは頭と足、かな)

 

 身長がシルエット通りのサイズかどうかが解れば、頭の位置も推測しやすくなる。

 

(原作だと頭身低く描かれてる魔物も居たけど、こっちは不自然な点は修正されてるみたいだし)

 

 例えば、シャルロットに忠誠を誓った真紅の鎧(キラーアーマー)もずんぐりとした体型ではなく、ごく一般の人間が着用する鎧と同じサイズになっている。原作ではグラフィックの使い回しだった、カンダタの手下達が中身入りなのだから、当然と言えば当然かも知れない。

 

(では、とりあえず足から――)

 

 少し迷ってそちらを選んだ理由は、幾つかあるが足の形と尻尾の有無で完全な人型かそうでないかの区別ぐらいは出来るため。

 

「ぎゃああっ」

 

「しまった」

 

 ただし、この選択は失敗だった。足の骨でも折って居たのか、触った瞬間、凄まじい悲鳴が迸ったのだ。

 

「んぐ」

 

「ふぅ」

 

 慌てて俺はもう一方の手で人型なら口があると思わしき位置にロープの束を持った手を押しつけた。

 

(最初に猿ぐつわをしておくべきだったなぁ)

 

 後悔はいつも失敗の後にやってくる。

(さっきの悲鳴、聞かれたかも知れない。急ごう。で、足下は……あ、靴を履いてるのか、これは)

 

 そして、最初に得た情報によって記憶の中で裸足だった悪魔達の可能性がほぼ消えた。

 

(うん、裸足どころか全裸だった気もするけどね、あれ)

 

 鎧の魔物ようにリアルさが追求され、補正されてるとしたなら、ビジュアルにも変化はあるのだろうか。

 

(って、脱線してる場合じゃない! えーと、尻尾は無し、か)

 

 尻に直接触っている訳では無いので、短い尻尾が生えている可能性は否定出来ないものの、靴を履いて翼のある魔物で尻尾持ちとなると、アッサラームやイシスで暗躍していたベビーサタンとその上位種ぐらいしか記憶になく。

 

(どっちも長い尻尾を持っているしなぁ。だいたい、塞いだ口の位置からすると大きさは人間大と見て良さそうだし)

 

 口をロープ束で抑えたまま指を伸ばして顎に触ると、触れた場所に髭もなかった。

 

(ついでに言うならざらざらもしてないし、どっちかって言うと人の肌に近いような……あ)

 

 そこまで確かめて、俺はようやく一種の魔物を思い出した。

 

吸血鬼(バンパイア)か」

 

 原作でしか出くわしてないその魔物は、燕尾服を着て蝙蝠の翼を生やした人間という形状をしていた。爪や牙は長く伸びていたかもしれないけれど、触った感触は記憶の中にある魔物のものと一致する。

 

(何で忘れてたんだろ、M字開脚とか変な髪型とかツッコミどころ豊富な見た目してたのに)

 

 俺としたことが迂闊だった。

 

「なら、手の方を触れば服の袖があるな。しかし、バンパイアだとすればこのひ弱さも納得が行く」

 

 吸血鬼と聞くと割と手強い魔物というイメージがあるのだが、この世界ではどちらかと言えば弱い方だったと思う。

 

(まぁ、弱いに越したことは無いんだけどね。ハルナさんが見張りでも大丈夫ってことだし)

 

 ついでに言うなら、原作で出てきた吸血鬼は皆男だった。

 

(最下種の魔物が「こうもりおとこ」だったからかも知れないけれど)

 

 これでセクハラを恐れず触ることが出来る。

 

「さて、目隠しと耳栓、猿ぐつわだけはしてしまうか」

 

 このまま口をふさいでいるのも手が塞がったままになるし、触るたびに悲鳴をあげられるのも面倒だ。

 

(おとこ に さわる って ことばだけ だと ありあはん の あたり に おおよろこび しそうな そうりょ が いる き が しますけどね)

 

 浮かんできた腐った僧侶少女のイメージを、頭を振って払い、俺は鞄から取り出した布の端を口でくわえた。

 

「まずは、猿ぐつわだ」

 

 片手が塞がっていてやりづらいが、そこは自分を信じるしかない。元遊び人でもある、この身体のスペックを。

 

「んっ」

 

 主に使うのは手の方、口にくわえた布の端を噛んで固定したまま、布を一周させ。

 

(あるぇ? よく考えたらこの格好、あやしいかげにキスをしようとしてる様にも見えるような)

 

 傍目から見たら酷いビジュアルだと気づいたのは、布の端と端が出会いそうになった後。

 

「ん゛んーっ」

 

「ん゛」

 

 シルエットになっても解る怯えた目と視線があった時、俺は固まった。

 

(うわーい、あの そうりょ だいかんき じゃないですか、やだーっ)

 

 と言うか、今猿ぐつわをかませようとしているあやしいかげにも誤解されてる気がする。

 

「んんぅ」

 

 違う、違うんだ、俺はそう言うのじゃない。

 

(あやしいかげ が ほほ を そめなかったの が せめてもの すくい……って、救いになるかーっ!)

 

 心の中で叫びつつも、手を止められない俺はモクモクと作業をこなすのだった。

 

(どうしてこんな展開に……うわーんっ)

 

 心で泣いて。

 




何でこんな展開になってるんですかねぇ。

主人公×吸血鬼?

うん、ないわー。

次回、第四百十一話「M字の処し方」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。