強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第三十八話「計画と人命」

 

(この段階でボストロールとか、どう考えても無理ゲー過ぎる)

 

 変装を解いて、つい今し方シャルロットとの合流を果たした俺だったが、頭を占めていたのはサイモンとの会話のことだった。

 

「サマンオサ王がおかしくなった」

 

 と言う話なのだが、その原因を俺は知っている。ただ、そのおかしくなった王がサイモン達を牢に放り込んだりしていたことはすっかり忘れていたのだ。

 

(変化の杖で王に成り代わった魔物がやりたい放題かぁ)

 

 牢屋に押し込んで放置というほこらの牢獄の件とは違う。王の悪口を言っただけで処刑、気に入らないことがあれば処刑。

 

(恐怖政ってと言うか、暴政だったけ)

 

 現在進行形で人が殺されていっていることまで思い出して、俺は苦悩した。

 

(あれに介入したらバラモスを油断させる計画は全てパァだ。とは言え沢山の人間が大した非もなく殺されて行くのを看過する訳にも……)

 

 ついでに言うなら、この情報を明かせばシャルロットは付いてこようとするだろう、勇者として。

 

(スカラの呪文で守備力上げてもあいつは痛恨の一撃出してきた気がするし)

 

 どう考えても足手まといであり、他のメンバーにも同じことが言える。

 

(ボストロールをソロで撃破、ステータス的にはやれないことはないはずだけど)

 

 俺にその度胸があるかどうかが問題だ、更にはこの段階で有力な敵を倒してしまえばバラモスは警戒を強めるだろうし、この身体は一つしかない。

 

(誰かに相談するしかないよな)

 

 考えを纏めたいとサイモンの前で結論を出さず、今も考え続けているのだが、この状況を打開する案が浮かばない。

 

「お師匠様?」

 

「悪い、少し考え事をな」

 

 合流した後シャルロットからも話は聞いている。パーティーの残りメンバーが確定したと。俺以外との初顔合わせは済んでおり、俺が対面を果たしたのもつい今し方。

 

「ああ、そう言えばお師匠様は何処かに行かれてたんですよね」

 

「まぁ、な。それでその土産話なのだが……」

 

 俺はシャルロットの耳元に口を寄せると、此処では拙い話があるとと小声で続けた。

 

「あ、そ、そうですね。今はみんなとの顔合わせの時間ですし」

 

「だな」

 

 何故か顔を赤くしてモジモジしだしたものの、理解はして貰えたらしい。俺はシャルロットに相づちを打って応じると、新規パーティーメンバーであるという二人に向き直る。

 

「一応シャルロットの師と言うことになっているただの盗賊だ、時折単独行動を取ることもあるが……」

 

「そ、その、ご主人様は実力も知識もパーティ一番で……」

 

「優秀な方であることは確かですな」

 

 語末を濁した俺をバニーさんと僧侶のオッサンがフォローしてくれる。

 

(あー、うんと、フォローしてくれるのはありがたいんだけど)

 

 俺がはっきり最後まで言えなかったのは、これからまた一人で出て行く可能性があるからなのだ。

 

「私一人で充分、ボストロールごとき敵ではないッ! 人々の命がかかっているのだッ」

 と、即座に決断を下して出て行けるほどの度胸は俺にないし、単独行動から帰ってきたばかりでまた抜け出すというのも問題がある。

 

(どうしよう)

 

 俺は迷っていた。この近辺の雑魚ならばともかく、ボストロールの繰り出す一撃ならば当たり所が悪ければこのスペックの身体でもかなりの怪我をする可能性がある。

 

(そもそもなぁ)

 

 勇者一行にとっての壁でもあるボス戦なのだ。成長の機会を奪うことにもなりかねないし、レベルカンストのキャラだけで倒したら経験値も勿体ない。

 

(うーん、ん?)

 

 山積みの問題に頭を抱えたくなりつつも自分の思考に沈んでいた俺は、人の声を知覚してふと我に返った。

 

「……どうぞよろしゅうに」

 

(って、ああああああああっ! 自己紹介の最中だった)

 

 どうやら二人の内の一人、商人のオッサンの自己紹介を聞き逃してしまったらしい。

 

(何て失敗を……いや、待てよ? 何で男が入ってるんだろう?)

 

 メンバーは女性でないと修行が出来ないことはシャルロット達に説明してあったはずだ。

 

(その辺りも含めての自己紹介だったとしたら拙いな)

 

 人命を取るか計画を優先するかで頭がいっぱいだったとは言え、とんだ失態である。

 

(ともかく、もう一人の方はちゃんと聞こう)

 

 考えるべきこともあるが、あれは後だ。俺は自分に活を入れて意識を意識を切り替え。

 

「お初にお目にかかりますぅ、エミィと申しますぅ、あ」

 

 ぺこりと頭を下げて帽子を落とした少女は、慌てて帽子を拾い上げると帽子の中から何枚かの羊皮紙を取り出した。

 

「失礼しましたぁ。わたしぃ実はこういうモノを書くのが趣味なんですよぉ?」

 

「ほ……ぅ?」

 

 挨拶代わり、とでも言うかのように差し出されたそれに数行ほど目を通したところで、俺は固まった。

 

「昔書いたぁ『司祭様×アランさん』のぉお話しですぅ」

 

「……だいたいそう言う娘なのです、おわかり頂けましたかな?」

 

 僧侶のオッサンことアランさんが賢者になれそうなほど悟りを開いた顔で、口を開く。

 

(うわぁ)

 

 そう、新人の片割れは腐っていたのです。

 




遂に主人公の前に現れた一つの脅威、その名はエミィ。

何でこんな事になったんだろうか、うん。

ともあれそんな感じで続きます

次回、第三十九話「腐った僧侶が現れた」

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