強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百十七話「それはでーとなのですか?」

「情報収集がてらではあるが、今日はこの村でのんびり過ごそう。疲れを残したままでは明日の探索もおぼつくまい?」

 

 妙な誤解をさせてもあれなので、まずは趣旨を説明した。

 

(一応大きな神殿はあるものの、ポルトガとは違って、「村」なんだよなぁ)

 

 逆に言えばこの村の売りはその神殿になるのだろうが、英気を養うために目的地の入り口でもある神殿に赴いて観光が楽しめるかというと少々自信が無く。

 

(かと言って、神殿を除いたら普通の村だしなぁ)

 

 ポルトガの時は屋台もあったし、ショッピングが出来る店も豊富だったが、通りすがりの娘さんに聞いたところこの村にあるのは、土産物屋を兼業している道具屋と武器防具の店を除けば、雑貨屋や八百屋など観光客向けではない店ばかり。

 

「……とりあえず、道具屋には寄らないとな」

 

 尋ねた相手が道具屋の娘さんだったのは、運が良いのか悪いのか。

 

「消え去りそうを買っていってくださいな」

 

 と、言われてしまうとモノを聞いた手前、買わずに済ませる訳にも行かない。

 

(まぁ、きえさりそう自体は便利だし、原作と違って使いどころもありそうだから良いんだけどね)

 

 ただ、使い方によっては犯罪にも使えてしまう品をホイホイ売っていて良いのかとツッコミたくはなったけれど。

 

(こっちの素性を把握して、悪用はしないと踏んだからこそ売っている……とか?)

 

 もしくは犯罪者が買いに来ることも視野に入れて商売をしているのか。

 

(後者だったらやだなぁ)

 

 いっそのこと道具屋に聞いてみるべきかとも思いはしたが、シャルロットが隣にいる今、堂々と尋ねるのは無理がある。

 

(忘れていてくれても良いと思うけど、きっとまだ覚えてるよな、着替えを見たこと)

 

 あれはどちらにとっての黒歴史なのか。ともあれ、きえさりそうにこだわり過ぎると、忘れてしまえば良かったことが再燃しかねない。

 

(うん、気にはなるけど止めておこう。誰も問題にしていないと言うことは問題がないということなんだろうし)

 

 それよりも今は、シャルロットへ安らぎとか癒しを提供することに専念せねば。

 

「緑に囲まれて、のどかなところだな……」

 

 周囲を見回すと、建物以外に木々が目立つ。おそらくは森の中にある村だからだろう。

 

「そうですね。えっと……お師匠様」

 

「どうし……っ」

 

 相づちに続く形で声をかけられて視線を横にやると、どこか真剣な目をしたシャルロットと目が合い。

 

「お師匠様、ボク……バラモスに勝ちたいです、けど」

 

「けど?」

 

「疑問なんです、この辺りの魔物に叶わないのにバラモスへ挑んで良いのか、って」

 

 続きを促した俺は、懸念を聞いて己の失敗を知った。

 

(うわーい、やらかしたぁぁぁ)

 

 俺の実力に見合った魔物が出没するからと説明してシャルロットを先にこのランシールの村へ行かせた訳だが、ゾーマのことを知らないシャルロットからすれば、バラモスは俺と互角の魔物を多数配下においてこの周辺へ配置して居るともとれる。

 

(先に行かせるためとは言え、脅かしすぎたか)

 

 とは言え、見合った魔物が居ないので、最強レベルが出てきましたけれど相手になりませんでしたと言う真実を言う訳にもいかない。

 

(そも、師匠が一人でバラモスを嬲れる強さだなんて知ったら、シャルロット立場ないよなぁ)

 

 下手をすれば、もっと速くバラモスを単独撃破出来たのに弟子である自分のために足並みを揃えていてくれた、とか誤解される可能性だってある。

 

(どっちかって言うと都合に付き合わせて振り回してるのは俺の方だって言うのに)

 

 ともあれ、やらかした以上、ここは自分自身で何とかするより他にない。

 

「シャルロット……案ずることはない。お前が自分の実力に不安を感じているのは、解った。だが、イシスに行けば……はぐれメタルが居るだろう?」

 

「あ」

 

「アンを探さねばならない事態になったことは、説明したとおりだ。だが、アンを探すだけなら俺一人でも出来る。オーブを捧げ、不死鳥の協力を得た後なら、アンを探す途中でイシスに寄ることも出来よう?」

 

 要するに、実力が不安ならレベル上げすればいいじゃない、と言うごく単純な話である。

 

(原作と違って、模擬戦だから発泡型潰れ灰色生き物逃げないしなぁ)

 

 後はイシスでシャルロットを降ろした後、ラーミアにのってほこらの牢獄に向かい、おばちゃんを回収してから元バニーさんや魔法使いのお姉さん達ごと勇者一行を回収すればいい。

 

(この時マリクが育ってるなら、ドラゴラムして貰って替え玉に出来るかを確認して)

 

 問題なければジパングへ送り届けて貰えばいいのだ。

 

(俺はおばちゃんの捜索に行ってるだろうし、お願いするなら魔法使いのお姉さんかな)

 

 若干今後の予定に変更が入るものの、これで問題は無いと思う。

 

「更に言わせて貰えば、今は俺とお前だけだが、お前には仲間が居る。一人で勝つつもりで居るならばともかく、強くなったミリーやアラン達も居るのだぞ?」

 

「そ、そうか、そうですよね。すみません、お師匠様」

 

「何、気にするな。自分の能力に疑問を抱くことがあるのは、お前だけではない」

とりあえず上手く言いくるめられたと安堵しつつも表向きは鷹揚に応じ、俺は言う。

 

「さて、この辺りは見て回ったし、次は道具屋に行ってみるか」

 

 と。

 




全然デートっぽくならない件について。

次回、第四百十八話「神殿へ」

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