強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百二十話「攻略開始」

「レムオル」

 

 入れ替わりに関しては割と簡単だったと思う。

 

(シャルロットはやる気満々で前見てるしなぁ)

 

 神殿は村に多い茂る木々に半ば隠された形になっている。ハルナさんが身を隠す場所にも困らなかったのだ。

 

(あとは俺が透明のまま話しかけて居れば、第一段階は成功、と)

 

 会話をしている俺も姿こそ消しているものの、実際同行している訳だから、シャルロットが振り返らない限り気づかれるとは考えにくい。

 

(問題は、この先の神殿にいる人、か)

 

 挑戦者を待ち受けている訳だからとうぜんシャルロットもハルナさんも視界に入る形になる。

 

(神殿の人が「後ろの女性はついて来られぬがいいか?」とか原作にはなかったことを口にされるとアウトだからな)

 

 フードとマントで極力性別は解らないようにしてあるし、申し訳ないがハルナさんにはサラシを巻いて胸のボリュームを若干調整もして貰っている。

 

「回復は戦闘中のような緊急を要しない時は出来るだけ薬草を使え。お前の袋なら薬草は相当数持ち込めるからな。そして、単独行動である以上、警戒すべきは行動を阻害するような特殊能力を持つ魔物となる」

 

 例えば甘い息を吐いて眠らせてくる魔物などだな、とアドバイスをしつつ、進むと昨日見た神殿は徐々に大きくなり始め。

 

(さて、始めるか)

 

 俺は一旦、シャルロットを追い越す、実はちょっとしたうっかりがあったのだ。

 

「アバカムっ」

 

 それは、一言で言うなら、鍵の問題。

 

(うん、何で忘れてた、俺)

 

 エジンベアに至っていないと言うことは、どんな扉も開けてしまう鍵を手に入れるための前段階を踏んでいないと言うことでもある。

 

(とうぜん、しゃるろっと ひとり では あけられない とびら が あるかもしれない わけ ですよね、わかります)

 

 イシスで修行中の賢者二名のどちらかか魔法使いのお姉さんが今し方俺の使った呪文を覚えていてくれればいいが、もしまだ覚えていなかった場合、寄り道が追加で複数必要になる。

 

(ともあれ、一旦先行して扉を先に開けて行く方針に変更だな)

 

 扉が見えてからダッシュで向かえば、シャルロットから目を離す時間は僅かで済む。

 

(シャルロット一人になるまでは扉を開けに行ってる間に話しかけられると拙いって問題があるけど)

 

 あれほどのやる気を見せているのだ、左右にある脇道に逸れるとは思えない。

 

「よく来たシャルロットよ! ここは勇気を試される神殿じゃ。例え一人でも戦う勇気がお前にはあるか?」

 

「はいっ」

 

 そして、実際杞憂でもあった。真っ直ぐ進んだシャルロットは神殿の主らしき人物の元へ直行し、問いへ即座に頷いて見せたのだから。

 

「では私についてまいれ!」

 

「お師匠様……はい、行ってきますっ!」

 

 シャルロットの答えを聞くなり踵を返した神官に一度だけ振り返ったシャルロットは、ハルナさんが頷くのを見て笑顔で言ってから続き、さらに少し離れて透明の俺が追いかける。

 

(この先の構造もしっかり覚えてれば良かったんだけど、こればっかりは仕方ないよなぁ)

 

 ここから先はサバイバルでもあった。透明化の呪文は燃費が悪くすぐ効果が切れるくせに必要になる精神力はそこそこ多い。

 

(シャルロットが遭遇する魔物からこっそり呪文で精神力を失敬、物陰で切れた呪文をかけ直す。基本方針はそんなところか)

 

 もっとも、シャルロットの視界外であれば透明化呪文を常時利用する必要はない。必要なのは鍵を開けるためシャルロットを追い越し、解錠呪文を使う時、急に引き返してくるような事態が起きて鉢合わせになりそうな時ぐらいだ。

 

「では行け、シャルロットよ!」

 

 何だかやたら偉そうだよなこの人と思いつつも、足音を消して俺は横を通り抜け、シャルロットを追いつつ透明化呪文をかけ直す。

 

(ふーむ、しかし姿を消してるとは言え、通り抜けられるとはなぁ)

 

 これが出来てしまうのなら、きえさりそうも道具屋で売っていることだし、フルメンバーでちきゅうのへそ探索も可能だと思うが、ツッコむのはきっと野暮なのだろう。

 

(と言うか、ここでアイテム増殖出来る裏技が原作にあったような……いや、ゲームだからこそ出来たようなアイテム増殖術はこっちのリアルさを考えれば無理か)

 

 俺の装備を増幅すれば勇者一行やクシナタ隊を大幅強化出来るとは思うけれど。

 

(出来たとしても、シャルロット達に説明の付けようがないし)

 

 今考えるべき事でもない。

 

「マホトラ」

 

「フシュウウウオッ?」

 

 ただ、俺からすると潜んでいる位置が丸見えだった巨大芋虫から精神力を吸い取り、半身をもたげて周囲を見回す精神力提供者を放置したまま、先に進む。

 

(……っと、あれか)

 

 その後サーチ&マホトラ&放置を繰り返しつつシャルロットを追いかけた俺が目にしたのは、ぽっかりと口を開けた洞窟の中へと消えて行くシャルロットの姿だった。

 

「確か、何処かに扉があった気はするな、急ごう。レムオル」

 

 シャルロットがこちらに気づいた様子が無いのは良いことだが、あまり距離があるのも問題なのだ。

 





次回、第四百二十一話「あるいみあさしん」

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