「そうだ、この洞窟の入り口で待っていて貰えるかな? ここのモンスターなら仲間だったキミを攻撃してきたりはしないと思うし」
気が付けば、シャルロットは決断を下していた。
(入り口待機かぁ、まぁ妥当かな)
一人で挑戦するというルールには接触しないし、慕ってくる相手を突っぱねる訳でもないシャルロットらしい選択だと思う。
(とりあえずレムオルもう一回追加確定、と)
指示に従い、こっちに向かってくる形なシャルロットの新しいお友達から視線を外さず、呪文を唱えて脇に退く。
「ヴヴヴヴヴヴ」
羽音は、そのまま俺の横を通り過ぎていった。どうやら気づかれずに済んだらしい。
(さて、改めてシャルロットを追……え?)
開け放たれたままの扉から奥に進もうとした所で右手から近づいてくる足音に気付き、慌てて引っ込むと物陰に隠れる。
「あれ? おかしいなぁ……」
こっそり様子を伺うと、やって来たのは不思議そうに周囲を見回すシャルロットだった。
(あるぇ? シャロットはさっき左に曲がったような……ってことは無限ループか)
何とも不思議な光景だと思う。左側の通路に消えた筈の人間が次の瞬間には反対側から現れるのだから。
(これは片手を壁に付いたまま進むって有名な迷路の抜け方をさせないための仕掛けってことかな)
明らかに人の手が加わった内装だし、制作者が存在すると言うことなのだろうけれど、考えたモノだと思う。
(あーうん、感心してる場合じゃないんだけどね)
もちろん、シャルロットもこのまま延々と無限に続く通路を進み続ける様なアホの子では無いと思うが、油断しているとループしてきたシャルロットと鉢合わせる可能性があるのだ。
(もういっそのこと先行して宝箱に扮してる魔物だけでも片付けておくべきかな、これって)
攻撃力の高いひとくいばこ、即死呪文を使ってくるミミック、宝箱に扮してるのはこのどちらかだと思うが、前者はともかく後者の即死呪文への対処法はシャルロットにない。反射呪文のある俺にはただの雑魚だが。
(とは言え、肝心の魔物が化けてる箱の位置覚えてないしなぁ……ん?)
うんうん唸っていると、死角になった場所で獣の唸り声っぽいものやらシャルロットのかけ声が聞こえ。
(っ、戦闘か)
我に返った俺は透明状態が続いているのを確認してから通路に顔を出す。
「たああっ」
「ギャウッ」
丁度その直後だった。アリクイに似たでかい生き物がシャルロットの投げたオレンジ色のブーメランに当たって悲鳴をあげ倒れたのは。
(あー、まぁあの装備とレベルならこうなるわな)
よく見れば周囲には他にも何体かの魔物が倒れており、アリクイもどきが最後の一体であったらしい。
「え? キミも一緒に行きたいの?」
うん、すぐ に おきあがって なかま に なりたそう に しゃるろっと を みはじめました けどね。
(蜂って蟻に近そうだし、喧嘩しないかなぁ、さっきの虫と)
どうでも良い心配をしている内に、シャルロットはさっきのハンターフライと同じ事を言ったのか、アリクイもどきは嬉しそうにこっちに向かってくる。
(「こっちくんな」とか言えたらいいのに)
しかし、シャルロット。ちきゅう の へそ で なんにん おともだち を つくるつもり なんですか。
「何かおかしいと思ってたけど、ここ繋がってたんだ。教えて貰えて良かった」
とりあえず、さっきのアリクイもどきに無限ループであることは教えて貰った様子のシャルロットは奥へと進み。
「さてと」
「「お゛ぉぉぉ」」
「……こいつなら呪文でも良いか。魔物に倒された探索者の死体に見えるだろうし」
シャルロットと魔物の戦闘を聞きつけたのか、現れた腐乱死体の集団に向け、片手を突き出す。
「ベギラゴン」
「「ごお゛ぉぉあぁぁ」」
「しかし……この臭いはなんとかならないものか」
悪臭の原因を呪文で一掃した俺は、鼻ごと口元をもう一方の手で覆ったままその場を離れた。
(シャルロット、何処まで行ったかな? あんなのには出くわしていないといいのだけれど……と)
口には出さず呟きつつ、辿り着いた先は、並ぶ柱が袋小路を造り出した部屋。
(いち、にぃ、さん、よん、ご……よりによってここで分岐が多数、か)
部屋の側面に二つずつ正面に一つ通路の入り口があり、シャルロットの姿は既に部屋にはない。通路のいずれかに向かったのだろう。
(けど、行き止まりなら戻ってくるシャルロットとも鉢合わせする可能性があるんだよな。これ全部正解ルートとは思いがたいし)
普通に考えれば、一つか二つ残して行き止まりだと思う。そして、これだけ分岐があれば、幾つかの先には宝箱があるってパターンじゃないだろうか。
「……足跡と気配で探るしかないか。行き先が魔物の箱だったら急いで追いつかないと」
蘇生呪文を使わせてくれるなよと小声で漏らしつつ、俺はシャルロットの痕跡を探し、辿り始めた。
次回、第四百二十三話「ですとらっぷ、なんとか」