強くて逃亡者   作:闇谷 紅

471 / 554
第四百二十四話「それってはんそくじゃありませんか?」

「さてと、これでよし」

 

 などと呟く訳にもいかなかった。箱の魔物を捕縛し、背負った以上、呟けば聞かれてしまうのだから。

 

(こいつを捕まえた相手は謎のままって事にしておかないと行けない以上、情報は与えられないもんなぁ)

 

 改めてシャルロットからこのミミックを紹介された時、声に聞き覚えがあるとか気づかれたらアウトだ。シャルロットは魔物の言葉を理解する。結果、俺がこうして尾行しているのがばれてしまう可能性もある。

 

(と言うことは、ここから呪文は使用不可か)

 

 忍び歩きの様な呪文名を口にしなくてよいモノは問題ないだろうが、この縛りプレイは若干痛い。

 

(ミミックも縛られてることだし、ある意味どっちも縛りプレイ……って、笑えない)

 

 むしろ、全力で滑ったと思う。

 

(一応、道具屋で買ったきえさりそうもあるし、箱を降ろして少し離れた位置で呪文を使うって手だってある。厳密に言うなら縛りプレイって言うのにも若干語弊があるかな)

 

 ミミックの方は誰がどう見ても縛りプレイだけど、きっとどうでも良い。

 

(そう言えばこの箱にも性別があるん……いや、考えちゃ駄目だ)

 

 一歩間違えば擬人化したミミック少女が顔を赤らめながら責任とってくださいとか言い出す想像シーンとかに突入しかねない。

 

(つまりは、なんだかんだで現実逃避したいんだろうなぁ)

 

 箱を背負った後、再び後を追いかけた俺は、ようやくシャルロットの背中を捕らえた。捕らえたのだが。

 

「あ、そうなんだ。あっちの階段は行き止まり……うん、ありがとう。じゃあ、入り口で待っててね」

 

「ピキー」

 

 当のシャルロットは、仲間になりたそうな目で見つめていた魔物から先の構造を聞き終えたところだった。

 

(なに、その反則)

 

 ここに出没する魔物なら、ダンジョンの構造に詳しいのは間違いない。そして、シャルロットは魔物の言葉がわかる。確かにダンジョンの構造を尋ねれば、迷うことなく先に進めるとは思う、思うけれど、なんだろうか、この腑に落ちない感じは。

 

「ええと、あっちの階段は外れだから、残りは二つかぁ……片方も上り階段だから、あっちかなぁ」

 

 唸りつつシャルロットが歩く先は、このフロア唯一の下り階段。

 

「待っててください、お師匠様。オーブ、何としてでもボクが手に入れて見せまつっ! だから、だから……バラモスを倒したら……」

 

 ぐっと拳を握るシャルロットの姿を階段の影に隠れて見つめ、思う。

 

「俺、どうしたら良いのだろう」

 

 と。噛んでる辺りはいつものシャルロットだが、気負いすぎてるというか、手段さえ問わない感じになってきてるというか。

 

(ひょっとして、おれ の せい ですか?)

 

 そう言えば、シャルロットがおかしくなったのは、シャルロットのコンディションを万全にしようと村の観光に連れ出して神殿に行ってからだったような気がする。

 

(様子を詳しく確認しようにも……だああっ、このフロア階段以外の遮蔽物無いし)

 

 透明になってスルーする手段がきえさりそうオンリーの状態で冒険は出来ない。

 

(目的達成後、リレミトで脱出される可能性があるからなぁ)

 

 引き返してくるところで箱と再会させようかと最初は考えていたが、一気に入り口に戻られては再会させる機会が消滅してしまう。入り口にはシャルロットが中でてなづけた魔物が待機しているのだから。

 

(先に脱出して入り口に箱を置こうにも、黙って箱を設置させてはくれないだろうし)

 

 再会を演出するには、シャルロットの足下に小石か何かを投げて気をひき、やって来たところへ縛った箱を置いて逃げるという方法ぐらいしか思いつかない。

 

(箱の外に「人間に尻尾を振る裏切り者」とか書いておけば、犯人はシャルロットの仲間になろうとしたことを快く思っていなかった魔物とかってことで解決するだろうし)

 

 これで思いついたのが、この遮蔽物のないフロアに来てからでなければ、すぐにでも決行できたのだけれど。

 

(下に降りるのを待つしかないか)

 

 このフロアで実行するのは不可能に近かった。

 

(勝負は次の階、かな)

 

 誰と戦っているんだとは、お願いだから聞かないで欲しい。

 

(……とりあえず、シャルロットは降りたな。よし、今の内に)

 

 人影が階段を下りて行くのを見届けた俺は箱を背負ったまま、走り出す。

 

(「俺達の探索は、これからだ!」)

 

 うん、何だかやっておかないと行けない気がしたんだ、すまない。

 

(「冗談はさておき、ここって何階層だったかな」)

 

 ちきゅうのへそと言うと、記憶に残っているのは引き返せと繰り返す通路の仮面だが、今のところ仮面のかかっている通路には遭遇していない。

 

(仮面の変態なら上陸した時に見たんだけど明らかに別の仮面だし)

 

 もし通路に並ぶ仮面に変態が混じっていたら、ツッコミを兼ねて一撃ぶちかます自信はある。

 

(……って、現実逃避してる場合じゃない。シャルロットを追いかけないと)

 

 気づけば、階段の前まで来ていた俺は、シャルロットが引き返してこないことを確認するなり、慌てて階段を下り始めるのだった。

 




暴走するシャルロットと困惑の主人公。

すれ違いに気づけるのか、それとも。

次回、第四百二十五話「あの仮面、壊しちゃ駄目なのかな?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。