強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百二十七話「言われてみれば」

「お師匠様、オーブとってきました」

 

 褒めて褒めてと顔が言外に語っているが、それはいい。

 

(扉以外で俺がついて行く必要なかったぐらいだしなぁ)

 

 心配していたと言えば聞こえは良いが、要するにシャルロットを過小評価していた訳で、この点は反省が必要だと思う。

 

(付いていったなんて言えないから謝罪も出来ない、その分は褒めることぐらいでしか埋め合わせ出来ないし)

 

 問題があるとすれば、あの残念な神官が見ている前で俺が押し倒される形になっていると言うことだ。

 

(ちゃんと鎧を装備してるのが残ね……いや、救いか)

 

 これが水着とかだったらどうなっていたことか。

 

「良くやった、シャルロット」

 

 何にしても一言褒めないと上から退いて貰えないかと判断して、手を伸ばしシャルロットの頭を撫で。

 

「えへへ、お師匠様ぁ」

 

「ちょ」

 

 顔を寄せてこられて思い知らされた、選択の過ちを。

 

「これこれ、仲間内で騒がぬように」

 

「あ」

 

 だから、足下から声が聞こえた時だけは残念神官グッジョブと思ったのだ。

 

「続きは宿屋でするがいい」

 

 残念神官は残念神官でしかないというのに。

 

「や、宿屋? あぅぅ」

 

「ちょっと待て、続きとは何だ? と言うか、シャルロットお前も顔を染めるな」

 

 あの しんかん ごかい を まねく ようなこと を いいはなち やがった。

 

「ともかく……よくぞ無事で戻った」

 

 無事で戻った、じゃねーよ。無視すんな。

 

(さっき の しかえし ですか?)

 

 存外ありうる気がする。

 

「お前が勇敢だったか、それはお前が一番よく知っているだろう。意外と大胆なのは

たった今、理解したが」

 

「え、あ、違っ、ボク……」

 

「シャルロット……すまないが、退いて貰えるか?」

 

 忍耐にも限度というものがある。顔を赤くして上で混乱するシャルロットに頼むとひゃいと悲鳴のような声を上げて勇者は横に移動し。

 

「さあ、行くがよい! 宿屋に」

 

「やかましい」

 

 死なない程度には抑えたが、拳は止められなかった。

 

「おぼぇい」

 

 謎の悲鳴をあげて神官は吹っ飛び、ばたりと床に倒れ伏す。

 

「ふぅ」

 

 作法は存じている。

 

(ここで「やったか」とか言っちゃいけないんだよね)

 

 世界の悪意がロクでもない展開を運んでくることは学習済みだ。フラグなど立てるつもりは毛頭無い。

 

「え、えーと……」

 

「また一つ、悪が滅びたな」

 

 おそらく挑戦者が少なくて暇をしていたと言うことなのだろうが、純真な女の子をからかうとか悪質すぎた。

 

「と、冗談はさておき……話を聞こう。オーブを入手したことは先程聞いた。飛び込んでくる程元気があるところからすると怪我も大丈夫そうだが……宝箱の魔物には遭遇しなかったのか?」

 

 俺は完全に伸びた残念神官から床にちょこんと女の子座りしたシャルロットに向き直ると、そう問いかける。

 

(途中までは尾行したから知ってるけど、ここで聞かないのは不自然だからなぁ)

 

 アークマージなおばちゃんとの会話でしたミスを繰り返す気はない。

 

「あ、そうだった。……んー、丁度良いかな。あの、お師匠様、実は――」

 

 はたと膝を打ったシャルロットが、伸びた残念神官を一瞥してから語り始めた内容は、概ね俺の知っているとおりの出来事。

 

「そうか、魔物を仲間に」

 

「はい。ただ、一人で挑んだと見なされなくなるんじゃないかと思って、神殿には連れ込めなかったんです」

 

「言われてみれば」

 

 それで、魔物を連れずにここに戻ってきたのか。

 

「村に連れてくるのも、問題かなとも思ったんですけど……」

 

「いや、そこは何とかなるだろう。この神殿は村の外れだからな。魔物達は村に向かわず東か西から森を外に抜けさせてしまえば良かろう」

 

 もっとも、神官の目を欺ければ、だけれど。

 

(丁度良い具合に神官は気絶してるんだよね)

 

 シャルロットがのびた残念神官をさっきちらっと見たのは、今なら行けそうかなとか思ったのだろう。

 

「観光客に目撃される恐れもありそうだが、そこは道具屋で買ったきえさりそうで何とかなるしな。この村にはまだスレッジの弟子が居る。オーブを取ってきて貰うついでに人前を連れて歩けぬ魔物はジパングまで送ってもらえばよかろう?」

 

「あ、そっか。さすがお師匠様」

 

「あ、あぁ。大したことはない」

 

 シャルロットが手放しで賞賛してくれると、シャルロットの新しいお友達がどうやって神殿を通行するかを失念していた俺としてはちょっと後ろめたいものがある。

 

(残念神官を気絶させたのはたまたまだし、きえさりそう云々もこの場で思いついたことだしなぁ)

 

 そもそも。

 

「凄いのは、一人でこの試練をやり遂げたお前だろう。本当に良くやったな、シャルロット」

 

「お師匠さま……」

 

 頭にポンと手を置き微笑んで見せてから、シャルロットが戻ってきた方向に向き直ると俺は言った。

 

「さて、お前の新しい仲間との顔合わせもある。この残念神官が気絶している今の内だ。引き合わせて貰えるか」

 

 と。

 




ランシール神殿の人の扱いが酷い?

……ごめんなさい。進行すんなりいかせるには、ああするしか。

次回、第四百二十八話「いってらっしゃい」

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