突発的な思いつきにより、今回は番外編。
第四百二十八話は次回となります。すみませぬ。
「ええと、きえさりそうはどこだったかなぁ?」
きえさりそうのことなんて付いてきたいと言い出した魔物のみんなをどうしようかと悩んでいて、すっかり忘れていた。
(お師匠様って本当に凄いなぁ)
ボクが悩んでいた事にもあっさり解決しちゃうし、それでいて得意そうにすることもなく、それどころかボクを褒めてくれる。
「あ、あった……ねぇ、ミック。お師匠様のことどう思う?」
袋からようやく見つけ取り出したきえさりそうを片手に、ボクはちきゅうのへそからついてきたミミックに尋ねた。
「お師匠様に見合うような女の子に……なれるかな?」
戻ってきたばかりのちきゅうのへそへ挑む前日、丁度この神殿を望む場所で、ボクは呟いたんだ。
「た、ただ……今度来る時は……」
道具屋に来る途中ですれ違った、新婚旅行中の二人を思い出したから、かもしれない。
「お、お師匠様と……新婚旅行で来たいな、なんて」
冗談めかして、それでも勇者なのに勇気が出なくて、ボソボソと漏らした筈だった声は、お師匠様に聞こえていた。
「まぁ、新婚旅行を気軽に楽しめる世界にする為には……大魔王を倒さねばな」
一瞬、ぽかんとしてしまったけれど、その通りだったし、何より驚きだったのはお師匠様がそんな返し方をして下さるとは思わなかったから。
(あれって、ボクへ答えてくれたんだよね)
言われた直後は舞い上がっていた。
「とにかく、どんなことをしてでもオーブを持って帰る」
と、持てる力の全てを使ってちきゅうのへその最奥に辿り着き、戻ってきてお師匠様にも褒めて貰えたけれど、やっぱりまだお師匠様の横に並ぶには足りないと思う。
(ミックに聞いたのだって、これから一緒に旅をするから何てただの名目で……たぶん聞きたかったのは、別のこと)
続けた質問が、きっと全てだ。
(半分逃げたような形の告白に、プロポーズにさえ応じてくれたお師匠様との差を感じちゃって……)
気休めでも誰かに大丈夫と言って貰いたかったんだ。
「カパッ、ガチガチ、ガチ、ガッ」
「あはは、そう。ごめんね。……それから、ありがとう」
ただ、ちょっと質問する相手を間違えていたみたいで、ミックは言った。
「宝箱の魔物である自分に盗賊のことを聞かれてもコメントしづらい。盗賊からすれば自分達は嫌われ者だから」
と。確かに、宝箱の中身を調べられる魔法使いと違って、探索技術には優れているのに盗賊にはミミックを見破る手段がない。盗賊からすれば厄介な存在なのだろう。ただし、こうも言った。
「自分を単独で倒したお前は、充分賞賛に値する強者だ。そんなお前を相応しくないと言える者が居るとは自分には思えない」
よくよく考えると、お師匠様と顔を合わせたばかりのミックにそれ以上のことが言えるはずもない。
「うん、ボクが間違ってた」
まだこの旅、バラモス討伐の旅だって終わりじゃない。
(スレッジさんのお弟子さんにオーブを取ってきて貰って――)
お師匠様が仰るには、集めたオーブで不死鳥ラーミアを蘇らせるらしい。
(おろちちゃんのお婿さんのこともあるんだよね)
おろちちゃんにはお世話になっているから幸せになって欲しいと思う。
(イシス、かぁ。……ミリーにサラ、みんな元気にしてるかな)
はぐれメタルとの模擬戦で修行している二人がどれだけ強くなっているかも、ちょっと気になる。
「ボクだって試練を乗り越えた訳だし、成長してる……よね?」
自分の手に目を落として握ったり開いたりしてみてもあまり実感が湧かないのは、おろちちゃんに協力して貰った時の修行後と無意識に比べてしまうからだろうか。
(あの子だけ残して貰うべきかな? けど、メタリンみたいにボクのパンツ被って走り回ったら困るし)
ちきゅうのへそで出会ったメタルスライムと仲良くなれたのは、おろちちゃんの所での修行で沢山のメタルスライムと濃いお付き合いをしたからかもしれない。
(悩むなぁ。下着を被ったメタルスライム追いかけ回してる所なんてお師匠様に見られたら……)
けど、イシスで再会した時、ミリーがすごい呪文の使い手になってることも考えられる。
「あ」
追い越されないためにも、何て考えかけたところで、口から声が漏れた。
(どうしよう……)
失念していた、何でこんな事に今更気づいたんだろうって程に重要なことを。
(ミリーもお師匠様の事が好きなのに――)
昨日の告白は、抜け駆けであり裏切りだったんじゃないだろうか。
(あんなのフェアじゃなかった、今からでもお師匠様にっ)
そこまで考えてから、心の中で別の自分が問う。
「他人の思いを許可無く打ち明けていいの? 打ち明けないなら、何をどう説明するつもり?」
別の自分は尚も言う、黙っていればいいと。
「……シャルロット?」
有効な反論を思いつかないまま立ちつくすボクの背にかかったのは、お師匠様の声だった。
一般論を言ったつもりで、シャルロットにとんでもない誤解をさせていた主人公。
気づけ主人公、間に合わなくなっても知らんぞーっ!
次回、第四百二十八話「いってらっしゃい」