「シャルロット……」
ハルナさんを見送った俺は視線を戻すと、何処か心ここに在らずの態の勇者に声をかける。
「あ、お師匠様」
「大丈夫か? 先程もぼーっとしていたようだが……」
顔を上げたシャルロットの様子は気になったが、だからといってハルナさんを呼びに行ったことは後悔していない。
(相談になら、こうやって乗れる訳だし)
ハルナさんが戻ってくるまでは二人っきりだ。
(何か悩んでるとしてもその理由を聞く機会は いくらでも――あ、ミミックも居るの忘れてた)
足下に置かれた宝箱の存在に気づかないとか、盗賊としては不覚すぎである。
(けど、本当に口を閉じたら宝箱そっくりだよなぁ、ミミック)
足下に目をやってマジマジ見るが、パッと見では普通の宝箱と見分けがつかない。
(これなら町中でも充分連れ歩けるな。連れ歩くという表現が正しいか微妙だけれど)
宝箱は普通跳ねたり動いたりせず、よって移動は俺かシャルロットが荷物として持つか背負う形になる。
(原作でも鎧が入ってる箱とかあったけど、案の定というか……)
ミミックのサイズは、鎧が一個はいる程に大きい。
(これだけ大きいと背負子か何かで背中に負ぶって運ぶのがベストだよなぁ)
手が塞がってしまうのは拙いし、ロープでくくりつけるのは、ちきゅうのへそので縛られていたことをミミックが思い出しそうで使えない。
「……道具屋までは普通に手で持って行って、そこで運搬用の器具を買うか」
そもそも船に積み込む物資を買い込まなければ行けないのだから、道具屋には一度寄る必要があるのだ。
(ミミック自身は主人と一緒にいたいだろうけれど、弟子とは言え女の子に大きな荷物を持たせて自分が手ぶらはちょっとな。シャルロットも悩み事か考え事があるっぽいし)
ぼーっとしていて誰かにぶつかるなりミミックを落とすなりしてしまって運んでいた箱の正体が村の中でばれれば周囲は大パニックだ。
「とりあえず、こいつは俺が持とう」
俺はシャルロットの反応を待たずにそう宣言するとミミックを拾い上げ。
「えっ、あ。お、お師匠様すみません、ボクの仲間なのに」
我に返った様子で恐縮するシャルロットに気にするなと言いつつ、歩き出す。
「お前の仲間なら俺の仲間でもある、そうだろう?」
この強引な論理展開が出来たからこそ、何人もの人を助けられた。
(そうだよな、クシナタ隊のみんなや勇者サイモンを生き返らせることが出来たのも――)
シャルロットのお陰だった。シャルロットが勇者であり、言い方は悪いが、自分の都合でシャルロットとの関係を利用したからこそ生き返らせることが出来た。
(助けるためとは言え、強引に縁を利用したのなら、せめてこういう時ぐらいはね)
同じ理由で、シャルロットを助ける。それでもせいぜい代わりに荷物を持つ程度のことしかしていないのだけれど。
「シャルロット……どうしたのか、考え事があるのか悩み事があるのかは知らん。無理に聞くつもりもない。だがな、困ったなら頼れよ。常に師に頼りっぱなしの弟子は問題だが、お前は違う」
ちきゅうのへその攻略でも、俺は扉を一つ開けただけ。ほぼ独力で単独でオーブを確保し、戻ってきた。
「おし……しょう、さま」
「頼りがいがあるかについては微妙なところだがな」
冗談を零して肩をすくめてみるが何というか、ちょっとだけ困った。
(大きな荷物があると、死角が)
後ろだからシャルロットとぶつかることは考えなくて良いが、現在地は村と神殿を隔てた森の中、時々木の枝がミミックに当たるのだ。
(かといって、ここで降ろしてミミックに自分で進んで貰う訳にもいかないし。ギリギ
リ村人に目撃されるかも知れないって所なのが嫌らしいよな)
ピシピシ当たる枝に耐えきれず、ミミックが本性を現したところを目撃されるとアウト。
(仕方ない、最短距離を突っ切らず遠回りするか)
原作と違ってちょっと無理をすれば木と木の間を抜けることも出来たのだが、少々横着が過ぎたということだろう。
「シャルロット、少し道を変」
「お師匠様ぁっ」
背中に衝撃を感じたのは、その直後だった。
「っ、と」
よく衝撃に耐えて箱を手放さなかったと、自分を褒めたい。
「ボク……ボクっ」
「どうした、シャルロット?」
やはりシャルロットは何やら悩んでいたらしい。俺としては背中に押し当てられた柔らかい何かの感触が悩ましいが、それはそれ。
(シャルロットが抱きついてくるのは、今に始まったことじゃ無いんだよなぁ)
もう少し慎みを持つか、異性に対して警戒感を持って欲しいと思う、思うが。
(父親代わりと見られてるとすれば、無防備なのは仕様かな)
若干遠い目をしつつ、俺は抱きついてきた理由、と言うか上の空であった理由を聞いた。
「まぁ、勇者だし、バラモスに勝てるかとか悩んでた気もするから、そっち関連かな」
とか割と軽く考えながら。
残念、主人公は不正解です。
次回、第四百三十話「どうしてこうなった」