強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四十話「答えを求め」

 

「すまん、少し考え事をな」

 

 土産話をおねだりされていたこともある。

 

(いっそ、拙いところは伏せて、話してしまおうか)

 

 三人寄れば文殊の知恵、とも言う。一人でああだこうだ考えていても結論が出ないなら誰かに相談するのも手ではあると思うのだ。

 

(けどなぁ)

 

 前に迷った時、俺はどうしただろうか。選択権をシャルロットに委ねて、代わりに決めて貰ったのだ。

 

(自分の行動すら人に決めて貰わないと何も出来ないんじゃ)

 

 駄目だと思う。

 

(だから、今度のことは)

 

 自分自身で決めて、曲げずに貫く必要がある。

 

(シャルロットに任せて楽をした分は、ここで埋め合わせないと)

 

 俺がもしここで逃げたとしても、シャルロットなら本来の道筋を辿ってバラモスを倒し、ゾーマも倒して世界を平和に出来るだろう。

 

 ただ、俺が逃げなければ助かった人々が何人も命を落とし、俺が提唱したダブルパーティーも計画倒れに終わる。あれは俺の解錠呪文による行動制限の解除に寄るところが大きいのだから。

 

「とりあえず、場所を移して土産話をしようと思うのだが」

 

 まだ、結論を出した訳ではない。それでも単独行動をした手前、ねだられていた話しはしておくべきだと思って俺は切り出し。

 

「あ。そ、それじゃ……ボクの家に来て下さい。お母さんとかにもお師匠様を紹介したいし」

 

「ふむ」

 

 シャルロットに切り出されて、気づく。そう言えば勇者の母親とはまだ会って居ないことに。

 

「言われてみればそうだったな」

 

 母親からすれば、俺は大事な娘を預けている男だ。いくらシャルロットの望んだこととは言え、一言挨拶があってしかるべきだったかもしれない。

 

(最近ポカばかりだ……)

 

 何だか通常比五割増しで勇者も緊張したりソワソワしているようだが、こんな男とはいえ一応師匠だ。礼儀知らずという一面を指摘するのも憚られたのだろう。

 

「ふむ、家族に紹介と言うことは勇者様も本気ですな」

 

「むしろそこは盗賊さんの方が切り出っきゃぁぁぁぁ」

 

 こちらを伺いつつ何やら呟いていた約二名の片方が急に悲鳴をあげたが、もしかしなくてもバニーさんの仕業に違いない。

 

「エーローウーサーギぃ……」

 

「ああ、その、ごめんなさい。ごめんなさいっ」

 

 案の定と言うべきか、地の底から聞こえてきそうな魔法使いのお姉さんの声にひたすら頭を下げるバニーさんを横目で確認した俺は、軽く嘆息するとシャルロットを促す。

 

「行くか」

 

「そ、そうですね……えーと、それじゃみんなまたね?」

 

 苦笑いで応じ、他の面々に手を振った勇者を伴って、酒場の戸口を抜け。

 

「あっ、居た居た。酷いじゃないのさ、あたいを置いて行くなんて」

 

「「あ」」

 

 こちらにやって来る女戦士を見つけた二人の声は見事に重なった。

 

(そういえば、休暇の時にも居なかったような……)

 

 たぶん、あの時レーベに置いてきてしまったのだ。その後、『マシュ・ガイアー』はルーラで直接アリアハンに来てしまったし、女戦士が一緒にいなかったと言うことは、シャルロットもレーベではなくこっちに直接帰ってきてしまったのだと思われる。

 

「すまん」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ま、謝ってくれたんならいいさ」

 

 俺達が謝ると、女戦士は肩を一つ竦めただけですませ。

 

「それより、あれから何があったか聞いてもいいかい?」

 

 かわりに当然とも思える要求をした。

 

(あー、ひょっとしてダブルパーティーの辺りから説明しないと行けないのか)

 

 となると、外で出来るような話ではない。

 

「そうだな……所でどの辺りまでは把握している?」

 

 頷きつつも、そう口にしたのは単なる確認のつもりだった、だが。

 

「んー、あの仲間を呼ぶしつこい虫を倒して一緒に塔からレーベに行って――」

 

「ん?」

 

「どうしたんだい?」

 

「いや、何でもない」

 

 何気ない女戦士の一言が引っかかった。

 

(仲間を呼ぶ……)

 

 問い返されて頭は振ったものの、頭の中ではそのキーワードを反芻し。

 

(ひょっとしたら、これで問題のうち1/3は片づくかも)

 

 唐突にアイデアが閃く。

 

(ヒントって意外な所に転がってるものなんだなぁ)

 

 残りは二つだが、この分なら何とかなるかも知れない。

 

(もう一度サイモンと話し合ってみるか)

 

 この分だと何か見落としてる可能性だって考えられる。

 

「なら、これからシャルロットの家に行くところだ、話はそこでしよう」

 

「えっ」

 

 俺がそう答えると、シャルロットがいきなり声を上げ。

 

「拙かったか?」

 

「あ、ううん……そ、そんなことない、よ?」

 

「そうか」

 

 訝しんで向けた問いへ、何やら慌てて否定する勇者と一緒に俺達は大通りを横断すると、家の入り口がある裏手に回り込む。

 

(さて、どちらにしろ伏線は仕込んでおくべきだろうな)

 

 シャルロットの様子も気にはなったが、もっと優先すべきモノが今の俺にはあった。

 

(1/3とは言え、解決手段が見つかったんだ、だったら俺も腹をくくるべきなのかも知れない)

 

 次の問題が解決しないことには、決意も無意味に終わる可能性があるが、自分で自分を追い込まなければまた逃げてしまいそうで、密かに決意する。

 

(話が終わったら、サイモンに会いに行こう)

 

 と。

 




忘れていた訳ではないのです。

一場面に沢山の登場人物が居ると誰が誰か解らなくなってしまう為、リストラったのです。(主に出番を)

ともあれ、女戦士の登場により光明の見え始めた主人公は徐々に覚悟を決めて行く。

次回、第四十一話「優秀な嘘」

師は弟子に語る、そを――。

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