強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百三十二話「もっと腕にシルバーを巻くとかさ」

「これで……全てですね」

 

 道具屋の主人が苦労して並べてくれた品の塔を見て、思う。

 

「シャルロットの持ってるふくろ、やっぱり反則だわ」

 

 と。

 

「手間をかけたな。これが代金だ。シャルロット、袋を借りるぞ?」

 

 道具屋の主人が持ってくるのも一苦労だった品だが、それら全てが袋一つに入ってしまって重量と質量無視だというのだから驚きだ。

 

(と言うか、これを使って名産品を大量に買い込んでさ、売りさばいたらあっという間に巨額の富も稼げるよね)

 

 勇者ならルーラという呪文による移動手段もある。経済を破壊する可能性が大いにあると言う点を除けば、一定の元では必要と思われるものの、チマチマ魔物を倒して装備の資金を集めるよりよほど効率よく資金を集められると思うのだが。

 

(こんな事に思い至る俺がおかしいのかな)

 

 と言うか、交易網作成の方だって、シャルロットに袋の片隅を借りて、各地名産品のサンプルとかを持っていったりしていれば、もっと貢献出来ていたのではないだろうか。

 

(しかし、本当によく入るわ、これ)

 

 考え事をしつつも手は止めず、品物の塔と袋の間を手が行き交う度に塔はどんどん低くなって行く。

 

(水と食料、薬に衣類……)

 

 袋に詰め込む荷物の内幾つかはこれからの船旅で俺達も消費する品だ、雑な扱いをする訳にも行かないし、品質はちゃんとチェックする必要がある。

 

「しかし、よくこれだけの乾パンや塩漬け肉があったな」

 

「神殿へ観光に訪れる方もいらっしゃいますし、そう言った方は船で来られますからね」

 

「成る程」

 

 この店にとって、訪れた船への補充品は売れ筋商品なのだろう。

 

(新婚カップルも居たし、俺達が上陸した場所とは別の海岸にも船が来ている所なのかも)

 

 そして、買い込んだ品は大半が日持ちする品。ひょっとしたら、今袋に詰め込んでいる品は新婚カップルが乗ってきた船に売るため用意したモノだった可能性もある。

 

「しかし、そうなってくるとこの近辺に出る魔物は悩みの種か」

 

「ええと、何と言いますか……それ程簡単でも無いのですよ」

 

 だが、意外にも道具屋の主人は少し困った顔で頭を振った。

 

「当然ながら、腕に覚えのない方は護衛を雇っていらっしゃるのですが、その護衛の方も薬や道具をお買いあげ頂くことがありますし。この村には武具を扱う店もありますので」

 

「ああ、そういう……人間、逞しいものだな」

 

 魔物の存在も、商売に転用しているのだから。

 

(よくよく考えてみると、この辺りで洒落にならないレベルの魔物と遭遇する可能性があるのって、俺ぐらいな訳だし)

 

 俺にとってはアレフガルドに居る凶悪な魔物が正体かもしれないあやしいかげも、ごく普通の旅人にとっては実力が伯仲した正体がわからない魔物でしかない。

 

「よし、購入した分は袋に収まったな。シャルロット、そろそろ行くぞ?」

 

 道具屋の主人と会話しつつも続けていた作業を終えると、振り向いてこの場に居るもう一人に声をかけた。

 

「え? あ、は、はいっ! ふつつか者ですがよろしくおねがいしまつ」

 

「……しゃるろっと?」

 

 だれだ、しゃるろっと に めだぱに かけた のは。

 

(やけに静かだと思ったら、また何か考え事をしてたってことですか)

 

 そこを不意打ちされたので、あんな発言が飛び出してしまったのだろうか。

 

(森で出会ったオッサンのデート発言が原因……ってことはないな)

 

 デートでふつつか者という言葉が出てくるのはおかしい。

 

(むしろ、こっちの会話をハンパに聞いていてあの新婚カップルから、自分が結婚する姿を想像してたとかそっちの方がしっくり来るし)

 

 挙式直前のシャルロット。花嫁の控え室に父親代わりとして控えていた俺。そこに花婿がやってきて、もうすぐ式なので会場に向かうと俺が言ったところで、シャルロットが花婿に一言。

 

(この流れならさっきの発言も不自然じゃないな)

 

 しかし、シャルロットの夫、か。

 

(元僧侶のオッサンは魔法使いのお姉さんとくっついたし、サイモンは息子が居る上に年齢として合わない。うーん、商人のおっさんも年離れすぎてるしなぁ)

 

 消去法をすると、アリアハンに居た武闘家のヒャッキと言うことになるのだが。

 

(そう言えば、シャルロットのこと好きなんだっけ)

 

 複雑ではある、複雑ではあるがシャルロットが幸せならそれで良いと思う。

 

(……って、何考えてるんだ俺)

 

 あぶないあぶない、俺まで想像に引っ張られるところだった。

 

(だいたい、俺じゃなぁ)

 

 一瞬想像の花婿に素の自分を重ねてしまったのは、おそらく気の迷いだろう。

 

(今の買い出しだって、デートって訳じゃないし)

 

 とりあえず、俺がすべきはこれ以上シャルロットが変なことを口走らないうちにこの店を出ることだ。

 

「では店主、邪魔をしたな」

 

「あ、待って下さい」

 

 シャルロットの腕を掴み、やや強引に店を出ようとした俺を道具屋の主人は呼び止め。

 

「色々、お買いあげ頂いたお礼です。よろしければそちらの未来の奥様とひとつずつ、どうぞ」

 

 とんでもない勘違いをしつつ手にしたモノを差し出してきたのだった。

 

 




女連れで女の子の方の態度があれですからね。道具屋が誤解しても仕方ない。

次回、第四百三十三話「どうしてこんなになるまでほうっておいたんだ」

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