強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百三十四話「ここがあのオッサンの宿ね」

「……ようやく戻ってきたな」

 

 足を止め呟く俺の目に映るのは、昨晩泊まった宿であり、最後の鍵を探しているというオッサンが滞在先として告げた場所でもあった。

 

(つまるところ、同じ宿に泊まっていたってことだよな)

 

 灯台もと暗しとでも言ったところか。

 

(まぁ、事情を聞きに行くのも良いけど、まずはシャルロットを置いてこないと)

 

 オッサンの部屋への訪問に同行させてあのオッサンがまたロクでも無いことを言い出したらめんどくさくなる。

 

「シャルロット、今日は疲れただろう。先に部屋で休むといい」

 

「えっ、ええと、お師匠様は?」

 

「ああ、俺は最後の鍵の件で少々話をしてくる。その後については、話の流れ次第だな」

 

 話がすぐに終わりそうならシャルロットをこの宿に置いて、船まで購入した物資を届けに行ってもいい。

 

(ただ、今後の予定を変更しないと行けないような話が飛び出したなら話は別だけど)

 

 割とスムーズには行ったがちきゅうのへそ攻略にもそれなりに時間はかかっている。原作では真夜中の森でも何の問題もなく進めていたが、明かり無しで夜の行軍というのは割と大変なのだ。

 

(明かり持ってたら、魔物に「ここにいるよ」って主張しているようなモンだからなぁ。おまけにあの辺りで一番厄介な敵、見た目は影だしさ)

 

 夜中に見分けるとか殆ど無理だ。月明かりとかで明るい夜なら些少マシだろうが日が沈んでしまったなら、配達の出発は翌朝に伸ばしたい。

 

(物資の配達はしなくても、最悪ハルナさんが帰ってきた後にシャルロットと船まで戻って、その時袋の中から取り出してもいいし)

 

 焦る必要はないのだ。むしろ、懸念すべきは最後の鍵の入手を何処に組み込むかだと思う。

 

(まず、かわきのつぼが必要だから、壺のあるエジンベアに行く必要がある。ここまではいい)

 

 ハルナさんが戻ってくればオーブは揃い、ラーミアの卵が安置されたほこらの方がエジンベアより近い。ここまでを踏まえると、ラーミアを復活させてからその背に乗ってエジンベアに向かうと言うルートが正解だと思う。

 

(問題は、ラーミアが何人まで背中に乗せられるのかと最後の鍵のあるほこらの沈んだ場所を俺が覚えていないことなんだよね、うん)

 

 原作では勇者一行最大四人までしか乗らなかった訳だが、俺を含んだ場合、勇者一行は五人パーティーになる。

 

(定員四人とかだったら絶対もめるよな)

 

 もし、これから尋ねるオッサンが鍵探しについてくる流れになった場合、オッサンの乗る場所も必要になってくる、船で待っていてでも貰わない限りは。

 

(まぁ、ほこらは沈んでる訳だから最終的に船旅になるわけだけどさ)

 

 ほこらが沈んだ浅瀬の場所を覚えていないのが痛い。

 

(ラーミアに乗って探すか、それとも――)

 

 船でマストに登って俺がタカの目を使うか。

 

(船長や船乗りに聞いてみるってのも手だけど……不確定要素が多いな)

 

 戻ってきたハルナさんに伝令をして貰って情報を集めるべきか。

 

(合流場所をイシスに指定しておけば元バニーさん達の合流ついでにも出来るし)

 

 エジンベアに壺があるところまでは解っているのだ。ラーミアで先にエジンベアに向かえばハルナさんが情報収集に使える時間を一日か二日増やすことも出来る。

 

(いや、ここまで考えておいてあの船の船長が浅瀬の場所を知ってるとか言うオチが待っていたとしても俺は驚かないけどね)

 

 探して旅をしていると言っていたあのオッサンが知っている可能性もあるけれど、疑おうと思えば誰でも疑える。

 

(考えていても埒があかないな)

 

 もし仮にオッサンが知っているなら問題が幾つか片づく。

 

「遅くてもお前が寝る前には戻る。ではな、シャルロット」

 

 話を聞くだけなら夕飯の前にでも良かった気はするが、話が早く終わる可能性もある。俺はシャルロットに一声かけるとカウンターであのオッサンの部屋が何処かを宿の主人に聞き、言われた部屋を目指す。

 

(月例が満月に近ければ、ふくろの中身を運んで行って浅瀬についての心当たりがないか聞いてから戻ってくるってのもアリって言えばアリだしなぁ)

 

 一番遅くなるのは、このついでに船まで足を運んだケースだ。

 

「それもまずは、これからの話次第か」

 

 呟き、足を止めた俺は目の前のドアをノックする。

 

「居るか、最後の鍵の件について話をしに来たのだが」

 

「おお、来られたか。鍵は開いている、入られよ」

 

 用件を告げると帰ってきたのは、あのオッサンの声。

 

「失礼する」

 

「よくぞ参られた。どうぞ、こちらへ」

 

 ドアノブを回して部屋にはいると、オッサンは俺を椅子に座るよう促し。

 

「……森での話は覚えているな?」

 

「うむ。まず、私が鍵を求める理由であったな?」

 

 俺が口を開けば、頷き、確認してくる。同行させるべきか、情報を渡すべきかを判断するためにも必要不可欠

 

な、オッサンの動機。

 

「妻をな、故郷に眠らせてやりたいのだ」

 

「妻?」

 

 語り始めたオッサンの話は、冒頭の時点で俺の想像を超えて重かった。

 




すれ違いに気づかず、主人公は今後を模索する。

次回、第四百三十五話「オッサンが仲間に……なるんですか?」

ネタバレを避けたらこういうサブタイになりました。

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