「魔王バラモスが現れ、世界は変わった」
オッサン曰く、魔物の凶暴化などの要因で奥さんは故郷での暮らしを諦めざるを得なくなったらしい。
「盗人に荒らされたり魔物の巣窟にならぬよう妻の故郷は入り口を頑丈な鍵で封鎖され、以来良くも悪くも手つかずのままなのだ」
「なるほど。それが理由で鍵を探していると言うことは――」
「ああ。本来の鍵は持ち主が魔物に襲われて行方が解らなくなり、それっきりだ。そちらも探したのだが一向に見つからぬ」
「そこで最後の鍵の話を何処かで聞きつけ、探し始めたという訳か」
わざわざオリジナルの鍵の捜索を止めて、探すべきモノを断片的な情報を手に入れただけの最後の鍵にしたというのは、よっぽど見つかる見込みのない紛失の仕方だったと言うことなのかもしれない。
(うーむ、そう言う理由であれば問題ないかな)
必要なのは扉を一つ開けるだけのこと。
(けど、それだったら奥さんの故郷とやらまで案内して貰って解錠呪文一つでも片づくんだよなぁ)
魔法使いになって自分が呪文を使うという発想に至ってないか魔法使いとしての適正があのオッサンになかったとかそれはそれで別の事情があったと言うことだ。
「ふむ、一度鍵を開けるだけで良いというなら……腕のいい魔法使いを頼ってみてはどうだ? 魔法使いの中でも高位の者は扉の鍵を開ける呪文を使うことが出来ると聞く」
流石に俺がスレッジになってついて行くのは無理だし、戻ってきたハルナさんもすぐに身体は空かないが、急ぐ理由が無いなら、ハルナさんを紹介するのも手だ。
「そのうち解錠呪文を覚えるであろう才能有る魔法使いです」
とか、そんな感じで。
(嘘は言っていない訳だし、「バラモス撃破後とかこっちの都合がついたらで良いなら」ってしておけば無理な約束じゃないはず)
奥さんの故郷というのは原作に出てきた覚えもないし若干気にはなるが、登場しないと言うことは立ち寄らずともバラモス討伐の任務に差し障らないという事でもある。
(鍵の回収で寄る場所かいくつか増えたのにこれ以上時間をかけるのもなぁ)
最後の鍵を探すだけでなくおばちゃんと合流する必要もある訳だし。
「助言感謝致す。だが、生憎それ程腕の良い魔法使いに心当たりがなくてな」
「そうか。だが、こちらには心当たりがある」
「な、なんと」
驚くオッサンを見て俺は補足する。
「ああ。まぁそのうち半数以上はあといくらか修行を積めば会得出来るであろうと言う但し書きが付くのだがな」
「そう言えば、森で言っておられたな」
ひょっとしたらもう会得しているクシナタ隊のお姉さんが居るかも知れないが、確認の術はない。
「急を要す理由がないなら森で話したようにそちらを紹介することも出来るが、どうする?」
旅は道連れと言うがこのオッサンを同行させた場合、発生するであろうメリットとデメリットを比べると、デメリットの方が大きい。
(部屋割りが男部屋と女部屋になって、眠れないような展開がなくなるのはメリットだけど、このオッサン森でも要らないことを言ったからなぁ)
勘違い発言をするかも知れないこと、それにシャルロットに秘密にしていることはこのオッサンにも秘密にしなくてはならない。
(僧侶と魔法使いの呪文を使えることとか、隠さなきゃ行けない相手が増えるのは明らかにデメリットだよな)
隠す人数が増えることでも隠し通す難易度は上がるが、ばれそうになった時シャルロットのように言いくるめられるかという問題もある。
(シャルロットは、俺と出会うまでレーベにすら行ったことのない世間知らずなところもある女の子だったわけだけど、このオッサンは鍵を探して旅をしてここに来てる訳だからなぁ)
例えば、イシスで咄嗟に使った透明化呪文をきえさりそうの効果と誤魔化した事があったが、あれはシャルロットがきえさりそうと言うモノをまだ見たこともなかったから誤魔化せたのだ。
(経験豊富な旅の戦士を俺の口先で騙したり誤魔化したり出来るかって言うと……やっぱり厳しいだろうし)
もし、魔法使いを紹介することでオッサンが納得するなら、代わりに最後の鍵に関する知りうる情報を全て話して貰い、ここで別れるのが妥当だろう。
「幾つかの断片的な情報を元に探すよりはそちらの方が近道か。承知した、ではお言葉に甘え魔法の使い手を紹介して頂きたい」
「解った。ただ、条件がある。最後の鍵について知りうることが有れば教えて欲しい。最後の鍵は安置されている場所が水没し今は浅瀬となっているらしくてな。それが何処なのか解れば、後は取りに行くだけなのだが」
「ぬぅ、そんなところまで突き止めておいでだったか……しかし、浅瀬と言っても世界は広い。浅瀬と言うだけであれば幾つも心当たりがあるが」
頷く俺にオッサンは首を捻り。
(あぁ、確かにけっこうあちこちにあったような……あ、そう言えば回りに陸は無かったような気もするな)
原作の浅瀬を思い出したからだろうか、連鎖的に思い出した光景を俺は補足として付け加え。
「む、陸地のない場所に有る浅瀬……そう言えばアリアハンの南当たりを船で通りかかった時、船員に聞いた気もする。『近くに浅瀬があるから神経を尖らせている』と」
「本当か?」
うまく行きすぎのような気もするが、確かめてみる価値はある。俺はオッサンに礼を言うと、クシナタ隊宛の手紙をしたため始めた。
主人公じゃありませんが、浅瀬の場所忘れてて、慌てて探しました。
次回、第四百三十六話「部屋に戻って」