強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百四十六話「お前に世界の半分、『大空』をやろう。私の部下になる気は、あ、ちょ、なにをするきさまらーっ」

「あの、ここでオーブを捧げると不死鳥ラーミアが蘇ると聞いて来たのでつけど……」

 

 謎の感動に浸っている間にシャルロットが問えば、卵の守人二人は、やはり揃ったように頷く。

 

「ええ。六つのオーブを金の冠の台座に捧げた時……「伝説の不死鳥ラーミアは甦りましょう」」

 

 原作に勇者の話すシーンは殆どなかったように思うが、もし現場に居合わせていたなら、やはりこうしたやりとりになっていたのだろか。

 

(と、感慨に浸ってる場合じゃない、目的を果たさないと)

 

 俺が我に返るまでにそれ程時間はかからなかったと思う。

 

「シャルロット。半分、頼めるか?」

 

「半ぶ……あ、はいっ。ええと、お師匠様、どうぞ」

 

 一瞬怪訝な顔をしたものの、俺が台座の一つに目をやったせいか、すぐにこちらの意図をくみ取ってシャルロットがオーブを差し出してくる。

 

「すまんな。卵の前にある後ろの台座は最後にするとして、お前は左回りでオーブを捧げてくれるか? 俺は右からまわる」

 

「わかりました」

 

「頼むぞ」

 

 こういう作業が発生した時、ランシールであった戦士のオッサンを連れてこなくて良かったとつくづく思う。

 

(あのオッサンのことだから――)

 

 余計なことを言うに違いなかった。

 

「初めての共同作業ですね」

 

 とか。

 

(そして、シャルロットが動揺するパターンだよな。まったく、だいたいシャルロットと一緒に何かするのはこれが初めてじゃ……ん?)

 

 そこまで考えて、気づいた。

 

(あれ? 今の「共同作業」発言、そもそも女性の声だったし、想像にしてはやけにリア……ル?)

 

 台座に向かって歩き始めた足を止めて振り返ると、興味深そうにこちらを見てくる守人と目があった。

 

「私達は「私達は」娯楽に飢えています「娯楽に飢えています」」

 

「やかましい!」

 

 まともな守人だと思っていたのに、ランシールの神殿の主もそうだったけどふざけすぎだろう。

 

(あー、シャルロットも固まっちゃってるし)

 

 ひょっとしたらこういう系統の話に免疫がないのかも知れない。

 

「そんなに娯楽が欲しいなら――」

 

 180度ターンしてつかつかとシャルロットの方に歩み寄った俺は、固まったままのシャルロットが持っていた袋を失敬し、口を開けて中を探る。

 

(変な性格になる本、変な性格になる本)

 

 心の中で唱えつつガサゴソと袋を漁ったのは、俺の中にも鬱屈した者がたまっていたのだろう。

 

(ん? これは本のようだな……)

 

 ようやく見つけた本取り出すと、自分が性格を変えられてしまわぬよう、背表紙でタイトルだけを確認する。

 

「『師弟と不思議な夜』……聞いたことのないタイト」

 

 師弟と言うところに若干嫌な予感はした、だが更に続けられた補足分で俺は凍り付いた。

 

「俺×性転換したシャルロットの子供はみちゃいけないお話」

 

 背表紙の短い補足から推測するとそんな感じだろうか。ちなみに、作者名はあの腐れ僧侶少女になっている。

 

(なんだこれ。あぶのーまる なんて れべる じゃないですよ)

 

 つーか、何時の間にこんな物袋に忍ばせやがった、あのアマ。シャルロットの前だと言うことも忘れて、衝動的にメラ系の呪文を唱えかけるところでしたよ。

 

(と言うかね、ちらりと見たらしおり挟んであるんですけど……誰だよ、読んでたの)

 

 シャルロット、だとは思いたくない。と言うか、何故今までこんなモノが入ってるのに気づかなかった。

 

(やっぱりあれかな、容量重量ほぼ無限のチートアイテムだからか。俺が変な要求をしたから応えちゃったとかそう言うこと?)

 

 まぁ、何にしてもこんな危険物を期待で目を輝かせたエルフ二人に渡す訳にはいかない。

 

「……台座の炎で焼却処分だな」

 

 イシスに残りメンバーを迎えに言った後、家族会議ならぬパーティー会議をして良いレベルのゆゆしき問題だが、こんな本を保持しておくことなど耐えられない。

 

(何かの手違いでシャルロットが目にするようなことがあったら、拙いどころじゃないしな)

 

 精神的汚物は消毒、じゃなかった消却してしまうに限る。

 

(ついでにあの僧侶少女も今度アリアハンに戻ったらしばこう。大丈夫だ、俺にはモシャスもレムオルもある)

 

 少しぐらいOSIOKIをしたって許されると思うのだ、流石にこれは。

 

「娯楽が欲しいなら「娯楽が欲しいなら」何ですか?「何ですか?」」

 

「っ」

 

 間が空いてしまったのは、ろくでもない本のせいだが流石にこれを渡す訳にもいかない。

 

「……これでもすればいい」

 

 少し考えて羊皮紙を取り出した俺は、守人のエルフ二人の前で「井」の字を書くと、マス目に交互に印を書き込んでいって縦横斜めいずれか一列揃えた方が勝ちというゲームを実演して教える。

 

(意趣返し出来なかったのは癪だけど、考え方によってはこれで余計なことを言われずにすむようになる訳だし)

 

 自分を納得させつつオーブを捧げる作業に戻ると、オーブの捧げられた台座に火が点るのを待ち、腐った本を台座の炎に投げ込む。

 

「ふぅ、邪なる書は滅した」

 

 だが、これで終わりではない。書き手を悔い改めさせねば、また悪しき書は作り出されるだろう。

 

「……浅瀬がアリアハンの近くで良かった」

 

 諸悪の根源と決着を付ける機会はそれ程遠くないと言うことなのだから。

 

(強襲して、確保し、OSIOKIはクシナタさんに任せるというのもありかな)

 

 別れた辺りから日数で逆算すると、イシスにつく頃には、住人が眠ったままなノアニールと住人を眠らせたエルフの女王の一件も片づいていると思うし、イシスで伝言を頼めばアリアハンでの合流も十分可能だろう。

 

「さて、手持ちのオーブは全て捧げ終えた」

 

 後は、復活までに時間を要して遅滞の生じたシャルロット側の作業が終わるのを待つのみ。

 

「いよいよ、だな」

 

 呟くと俺は早速ゲームに興じだしている守人達の元へと歩き始めた。

 




主人公「ニア 呪文を駆使してもOSIOKIしてみせる」

僧少女「な、何をするですかぁ、きさまらー」

うん、不正はなかった。

ちなみに本が紛れ込んだ経緯は、秘密。

どこかの軍人口調の魔法使いなお姉さんが、オーブを持ってきた時、主人公の元へたどり着くまでに「あ、こんなモノも預かってるでありますよ」と手渡したとか、そんなことはないのです。

次回、第四百四十七話「大空はお前のもの。よみがえれ」

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