強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百四十七話「大空はお前のもの。よみがえれ」

「私達「私達」この日をどんなに「この日をどんなに」待ち望んだことでしょう」

 

 羊皮紙を床に投げ出したまま、卵の守人達は言う。

 

(うん、「直前まで遊んどったんかぁい」とかツッコミんでも良いよね、これ)

 

 さぁ祈りましょうとかステレオで言ってらっしゃるが、投げ出された羊皮紙にはいくつもの「井」と「○×」が書き込まれていた。その間、俺とシャルロットは二人でオーブを捧げる作業をやらされたのだ。

 

(「先程は随分お楽しみでしたね」って、これは違う……と、そんな余裕もないか)

 

 守人達の向こうで大きな卵が激しく揺れ始めていたのだから。

 

「時は来たれり「今こそ目覚める時」大空はお前のもの「舞い上がれ空高く!」」

 

 守人エルフ達の呼びかけを合図とするかのように、卵へヒビが入り。

 

「っ」

 

 卵が跳ねると上部が吹っ飛んで欠片が散らばる。

 

(これ、掃除大変なんじゃ)

 

 思わず散らばった欠片に目を取られた瞬間、下の方だけしか視界に入らなかった卵がもう一度跳ね、中央辺りまでヒビが広がる。

 

「産まれる」

 

 わかっては居た、ラーミアが産まれてくることは解りきっていた。だが、間近で見るのと画面越しの原作とでは迫力が全然違う。何と言っても、人を数人纏めて乗せられるサイズの鳥なのだ。

 

(どうし……いや、迷ってちゃ駄目だ)

 

 第一印象は大切だろうし、ここでまごついてシャルロットをまま認定するようなことがあっては、目も当てられない。

 

(行こう)

 

 首を卵の中から突き出し周囲を見回している鳥の元へと歩き出す。

 

(ええと、原作だとこの後どうだったかな)

 

 うろ覚えの記憶を掘り起こそうとしながら、ただ。

 

「フォォォゥ」

 

 残った殻から跳躍し出てきたラーミアは一鳴きすると翼から煌めきを散らせ、その場で幾度か羽ばたいた。

 

(これは……杞憂だったかも)

 

 近寄ろうとした俺には目もくれず、不死鳥の身体は空へと浮かび上がり、更に上昇して行く。

 

「これが……あれが伝説の不死鳥」

 

 上空を見上げる俺の頭上を何度か旋回したラーミアはもう一度あの鳴き声を上げるとほこらの外へと飛び立ち。

 

「伝説の伝説の不死鳥ラーミアは甦りました「ラーミアは神のしもべ」心正しき者だけが「その背に乗ることを許されるのです」」

 

 空を見上げたままの俺は声に振り返り。

 

「それは良いが、何故そこでドヤ顔をする」

 

 とりあえず、ツッコんだ。

 

(こんなにフリーダムだったっけ、この二人)

 

 俺の気のせいなのか、容量の都合で原作では特定の台詞しかしゃべらせて貰えず実は元々こんなキャラだったのかは知らないが、解せぬと言うか何というか。

 

「……まあいい。これでようやく次の目的地に向かえる」

 

 背中のミミックを入れても二人と一個。定員が四人だったとしても問題はない。

 

「外に出るぞ、シャルロット。ラーミアが戻って来ないようだが、神のしもべと言うぐらいだ、俺達を放置して何処かに飛び去るとも思えん」

「あ、はい」

 

 原作知識のある俺はほこらの外で待っていることを知っているが、馬鹿正直にシャルロットに理由を言うことも出来ない。

 

「おそらくはすぐ外にいるだろう。遠くに飛び去ったなら飛び去る姿が見えた筈だしな」

 

「そう言えば、南の空には見えませんでしたね」

 

「ああ。だいたい何処かに行く事情があるなら、あのエルフ達が何か説明ぐらいはしただろう」

 

 あれだけフリーダムにやらかせるのだ、じゃなくてずっと卵を守ってきたなら、俺達の知らないようなことだって知っているだろうし、せっかく復活させたラーミアがそのまま飛び去ったら、こっちが説明を求めてくることぐらいは予想すると思う。

 

「だが、実際にはその背に乗ることを許されると言っただけ……となれば、な」

 

 バラモスと戦う時共闘してくれるとも言わなければ、俺達に新たな力をくれるとも言わなかった。つまり、言外にラーミアは俺達を背中に乗せてくれると言ったようなものだ。

 

「それがいつの日にかと今でなければ、飛び去るところをさっき目撃していなければおかしい」

 

 なら、すぐ外にいるはずと俺はシャルロットに説明し。

 

「あ」

 

「フォウ」

 

 実際、その通りだった。ほこらから出てきた俺達の姿を見つけたラーミアは短く鳴いて、身体の向きを変える。

 

「シャルロット、交渉はお前に任せる」

 

「は、はい。解りまちた」

 

 緊張からか噛んだ弟子に最初の接触を任せた理由は二つ。シャルロットがシャルロットだと言うこともあるが、俺が背中に魔物を背負っているのも理由の一つだった。

 

(心正しき者ってわざわざ念を押してるからなぁ。心が正しければ魔物でも大丈夫かも知れないけれど)

 

 この身体も問題ない。だが、今更になってふと思ったのだ、俺はその心正しき者に含まれるのかと。

 

(考えすぎかも知れないけれど、色々やらかしてるしなぁ)

 

 ラッキー何とかではない。シャルロットを含めた仲間達へ隠し事をし、時に嘘をついていることだ。

 

(世界平和の為にやむない部分は、仕方ないとしても……)

 

 他の嘘は許されるのか。

 

(最悪、俺が乗鳥拒否されても、問題はない。ルーラかキメラの翼でイシスまでは行けるし、船には乗れる。バラモス城だってもうルーラで飛べるから……)

 

 どちらかと言うと乗鳥拒否された後のシャルロットの反応の方が怖い。

 

(その時、俺は……)

 

 遠目にシャルロットと不死鳥の交渉を見つめる時間が、やたらと長く感じた。

 




遂に、ラーミアが目覚める。

……だが。

次回、第四百四十八話「そんな顔はするな、シャルロット」


ああ、やっぱり乗鳥拒否ですか。

 ちなみに原作にある「さあラーミアがあなた方を待っています」「外に出てごらんなさい」の台詞は主人公のツッコミで潰されました。

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