強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百四十九話「シャルロットの出発、俺の出発(閲覧注意)」

「さて、行くか……シャルロット」

 

 ポツリと呟く俺の顔がいつものポーカーフェイスを保てているかには疑問が残る。

 

「はいっ、お師匠様っ」

 

 とりあえず、鎧を着込んでいてくれて良かったと思うべきか。背負子を外した背中にしがみついた形のシャルロットを念のためロープで自分にくくりつけたのが今の俺の格好であり。

 

(ちょっ)

 

 油断するとシャルロットの吐息がうなじとか耳にかかる仕様だ。

 

(何、このプレイ)

 

 とりあえず、まち や しろ に つくとき は すこし てまえ で おりて、ろーぷ を ほどいてから まち に いこう と おもいます。

 

「とりあえず、このことは他言無用だぞ? 漏れれば勇者に憧れる子供の夢を木っ端微塵に破壊しかねん」

 

 伝説の不死鳥に乗った時、女勇者は縛られていましたとか正しいけど表現のおかしい伝わり方をしたら、社会的に俺が死ぬ。

 

(そう言う意味ではもうちょっと何か言い方あったんじゃないかなぁ、とか思うんだけど)

 

 恨みがましい目で見ても、俺に見えるのはラーミアの後頭部のみ。ちなみに背負子から外したミミックは手足もないので直接ラーミアにロープで縛り付けて固定している。

 

(え? らーみあ と みみっく も しばられてるって? やめてください、ひと を なんでも しばるまん みたい に いうのは)

 

 心の中とはいえ、誰に向けてのモノか解らない抗議をしてしまう辺り、俺は疲れているのかも知れない。

 

「あ、あのお師匠様っ」

 

「ん?」

 

「で、ですけどボクはお師匠様と一緒にいられて嬉しいです。それに、とっても暖かいし……」

 

 俺に呼びかけ、そうフォローしてくれるシャルロットは本当に優しい娘だと思う。

 

「そうか。ありがとう」

 

「えっ」

 

「いや、何でもない」

 

 感謝の言葉が不意に口をついて出たが、何か違う気がして頭を振る。もう少し語彙が豊富なら何か良いようもあったかも知れないが、今更だ。

 

(何より、今は――)

 

 不死鳥の背に乗り始めて空を飛ぶ時、余計なことを考えている暇はない。もし、すべき事があるとすれば、それは。

 

「さて、シャルロット。言うべきか迷ったが、敢えて言っておくことがある」

 

 真剣な顔を作ると、そこまで言ってからシャルロットの返事を待った。

 

「言っておく、ことですか?」

 

「ああ」

 

 これだけは言っておかねばならなかった。悲劇を繰り返さぬ為に。

 

「これから海を渡る。暫く降りられぬ上にこうして互いの身体をしばった不自由な状態だ」

 

 出来ればこれだけで理解してくれるとありがたかったが、数秒間をおいても反応はなく。やむを得ず俺は言った。

 

「トイレは大丈夫だな?」

 

 と。

 

(縛った上に鎧着用じゃ、解いて脱ぐ手間がいるからなぁ)

 

 不死鳥の上でそこまで出来たとしても、ラーミアはシャルロットへ背中に乗る許可を出していない。

 

(いや、出してても狭い不死鳥の上でって完全にアウトだし)

 

 今ならまだ間に合う。だが、離陸してしまえば、次の陸地は進行方向を変えない場合、テドンの南と相当距離がある。

 

(ラーミアがどれくらいの速度で飛べるかは解らないけれど、ランシールからここまで数日かかっているし)

 

 原作では全く問題にならなかった生理現象もこちらでは話が違ってくる。ラーミアにしても何日もぶっ続けで延々と世界を周回し続ける飛行など出来ないだろうし、背中に乗っている勇者一行だって耐えられるはずがない。

 

(それでしたら大丈夫です。全力で飛ばせば、あなたの言う最初の陸地まで半日もかからないでしょうから)

 

 もっとも、悩んだことを察したか、答えは当鳥からすぐにもたらされたのだが。

 

「そうか、なら安し」

 

「ご、ごめんなさいお師匠様……その、ロープを外して貰って良いですか?」

 

 そして、肩すかしを食らわせるかの如く、消え入りそうな声でシャルロットが申し出た。

 

「あ、あぁ。少し待て」

 

 俺の俺達の出発はもう少し先になるらしい。

 

「あ、ありがとうございまつ。すぐ戻ってきますね」

 

「目と鼻の先だが、魔物には気をつけるようにな」

 

 ロープを解くなりパタパタと駆けて行くシャルロットが向かう先にあるのは、ラーミアの卵があったあのほこら。まぁ、エルフ二人が暮らしていたのだ。トイレぐらい有るだろうし、無かったとしても身を隠すモノが何もない白銀の世界で用を足すよりはマシだろう。

 

「……ふぅ」

 

 いざ出発となってもたつく、家族で旅行なんかに出かける時に良くある現象だ。

 

「さて、と……シャルロットが帰ってくるま……あ」

 

 帰ってくるまでのんびりしようかと思った俺の視界にたまたま縛り付けたままのミミックが入って、ふと思い至る。

 

「ミミックって、トイレどうしてるんだ?」

 

 こちらから聞こうにも魔物の言葉はわからない。通訳出来るシャルロットはお花を摘みに言ったところだ。

 

「……シャルロットが戻ってきてから、通訳を頼むしかないか」

 

 結局俺達の出発はこんなグデグデのまま。ミミックの方は問題ないと知ったのもシャルロットが戻ってきてからだった。

 

 




お食事中の方、失礼しました。

次回、第四百五十話「伝説の不死鳥、そして空」
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