強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四話「おんなのこをなかせるやつなんてさいていだ」

「うわぁぁぁん」

 

 とりあえず勇者なら俺の胸で泣いてるよ、とか心の中で呟いてみるべきだろうか。

 

(よっぽど怖い目に遭ったんだろうなぁ)

 

 ザオラルが本当に必要だったかはさておき、死の恐怖を感じるには充分すぎる状況だった。

 

(そこから助かって人の顔を見たなら、まぁ)

 

 張り詰めていたモノが切れ、安堵とかで号泣してもしかたない。まして相手は女の子だ。

 

(しかし、勇者までリセットされてると言うことは、ダンジョンなんかの宝箱もたぶん元通りだろうな)

 

 宝箱が空いていて再度アイテムが入手不可能になっていたなら、魔王討伐に参加しない俺は何らかの方法で今もっている装備を勇者に渡すつもりだったのだ。

 

(魔王討伐に参加しないだけでも足引っ張ってるのにアイテム面で更に足を引っ張る訳にはいかないと思ってたけど)

 

 全てが杞憂に終わった。もちろん、念の為に岬の洞窟の宝箱ぐらいは確認するつもりでいるが。

 

「ひっく、ひっく」

 

(それにしても、これからどうしようか)

 

 助けてしまった以上、勇者から事情は聞く。ここまでは確定だ。

 

(が、その前に……女の子を泣きやませるにはどうしたらいい?)

 

 とりあえず背中をさすってやっているが、落ち着くにはまだ時間がかかるだろうか。

 

(誰か、助けてくれ)

 

 つくづく俺は役に立たない奴だと思う。

 

「ピキー?」

 

「ひっ」

 

 泣き声が聞こえたのかいつの間にか近寄ってきていた水色生物に少女が怯えるまで気づかなかったのだから。

 

「ピ?」

 

 ただ出来たのは無言のままむんずと水色生物を掴み。

 

「だから空気を読めと言っているだろうがっ!」

 

「ピギィィィィィ」

 

 全力で投げ飛ばすことだけだった。確か同じドラクエのナンバリングで相手を混乱させるメダパニの呪文を受けたキャラが敵を投げ飛ばすと言う行動をしたと思うのだが、同様のことは俺でも可能だったらしい。

 

「まったく……」

 

 勇者がトラウマを負って戦えなくなったら世界が詰むと言うのに。

 

(しかし、本当にどうするべきかな)

 

 どうやって勇者に落ち着いて貰おうか。さっきからやけに静かだが、間をおかずスライムと遭遇したことがよっぽどショックだったのかも知れない。

 

「……あ、あぁ」

 

「とりあえず、今日は戻るぞ? 親御さんも心配しているだろう」

 

 放心したままの勇者の肩に手を置くと、俺はキメラの翼を天高く放り投げた。

 

(こんな使い方をする為に買ってきた訳じゃないんだがなぁ)

 

 まったく、予定が狂いっぱなしである。

 

(うわっ、絶叫マシンみた)

 

 身体が引っ張られるように宙に浮き上がり思わずぎゅっと強めに抱きしめてしまった少女ごと俺の身体はアリアハン目掛けて飛んで行く。

 

「と言うかこれって着地どうすんだろ?」

 

 などと思ったのは、宙に浮いてからで。

 

「っ」

 

(ちょっ)

 

 勇者も怖かったのか俺の身体にしがみついてきて、俺は更に狼狽える。

 

(や、怖いのはわかるけど頭で足下がよく見えっ、わ、高度がどんどん下がっ)

 

 はっきり言ってもう何しても手遅れだった。後はキメラの翼が移動の為の道具であることと、俺の身体の頑強さに賭けるしかない。

 

(うおおおおおっ)

 

 女の子抱いてる手前、叫び声を口に出す訳にはいかず、ただ俺は神に祈った。無事着地出来ますようにと。

 

「……着いたぞ」

 

 抱き合うような形だったのが良かったのだと思う。俺の引きつった顔は勇者からは見えなかったはずだ。だから、何でもない風を装って少女の身体を引きはがす。

 

(はぁぁぁっ、びびったぁ)

 

 女の子の前で醜態をさらさずに済んだのは重畳である。あ、ルイーダの酒場の件はノーカンでお願いしたい。

 

(さてと、問題はここからだな)

 

 自己保身を優先するなら勇者を送りつけて後は知らんぷりという外道な選択肢もある。事情は聞けないが、我が身が大事ならそれも一つの手だ。

 

(ま、それが出来るならはなから助けなかっただろうけど)

 

 ゲームの通りなら俺が助けなくても勇者は王様の前で復活していたはずだ。おお勇者よ死んでしまうとは情けない、とか言われながら。

 

(まぁ、勇者がどうして一人だったのかは聞いておくべきだろうしなぁ)

 

 それによって此方もどう動くか決めよう。

 

「あ、あの」

 

「……今日はゆっくり休め。俺も今日はここに宿を取る。話があるなら明日聞こう」

 

 何か言い出そうとする勇者様を制すと、俺はアリアハンの城下町にくるりと背を向ける。

 

「俺はまだやることを残しているのでな」

 

 そう、大ぽかをやらかしたので埋め合わせに行くのだ。

 

(銅の剣、回収してこないと)

 

 ついでに岬の洞窟も先っちょだけ見てこよう。見上げれば太陽は随分傾いていたが、だからこそ急がなければならなかった。

 

(夜の屋外で捜し物とか無理ッ)

 

 ダッシュだ、急ぐんだ、俺。勇者と会った場所を忘れないうちに――。

 

 




プランをほぼ白紙に戻されてしまった主人公、そして盗賊は剣を探す。



続きます。



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