強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百五十一話「そう言えば、テドンに立ち寄ったことは無かったよね、俺」

「テドン、か」

 近づいてくる陸地を見つめ、ポツリと呟く。

「……お師匠様、テドンって村の名前ですよね?」

「あぁ、バラモスに反抗して滅ぼされた村の、な」

 

 俺の独り言を聞いていたらしいシャルロットに肯定がてら補足すると、俺は続けて言った。

 

「ただ、村の住民は自分達が死んだことに気づかず、夜になると動き出し日々の営みを続けているとも聞く」

 

 機会が有れば、蘇生呪文で助けられないか試みてみたいと思っていたが、シャルロットが同行している以上、今回蘇生を試みるのは無理だろう。

 

(一応シャルロットもザオラルの方なら蘇生呪文、使えるんだけど……あのこじつけにも近いでっち上げが出来るかには疑問があるし)

 

 何より、一番の問題は時刻だ。

 

「まぁ、昼間は廃村だからな。買い物も出来んし、宿屋も夜にならなければ使えん。休憩ぐらいは出来るだろうがな」

 

 壊れたり朽ちた家屋も多いと予測出来るものの、夜中は宿屋が営業出来ているのだ、ちょっと休息を取るぐらいの施設は残っていると思う。

 

(毒の沼やら人の死体やらが散見されるような場所って考えると長居はしたくないけど)

 

 元住人の方々には申し訳ないが、いくら夜中に起きあがっていようとも、処置のしていない遺体なら臭いとかがとんでもないことになってると思うのだ。

 

(いや、そんな場所にエリザを送り出しちゃったのは、俺なんだけどさ)

 

 今思い返すと、自分の配慮の足りなさを思い知らされる。

 

(エリザ……か、考えてみるとゾーマがいなかったとしても、バラモスを倒してそれで終わりにはならなかっただろうなぁ)

 

 このテドンの件にしても蘇生可能か検証し、可能なら蘇生させる必要があるし。不可能だったとしてもこの村をこのままにしておくのは忍びない。

 

(元々村とか人の集まるところが出来るのって、水場が近くにあるとか人が住むのに都合が良い理由が何かあるからってケースが多いもんな)

 

 平和になったなら、テドンの廃村も再興してまた村になるかもしれない。

 

「とにかく、そう言う訳だ。流石に延々ロープを掴みしがみついてるのも疲れるしな」

 

 まだ見ぬ廃村の今後についての思案を大まかな予想で打ち切るとシャルロットに向けテドンで一旦降りる旨を伝える。

 

(一応シャルロットじゃないけど、俺もそろそろトイレ行きたいし)

 

 エピちゃんのお仲間になるのは避けたい。

 

(トイレに行くふりをして蘇生呪文を試すってのも考えたけど)

 

 生き返った人間をどうするのかと言う問題に思い至って没にした。

 

(やるべき事は、心の準備とラーミアにくくりつけたロープ、シャルロットと俺の命綱のチェックに……)

 

 後日蘇生を試しに来るならその下準備くらいか。

 

(まぁ、楽しい休憩にならないのは確定だよな)

 

 訪れるのは、生存者ゼロの滅ぼされた村なのだから。しかも、他の村や町の例からすると、殺されたテドンの村人は原作より多いだろう。

 

(そろそろ降下しますよ)

 

(あ、あぁ)

 

 下がるテンションの中、ラーミアの声が割り込んできて、俺は声に出さず返事を返すと手の中にあるロープの感触を確かめた。

 

「シャルロット」

 

「はい、大丈夫でつ」

 

 おそらく忠告は俺だけに向けたものでは無かったと思うが、敢えて声をかければ、返事と共に俺へしがみついてくるシャルロットの力が強くなる。

 

(あ、うん。そうなるよね)

 

 吐息が、近くなった気がした。心臓の音とかは防寒具と鎧があるから解らないけれど。どっちにしても俺の発言が招いた結果ではある。

 

(降りたら、ついでに防寒具も一枚脱ごう)

 

 一面の銀世界だったあの陸地からどんどん遠ざかっていれば、当然暖かくなって行く。上空である分些少はそれでも寒かったが、地表に近づけばどうなるか。

 

(暑ぅ)

 

 女の子に抱きつかれておいて何事かと言われるかもしれないが、あついものはあつい。そして気圧の関係で耳がツーンとする。

 

(これは、下に降りたら耳抜きがいるかもな)

 

 ルーラの呪文では何ともなかった事を鑑みると、ラーミアの下降速度が目的地直前のルーラに勝っているのか、移動呪文には使用者を保護する効果まであったのか。

 

「っ、これは……」

 

 急に下降の速度が落ちたのは、そんなことを考えたからか。

 

(あー、こっちの思考ラーミアには筒抜けだもんな)

 

 きっとシャルロットも風圧で耳をやられていたのだろう。背中からラーミアに向けてかけられる声を知覚し、俺達は降りて行く。

 

「ん?」

 

 当然廃村も大きくなって行くのだが、それはいい。問題は、村の中に人影を見かけたことだ。

 

「どうしました、お師匠様?」

 

 流石に舌を噛むと思ったのか、シャルロットが尋ねてきたのは、ラーミアの着地が終わった後のこと。

 

「いや、村の中に人影を見かけてな。村人が動き出すのは夜の筈なのだが」

 

「えっ」

 

「たまたま立ち寄った旅人の可能性もある。だが、やはり気になってな」

 

 原作では魔物が中に入り込むことは無かったが、もう村は滅んでいるのだ。

 

(元々魔物除けとかを施してたとしても、機能していない可能性はあるし)

 

 ここは油断せず行くべきだろう。

 

「俺が先行して様子を見てくる。忍び歩きは得意だからな。お前はここでラーミアのロープを解いて痛んでいないかチェックをして貰えるか?」

 

 ロープを解けばミミックも戦力になる。俺は自分とシャルロットをくくりつけているロープを解きつつ、言うと、シャルロットの答えを待った。

 

 




テドンに居ないはずの昼間に動く人影、その正体とは?

次回、第四百五十二話「人影の正体は」

ちなみに、エリザではありません。

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