強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百五十五話「剣は拾った、砂漠で」

「お師匠様って、ああ言う服装が……その、お好きなんですか?」

 

 なんてシャルロットが質問してきたのも、まぁ仕方ないとは思う。

 

「いや、単にエビルマージを彷彿とさせる姿から遠ざけようとした結果だ、他意はない。その結果別の意味で人目をひきそうな格好になってしまったのは完全な俺のミスだがな」

 

 ここで大好物ですとでも言おうモノなら、シャルロットが鎧の着用を止めて似た格好を始めかねないと判断した俺は事実の一面のみを語った。

 

(なお、「だいこうぶつです」と いうの は、おれ が たかいきょうみ を しめしたら どうなるか と いうの を きょくたん に してみた いちれい で あって、じっさい に だいこうぶつ なのか とは べつ の はなし なので ごかいしないで もらいたい)

 

 続いて心の中で弁解を付け加えたのは側に心の読めるラーミアが居るからだが。

 

(まぁ、それはそれとして)

 

 表側でもこの話題を続けるのはよろしくない。

 

「それよりシャルロット、これを使ってみろ」

 

 話題を変えるべく、この砂漠で拾った剣を差し出し。

 

「えっ、これは……」

 

「吹雪の剣だ。イシスで戦ったディガスが持っていたからお前も覚えがあるだろう? あの侵攻軍にはもう一人吹雪の剣を持った者が居たらしくてな。まぁ、そいつはイシスに至る前に攻撃呪文で何者かに倒されたらしいんだが……それがこの辺りだったらしい」

 

 手癖が悪いとは言ってくれるなよと戯けて見せつつ、剣を差し出し。

 

「お師匠様、ありがとうございまつ。ボク、この剣大切にしますね!」

 

「あ、ああ」

 

 シャルロットの喜びっぷりに釈然としないものを感じつつも俺は頷いた。

 

(いや、モノとしてはアレフガルドに足を運ばないと入手困難なものだから、喜ぶのは不思議じゃないんだけどなぁ)

 

 敵からの奪った品と考えると、微妙に申し訳なくなってくる。

 

(そのうち何らかの形で補填しないと)

 

 装備はアレフガルドにでも行かなければ今より強力な品はほぼ無い、おどる宝石の一部だった宝飾品は魔物から奪ったモノだったからと言う埋め合わせには使えない。

 

(となると、普通にお店で買った宝飾品かな)

 

 誤解されると拙いし、前のと被るので指輪は止めよう。

 

(ピアスも無いな。人の耳に穴は開けさせたくないし、耳に飾るモノならイヤリングだっていいんだから)

 

 どちらにしても、次の目的地はイシスの城下町。バラモス軍の侵攻もまだ記憶に新しいが、その後宿屋などが営業を再開していたことも俺は覚えている。

 

(宝飾品の店だってあるよな)

 

 むしろ問題なのは、俺のセンスの方だと思うが、この点も元バニーさん辺りに頼れば問題ない。

 

(魔法使いのお姉さんだとアランの、元オッサンを誤解させちゃうかも知れないけど、元バニーさんはフリーだもんな)

 

 シャルロットに悪いことをしたからお詫びにプレゼントする品を選ぶのに協力して欲しいとかお願いすれば大丈夫だろう。

 

(ついでにジパングの話も聞きたいし……うん、ジパング?)

 

 そういえば、もとばにーさん には じぱんぐけいゆ で いしす へ いってもらった き が する。

 

(へ、変なことになってないよね? おろちに影響されて元バニーさんが謎の進化とか遂げてないよね?)

 

 何だか急にイシスに足を運ぶのが怖くなってきたが、ここで足を止める訳にはいかなかった。

 

(と言うか、足を踏み入れようとするのに自分からハードルあげてどうするんだよ!)

 

 おばちゃんのビジュアル改造にしても、今更思い出した元バニーさんのジパング経由にしても。

 

「さて、そろそろイシスに向かうぞ、二人とも」

 

 自己ツッコミまでしてしまったが、元バニーさんの経緯に抱いた危惧はとりあえず忘れよう。おばちゃんにはマントで身体をなるべく隠して貰えば、些少のフォローにはなるだろう。

 

「あ、はい」

 

「お洒落して町に……おばちゃん、若い頃を思い出すわ」

 

 返事をした二人を先導する形で、俺は歩く。ちなみにラーミアは降りた場所で待って貰うことにした。

 

(魔物の襲来と勘違いされるとは思わないけど、心が読める相手とつきっきりとかきついしなぁ)

 

 何より、イシスで思わぬ事態が待っていて取り乱そうモノなら、外見上取り繕っていても醜態が筒抜け状態と言うのは俺が耐えられなかった。

 

(これ以上弱みを握られてたまるか)

 

 あの不死鳥が吹聴するとは思えないが、それでも心に秘めたことを知られるのは居心地が悪すぎる。

 

(感情、趣向、性癖、何もかもが筒抜けだと思うとなぁ)

 

 自由に行きたい場所へ行けるようになるとしても支払う代償として適切だろうか。

 

「……とりあえず、ラーミアが心を読めることは事前に言っておく必要がありそうだな」

 

「そ、そうでつね」

 

 自分が体験しているからこそ、これを他者に味あわせるのは気が引ける。シャルロットが即座に同意したのは、きっと知られたくないことを知られてしまったのだと思う。

 

(想像はつくけど、ここは不干渉すべきだよな)

 

 誰にだって知られたくないこと、触れられたくないことはある。

 

(バラモス城ならルーラでも飛べる訳だし、自らの古傷を剔るような代償を差し出さなくても、ねぇ)

 

 実を言うとラーミアに頼る理由は時間短縮以外に殆どないのだ。三人の誰かがが拒否したら、ラーミア無しでバラモス城に乗り込んだっていっこうに構わない。

 

「まぁ、どうするかはアラン達と合流してから決めるとしよう。まずは……三人がこの町の何処に居るか、だな」

 

 城下町の入り口で足を止めた俺は振り返って言った。

 

「俺はマリクの屋敷へ行く。シャルロットは格闘場の方を頼む」

 

 と。

 




そう言えば、元バニーさんってジパング帰りになるんでしたよね、うん。


ミリー「ドーモ。ご主人=サマ。ミリーです」

主人公「アイェェェ、ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

……とか、そんなことはないのでご安心下さい?


次回、第四百五十六話「もう、こんなに立派になって」

サブタイトル的に、次でマリク出せたらいいなぁ。

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