強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百五十六話「もう、こんなに立派になって」

 

「さてと、時間が時間だからな」

 

 今だ訓練を続けているのであれば、マリクの屋敷は外れの可能性も高い。

 

(こっちは外れだと思うけど……)

 

 それでもシャルロットをモンスター格闘場に割り振って俺がマリクの屋敷へ向かっているのは、格闘場の方にマリクが居た場合、元バニーさんや他のみんなと一緒に居るであろうからだ。

 

(一緒にいるようじゃ男と男の話というか内緒話がし辛いし)

 

 マリクの屋敷が空振りでも、全く屋敷に帰っていないと言うことはないだろう。使用人から最近の様子が聞ければ、どこまで成長したかの判断材料ぐらいにはなると思う。

 

「それに、話を付けておかなければいけない人物も居る」

 

「まぁ、どなた?」

 

「マリクの両親だ。どうも自分の子供をイシスの王にという野心を抱いているらしくてな。いくら当人が嫁――いや、婿になりたいと思っても、反対されると面ど」

 

 そこまで説明しかけて、ふと気づく。

 

(あれ、俺って誰に説明して……)

 

 疑問を解決させるべく、振り返ると。

 

「あら?」

 

 おとこ の しせん を くぎづけ に する むちむちな みぼうじん が そこには くび を かしげていたのです。

 

(うわぁい)

 

 まんと で かくして もらってる のに でるところ が でて、ひっこむところ が ひっこんでる せいか、こうか は いまひとつ の ようでしたよ、ちくしょーめ。

 

(そう言えば、おばちゃんには指示出してなかったっけ)

 

 人型とは言え、おばちゃんも魔物。単独で町を歩くのを避け、こちらについてくる判断をしたとしても何の不思議もない。

 

(と言うか、そこまで考えると「邪魔になるから一人でぶらぶらしてて下さい」なんて言えないし)

 

 俺が側に居るというのに、男性限定とはいえ視線はおばちゃんの方に多く集まっているのだ。

 

「俺、一応この国では有名人の筈なんですけどねぇ」

 

 とか僻むつもりはない。だが、これだけ男達の視線を集めてるおばちゃんを一人で放り出したらどうなるか何て、想像力に乏しい俺にだって解る。

 

(ナンパされるよなぁ、場合によっては絡まれる)

 

 もちろん、一般人に絡まれて力ずくでどうこうされるようなか弱さをおばちゃんは持っていないものの、その手の不埒者へおばちゃんがどう出るかが解らない。

 

(騒ぎになるのは避けようとしてくれるとは思うけど、テンプレというかこういうパターンで絡んでくる奴って自分と相手の力量をまるで理解していないパターンが殆どだからなぁ)

 

 まぁ、実力差を把握する洞察力があったらアークマージに絡んで行くという自殺行為なんてする訳がないのだけれど。

 

(かと言って、このまま一緒についてきて貰った場合も……)

 

 どうなるかは解っている。解っているというか。

 

「おい、あれって……」

 

「ああ、アッサラームを呪いから救ったって人だろ? しっかし、すげぇ美人連れてるな」

 

「年上趣味だったのか。それにしてもあっちの女、いい尻してんな」

 

 げんざいしんこうけい で ふうひょうひがい に あってます が、なにか。

 

(うあああっ、またシャルロット達に変な誤解されるぅぅぅぅっ)

 

 ちくしょう、俺が何をしたって言うんだ。

 

(今すぐ服屋を探して、体型の出ないようなゆったりした服を買ってきたいとこだけど、それはそれで誤解を生む気しかしないし)

 

 きっと自分の女に服を買ってやってるとか、そんな見方をされて誤解が加速するだけだろう。

 

(どうする、いっそおばちゃんには旦那さんが居たことを会話の端に出して、そう言う関係じゃ無いんですよアピールでもしてみるべきか、いや)

 

 駄目だ。そんなことをしたところで、今度は人妻に手を出す男のレッテルを貼られるだけだ。

 

「おい、貴様っ」

 

「ん?」

 

 そうして悩んでいる時だった。俺が声をかけられたのは。

 

「貴様ぁぁぁっ、よくも――」

 

 町中だからと言う油断があったのかも知れない。

 

「良くもママンにあんな格好をっ」

 

 声の主は全力で俺に駆け寄ってきて、まず感じたのは自分の身体に何かがぶつかってきた衝撃。ポタポタと血が砂まみれの道に花を咲かせ。

 

(ママンって……いや、それよりも)

 

 出会い頭に呪文ぶっ放されてもおかしくない、なんて思ったけれどこんな事になるとは思わなかった。

 

(フラグ回収お疲れさま、とか言うんだろうか)

 

 目を落としたやみのころもにも血の染みが出来てしまっている。

 

「キャァァァァッ」

 

 ギャラリーの女性が悲鳴をあげる。

 

(……まったく)

 

 ため息でもつきたい気分だ。どうしてこうなるのか、と。

 

「何処の誰かは知らん、だが良くもママンにあんな破廉恥な格好をさせてくれたな」

 

 至近距離でそう口にした人物の顔は、よく似ていた。

 

「トロ……ワ?」

 

 おばちゃんの口から漏れたそれはおそらく、この人物の名なのだろう。

 

「良くやった! 危うく、禁断の扉を開きかかけたが、本当に良くやった」

 

 おれ の かた を ぱしぱしたたきつつ、やみのころも や じめん を はなぢ で よごしてくれやがった、まざこんやろう の。

 

「トロワ……もう、こんなに立派になって」

 

「え゛、立ぱ、っとぉ」

 

「ママァァァァン」

 

 思わず素にかえって声を上げる中、鼻血まみれのマザコン野郎は俺を放り出すとおばちゃん目掛けていきなりダイブしたのだった。

 

 




おばちゃんの子供、まさかの登場。

まともな人物だと思ってました?

グラフィック的にはウィンディの色違いですよ?

次回、第四百五十七話「立派ってそんな意味でしたっけ?」


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