強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百五十九話「主人公が変態するお話(変態描写注意)」

 

「あ、色々あって忘れてたけど戻ったらやみのころもについた血も洗い落とさないとなぁ」

 

 ポツリと呟いたのは何の理由でかと言えば、もちろん現実逃避のためだった。

 

「……さて」

 

 とりあえず、おばちゃんの居る部屋の前まで来たのはいい。

 

(そんなことより、一番の問題はあのマザコンが変態であったと言うことなんだよ)

 

 俺の装備に鼻血をつけた後、放り出しておばちゃんにダイブしたトロワが何をしたかを俺はきっちり見ている。胸の谷間に顔を突っ込んで荒ぶると「ママンの香りだ」とか言いつつ深呼吸していた。

 

(まごう事なき変態……あれは久しぶりの再会的な補正があってのことだと思うから、あそこまでしないで良いとは思うけどさ)

 

 ぶっちゃけ、全く同じ事をやれと言われて出来るかというとちょっと自信がない。

 

(おばちゃん鋭いからなぁ、照れとか躊躇いが入ればまず違和感を抱く)

 

 そもそも親子なのだ。

 

(久しぶりの再会、俺という異物がついてきたからこそ産まれた変化のレベルで違和感を抑えなければいけないとか、相当難易度高いし)

 

 やはり、長居は無用。

 

(後は俺のことを少し話題に出して、逆に不自然さを演出することで誤魔化す、ぐらいかな?)

 

 様子がおかしいとしても会ったばかりの母親の恩人がどういう人物なのか解らなくて戸惑っていると言う態にすれば、違和感があってもおかしくないと感じると思う。

 

(まぁ、あの変態マザコンっぷりからすれば、母親に近づいてくる男を警戒するのは当然だろうし、俺の事を話題に出すのは不自然じゃない)

 

 むしろまだ名前さえ知らないおばちゃんの息子とかに言及された方がよっぽど危険だ。

(うん、相当危険な綱渡りだよなぁ)

 

 けれど、トロワを縛ってしまった以上、後戻りは出来ない。

 

(正直に「おたくの娘さん暴走しないように制御したいからパンツ下さい」って打ち明けた方がマシな気がしてくるけど、それやっちゃうと俺がおばちゃんのパンツを強請ったって事実が残っちゃうし)

 

 世界が悪意に満ちていれば、パンツ下さいのくだりでシャルロットが到着し、ドアを開けるだろう。

 

(謀をする場合、常に最悪を考えて動かないと)

 

 このままマザコン成り済ましパンツ獲得作戦を敢行する場合の最悪は、言うまでもなく正体がばれた上偽装までしておばちゃんのパンツを手に入れようとしたことが知れ渡ることだが、これについては考えがある。

 

「おばちゃんのパンツを手に入れようとしたのは、勇者の師匠にモシャスした怪傑エロジジイだった、エロジジイ……と言う、ね」

 

 動機はちゃんとエロジジイと認識して貰うためエロジジイ、とかにしておけば良いだろう。

 

(トロワを変態的な縛り方で拘束した理由にもなるし)

 

 まぁ、実際は元遊び人の身体が出来る一番手慣れた縛り方だったからなのだけれど。

 

(本物の俺はスレッジに騙されて席を外していたことにすればいい)

 

 けど、すれっじ って ほんとう に べんり だと おもう。おも に こういう とき。

 

(よし、大丈夫。失敗してもみんなスレッジのせいだから)

 

 そも、モシャスにも効果時間がある。躊躇っていられるような余裕はない。

 

「ママン、いい?」

 

「あら、トロワ? ちょっと待っていてね、今鍵を開けるわ」

 

 ノックをしてからかけた声にドアの向こうから声がすると足音が近づき。

 

「あちらでのお話は済んだの?」

 

「っ」

 

 ドアを少し開けて、小首を傾げたおばちゃんの格好に絶句する。

 

(ちょ)

 

 一言で言うならバスタオル一枚だったのだ。

 

(あ、そっか。服はマザコンの鼻血で――)

 

 直後に失敗へ気づいたが、遅すぎた。胸の谷間に顔を突っ込んで荒ぶれば、ローブがどうなるかなど考えるまでもない。俺もやみのころもを洗おうと考えていたぐらいなのだから。

 

(って、納得してる場合じゃない! ドアを開けたらバスタオル一枚の母親が居たとして、常軌を逸した変態マザコン娘ならどう動く?)

 

 飛びついて押し倒すか、その場で鼻血を出しつつひっくり返るか。

 

(考えろ、考え……ん?)

 

 ノーリアクションでは怪しまれるとひたすら頭を回転させつつ視線を部屋の中に入れると、ベッドの上に並べられた布が数枚。

 

(あれは)

 

 うち一枚に目が留まったのは、仕方ない。紛れもなくそれはパンツだったのだから。

 

「あら、トロワどうしたの?」

 

「あ」

 

 おばちゃんは問うてくるが、我に返った時、目はこちらを見ていた。おそらくベッドの方に視線を向けてしまった事は気づかれたと思って良いだろう。なら、挙動不審の理由をベッドの上の布きれに被せるしかない。

 

「い、いや、その……ま、ママン、パンツ……パンツを」

 

「あらあら、まぁまぁ。そう言う事ね」

 

「え」

 

 貸して欲しいとか何か続ける前に、納得されたのは想定外であるものの、呆然とする俺を置き去りにおばちゃんはベッドの方に戻り。

 

「はい」

 

「あ、ありが……とう」

 

 差し出された目的の品を受け取りつつ、かろうじて礼の言葉を口から出す。

 

(なに、これ? うまく いきすぎ でしょ?)

 

 げせぬ。どうにも げせなかった。

 

(……とは言えうまくいったのは事実だし、だったらボロが出る前に退散した方が良いよな)

 

 ここまで来て失敗はありえない、そのまま去ろうとした俺は。

 

「けど、大丈夫だったの? 初めてでしょ、ちゃんと出来たの?」

 

「へっ?」

 

 おばちゃんの思わぬ言葉に固まった。

 

「だって、女性二人に男性一人なのにおかしな部屋割りでしょ? ひょっとしたらあなたのこと勘違いしてるんじゃないかと思って、さっき確認しに言ったのよ。そうしたら、中から激しい物音とあなたの『そう言うプレイが好みなのか』って声がしたものだから……そこで戻ってきたの」

 

 ちょ、おばちゃん なに ごかいしてるんですか。

 

(なに、それ。 なに その おち)

 

 あの時思わず名を呼んで頭を抱えたせいだろうか。

 

(呼んだから来ちゃった……とか? いや、名前を口にしたのはおばちゃんが帰った後のことだし……って、そんなことを考えてる場合じゃない!)

 

 これは、否定しないと拙い。誤解を解かないと拙い。

 

「ま、ママン。これはそう言う理由で欲しかった訳じゃなくてね? ええと、その」

 

「はいはい、恥ずかしがらなくてもいいのよ?」

 

 だめだ、べんかい しよう と してるのに てれかくし てきなもの と うけとられている。

 

(どうしよう? 一つだけ打開策はある。あるにはあるけど……)

 

 それは、パンツを変態的な理由で欲しがったと証明すると言うもの。つまり、このパンツを頭に被るとか匂いを嗅いで見せるというものだ。

 

(いや、幾ら何でも人としてやっちゃ色々拙いだろ、だけど)

 

 究極の選択を俺は突きつけられていた。

 




勘違い要素さんに仕事された結果、詰むか変態行為するかの二択を突きつけられた主人公。

このままパンツを被ってしまうのか?

次回、第四百六十話「選び取る未来」

まともなサブタイトルに見えてこのお話の後だとまともに見えない罠。

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