強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百六十話「選び取る未来」

 

「ママン。ママンはこれからもあの人間についていくのだろう?」

 

「えっ」

 

 結果から先に言えば、俺はどちらも選ばなかった。

 

「話は、あの人間から少し聞いた。これを欲しいって言い出したのも、それがあったからなんだよ、ママン」

 

 あの変態マザコンはバラモス軍の軍師を任されていると言っていた。

 

(母親への変態的マザコンっぷりからすると、離反を持ちかければあっさり応じそうだけど話はそこまでしてないしなぁ)

 

 バラモス軍に戻るかこのまま一緒にいるか決めかねていて、どちらにしても心の支えに母親の身につけていたものが欲しいとか言わせれば上手く纏まるんじゃないか。

 

(まさか、土壇場でこんな話の持って行き方を思いつくなんてな)

 

 自画自賛だが、我ながら良いアイデアだと思った。後はオリジナルの居る部屋の方に戻り、悩んだが結論を出したと言う態を装いつつ、実際はパンツを提示し忠誠を誓わせた本物へこのシナリオに沿った動きをして貰えればいい。

 

(シリアスな流れだし、「こう動けばおばちゃんが好印象を持ってくれる」とか言っておけば乗ってくる気もする)

 

 まさに起死回生の一手だ。

 

「ようやく会えた、だけど今の私には私の立場もあるから……ママンのものが欲しかったんだ」

 

「……トロワ」

 

「ありがとう、ママン。じゃあ、あの人間にも話をしないと行けないから、いくね?」

 

 パンツを欲しがっててに入れたという残念行為を俺は全力で昇華しつつ、部屋を出る。

 

(やった……うまくいった。こんなにうまく行くなんて)

 だが油断は出来ない。パンツを握りしめ感慨に浸っているところでモシャスの効果が切れ、そこにシャルロットがやってくるなんて落とし穴が用意されていてもおかしくはないのだから。

 

「人の足音は……ないな。周囲に人影も無し」

 

 トロワへの変身で知覚力まであのマザコンのレベルに落ちてはいるが、それでも首を巡らせ周囲を伺うことは出来る。

 

「急ごう」

 

 アークマージのローブはトロワから剥いできたもの。廊下でモシャスが切れれば、何故かアークマージのローブを着た俺という姿になってしまう。

 

(そこでシャルロットと鉢合わせれば面倒なことになるしな)

 

 まぁ、部屋にたどり着けたとしても、あの変態の拘束を解き、交渉するという仕事が残っているから一安心というわけには行かないのだけれど。

 

(……ふぅ、部屋に戻るところまでは、クリア。次は交渉、か)

 

 ドアの前で立ち止まると、無言のまま拳を握りしめる。

 

(大丈夫、頭が良いとしても相手はマザコンだ)

 

 苦労して手に入れたパンツだってある。気負いすぎることはない。

 

「おばちゃんのパンツを手に入れてきてやった。これをやるから忠誠を誓え」

 

 と言えば良いだけのこと。

 

(……それだけの事なんだけど、うん、何というか……)

 

 ドアを開けて目に飛び込んできたのは、下着一枚で縛られて転がっている女が一人。

 

(縛られてるのがマザコンの変態じゃなきゃアウトだよな、これ)

 

 例の体積圧縮乳袋とやらは上の下着を兼ねていたらしく、外してしまえば何も付けておらず、縛り方のせいで強調された丸出しの胸とかは明らかにモザイク対象だと思う。

 

(さっさと着せてしまおう)

 

 変態と解っていても、これはやばい。と言うか拙い。このタイミングでシャルロットがやって来ようものなら、俺は完全に終わる。

 

「ん゛んぅ? んんんっ!」

 

 目隠しをし耳栓もさせてはいるが、手が触れれば戻ってきたことは解ったのだろう。ロープを解こうとした指の先が触れると、トロワは猿ぐつわをしたまま何かを主張し出し。

 

「解った解った。今、解いてやる……あ」

 

 苦笑しつつロープを解き、気づいた。

 

(うわぁ)

 

 肌にロープの痕が付いていたのだ。

 

(へんたいてきな しばりかた した こんせき が くっきり)

 

 おそらくローブの上からだったらここまで酷いことにはなっていなかったと思う。

 

(け、けど大丈夫だ。ローブを着せれば隠れるし)

 

 回復呪文で痕跡も消せる。だから、慌てるような問題はない。

 

(これが原因で新しい扉でも開かない限り大丈……ぶ?)

 

 うん、だいじょうぶ だと しんじたい。

 

「ぷはっ、はぁ、はぁ、縛って……放置とは、中々……ハードなプレイ、だな」

 

 大丈夫と心の中で呪文の様に繰り返しつつ猿ぐつわを外し、直後に聞いた変態の第一声でもう一度ぐるぐる巻きにしたくなったが、何とか自制し、俺は話を切り出した。

 

「先程夫がどうとか言っていたが……それについて話がある」

 

「話?」

 

「ああ。夫になるつもりはない。お前はこの後、バラモスの元に戻るつもりでそう言ったのだろう? 故に、俺は要求する。軍から離反し、俺に忠誠を誓え」

 

 いずれにしても、ここでこの変態な天才をバラモスの元に返す訳にはいかない。

 

「何を言い出すかと思えば」

 

 だが、俺の要求を聞いたトロワは鼻を鳴らし。

 

「……見損なったぞ、人間。確かに貴様はママンの恩」

 

「お前のためにアンから下着を貰ってきたのだが、そ」

 

「マイ・ロード、何なりとご命令を」

 

 続けた言葉を遮って下着を見せたとたん、最後まで言わせるよりも早く足下に跪いた。

 

(いや、こうなることは解ってたけどさ)

 

 思わず素に戻って「早っ」とか叫ぶところだった。

 

「まぁいい。とりあえず、下着を譲り受けた経緯についても教えておこう。それを踏まえてどう動けばアンの心証を良くするであろうかと言う個人的な見解もな」

 

「わ、私のためにそこまで……」

 

 いや、かんげき するのは とめん が くちもと を て で おおう ふり を して わたした ばかり の ぱんつ の におい を かぐな。

 

「このトロワ、マイ・ロードの側にいつも侍り、絶対の忠誠を持ってそのお気持ちに応えることをここに誓わせて頂きます」

 

「あ、ああ……え?」

 

 そして、態度を豹変させた変態の宣言に頷いてから、気づく。

 

(そば に いつも はべり?)

 

 最善と思った判断がとんでもない墓穴を掘ってしまったことに。

 

「無論、マイロードがお望みでしたら、いつでも縛って放置して頂いて構いません」

 

 と いうか、しばって ほうち するの が しゅみ とか ごかい まで されてるんですが。

 

(いちなん さって また いちなん と いう れべる じゃないですよ?)

 

 例えば元バニーさん。俺をご主人様と呼ぶことからこの変態が同じ立ち位置にあると誤解して張り合い兼ねない。

 

(シャルロットは再会したら絶対説明を求めてくるよなぁ)

 

 エピちゃんのお姉さんのこともおばちゃんのことも知っているから、変態なのでウィンディと同じ対処法をしてみたら懐かれてしまったとか説明すれば最終的に納得してくれると思うけれど、そこに辿り着くまでに色々ありそうだ。

 

(けど、最大の問題は魔法使いのお姉さんだろうなぁ、うん)

 

 きっとお説教されるに違いない。

 

(くしなたさん? ああ、また おしおき かも しれませんね、ちくしょうめ)

 

 それもこれも俺が選択した結果だった。

 




ようやく変態を御したと思ったら、忠誠度を上げすぎて色々な方面でやばくなった件。

次回、第四百六十一話「ごめんください、マリク君はご在宅ですか?」


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