強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百六十二話「王族」

「申し訳ありません、マリク様はおそらく例の場所に居られるかと」

 

 とりあえず、トロワを寝かせて貰って仕切り直しと言う形で使用人に尋ねたところ、返ってきた答えは概ね予測していた通りのものだった。

 

「そうか、ならば合流は……そちらと言うことになるか」

 

 敢えて格闘場とお互いに具体的な場所の名をあげないのは、今居るのがマリクの屋敷であるからに他ならない。

 

(と言うか、この使用人さんが伏せてるって事は、マリクが修行している場所はまだバレていないってことだよな)

 

 修行に使えそうな広い空間かつ人目につかない場所と考えればあっさり辿り着いても良さそうな気がするけれど、盲点なのだろう。

 

(人どころか捕らえられたりてなづけられた魔物用のトレーニングスペースだもんな。そんなところで王族が修行してるなんて『王族』だからこそ思わない、か)

 

 そう、俺達が修行場所を伏せている理由はマリクの両親とその息がかかった使用人に情報が漏れないようにするためである。

 

(確か、マリクをイシスの王にしたがってるって話だからなぁ)

 

 異国の女性と一緒になるため修行しているなどと知れば、マリクの両親は即座に妨害にでると見てまず間違いない。

 

(まして、女性どころか相手は魔物だし)

 

 一応、現状では異国の女王でもあるのだが、野心を抱いているマリクの両親に明かせば、妙な方向に色気を出すかもしれない。

 

(言いくるめるのは楽になるんだけど、その場合まず間違いなくジパングの王座を手にするようにマリクへ言ってくるよな)

 

 一番最悪のケースはジパングを掌握した上でその国力を使ってイシスを制服しようと企むケースだろうか。

 

(一応マリクは王族だし、おろちとの間に子供が出来れば――)

 

 両王家の血を引く孫こそ二国を支配する王に相応しいとマリクの両親が言い出しても驚かない。

 

(王の座を狙うというか、権力欲に取り付かれる人ってテンプレートがあるのかって疑うぐらい似通った行動を取るイメージがあるもんなぁ)

 

 おろちとマリクがその手の寝言に従うとは思えないが、最後に訪れたジパングの光景を思い出すと、マリクの両親が大それた野望を抱いてもおかしくないように思う。

 

(魔物と人の共存した国ってだけなら、異なる種族が争わず暮らしている桃源郷的なイメージでもいいんだけど、住んでる魔物の一部って元バラモス親衛隊の皆さんだし)

 

 少数精鋭になるが、突出した戦闘力を有していると思う。

 

(こっちの世界で一番魔物の強い場所に配属されていた面々、しかも親衛隊だったってことはその中でもエリートだったわけで)

 

 変態だが、バラモスの下で幾つもの謀略を成功させた軍師であるエピちゃんのお姉さん、部下達に慕われている元親衛隊長のレタイト、一軍を預けても問題ない将が二人居る。

 

(強力な軍事力を持った国家と勘違いするには充分だね、うん)

 

 人は元来自分の信じたいものを信じる生き物だ。

 

(軽挙妄動されるぐらいなら何も告げずマリクをかっ掠って国外逃亡ってのも選択肢の一つだけど)

 

 息子を王にして権力を握るという野望を突然断たれたマリクの両親が自暴自棄になって反乱でも起こしたら笑えない。

 

(何処かで話を付けておく必要はあるよな、やっぱり)

 

 先にマリクと合流して、両親を説得する方法を一緒に模索するべきかとも考えた。

 

(いや、今更か)

 

 そもそもここに来た理由の一つが、マリクの両親をどうにかすることだったのだから。

 

「この部屋ザマスね?」

 

「あ、奥さ」

 

 ノックさえなく、ドアノブが動き、扉が開け放たれる。

 

「たくザマスか、うちのマリクちゃんを誑かした好色盗賊とやらは?」

 

「え゛っ」

 

 いや、ながれてき に からまれる ところ まで は そうていない でしたよ。

 

(けど、こうしょく って……)

 

 酷い誤解だったが、同行していたおばちゃんの格好を鑑みるとここで否定しても説得力は限りなくゼロに近く。

 

「いきなりご挨拶だな……」

 

 出てしまった素を誤魔化すべくポーカーフェイスを復活させると、推定マリクの母親に向き直る。

 

「ご挨拶もなにも、たくのおかげでマリクちゃんはあたくし達に行く先も告げずに屋敷を抜け出すようになったザマス。マリクちゃんはいずれイシスの王となる身、勉学に武術、身につけることはたくさんあってただでさえ時間が足りないぐらいザマスのに」

 

「ほう……」

 

 ここは酷いテンプレと出くわしたと言うべきだろうか。

 

(……語尾がザマスって)

 

 ベタ過ぎて狙ってやってるのかと疑いたくなるレベルザマスって、語尾は一時置いておくとして。

 

「その発言、取りようによっては反逆罪ととられかねんと思うが?」

 

 現女王の隣に夫は居なかったと思うが、年齢を理由に引退するような歳でも無かったように思う。

 

「全力で失言ですよね?」

 

 と言ってみた訳だが、この指摘に態度を変えるとは到底思えず。

 

「ふんっ、あの小娘にそんな度胸がある筈ないザマス」

 

 鼻を慣らしての反応に知れたのは、女王がマリク母の態度に何の対処もしていないという事実。

 

(女王が寛容なのか、それとも)

 

 このザマスさんがあまりにアレ過ぎて処置無しと放り出し、好きにさせてるのか。

 

「ともあれ、ノコノコあたくしの前に姿を現したのは丁度いいザマス。マリクちゃんの居場所、教えて貰うザマスよ! あーた達」

 

「「はっ」」

 

 半ば呆れて見ていた俺の前で、号令をかければ、ザマスの後ろから現れた屈強な男達が俺を取り囲む。

 

(あるぇ、ひょっとして武力行使?)

 

 一応勇者の師匠って事になっているのを知らないのだろうか。

 

「……どう言うつもりだ?」

 

 内心の困惑を隠しつつ、俺は問うた。

 

 




主人公、男達に囲まれ困惑する。

はたして しゅじんこう は この ぴんち を きりぬけられるのだろうか。(ぼうよみ)

次回、第四百六十三話「何だこれは? どうすればいいのだ?」

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