強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百六十三話「何だこれは? どうすればいいのだ?」

「わからないザマスか?」

 

 問い返してくるマリク母に、解らないから聞いているんだろうというツッコミが喉元まで出かかったって仕方ないと思う。

 

(おばちゃんが側にいないのは良かったのか悪かったのか。人数は揃えてきているみたいだけど……)

 

 力ずくでどうにか出来ると考えているようなら、むしろ好都合だ。

 

(蹴散らした上で、縛り上げて女王へ突き出せばいい)

 

 マリクには悪い気もするが、先方が手を出してきたなら大義名分が立つし、おろちとマリクを一緒にするための障害も片づく。

 

(ただ、幾ら何でもそこまでバカだとは思えないんだよなぁ)

 

 弟子のシャルロットはイシス防衛戦でかなりの活躍をしていた。

 

(その師匠がたかだか数名の男で何とかなると考えているなんて、あり得ない)

 

 普通に考えれば、だが。

 

「抵抗したければするといいザマスよ。その時はあーたのお友達が大変なことになるかもしれないザマスが」

 

「……そう言うことか」

 

 驚きはしない、取り囲んだ男達の人数とザマスさんの自信からすれば。

 

「ようやく解ったようザマスね」

 

「ああ、ろくでもない状況と言うことはな」

 

 勝ち誇るマリクの母親に俺は肩をすくめ。

 

「なら、大人しくマリクちゃんが何処に通っているのかを教えるザマス」

 

「だが断る」

 

 要求をはね除けた。

 

「な」

 

「だいたい、そんなことを言っている場合か。お前の言う俺のお友達とやらは凶悪な爆発呪文の使い手で、娘の方は変態な上に常識が通じん。力ずくで身柄を押さえようものならこの屋敷を吹き飛ばしかねんのだぞ?」

 

 ザマスさんは要求が通らなかった事に驚いているようだが、正直その驚愕に付き合ってる余裕など無い。寝かせて貰ってる変態マザコン娘の方に残念王族オバハンの手の者が向かったというのは俺の今の状況よりよっぽど問題だった。付き合いが短くてどう動くか予想出来ないのだから。

 

(頼むから屋敷をイオナズンで消し飛ばすとか止めてくれよ?)

 

 トロワには念のためおばちゃんに付き添いを頼んでいるから、最悪の事態は防いでくれると思うけど。

 

(娘より与しやすしと見て、このザマスさんの手下がおばちゃんに手を出そうとでもした日には……)

 

 ぶち切れたアークマージが暴れ回りかねない。

 

「そ、そんな脅しには乗らないザマスよ」

 

「そう思いたければ思うがいい。俺はただ押し通るだけだ。流石にこのまま攻撃呪文をぶっ放されると死人がでかねんのでな」

 

 この屋敷には何人もの使用人が居る。人質なんて卑怯な手を使おうとしたマリクの母は自業自得だが無関係の使用人まで巻き添えにする気もなく。

 

「くっ」

 

「ど、どういたしましょう?」

 

 怯むザマスさんへ男の一人がお伺いを立てた直後だった。

 

「マイ・ロードぉぉぉっ」

 

「べばっ」

 

 バンッと勢いよく開けた扉にマリクの母親が吹っ飛ばされたのは。

 

「トロワ……」

 

 本来なら、ここで無事だったか、とか言うべきなのだろう。

 

(うん、言うべきなんだろうけどさ)

 

 ポタポタと、床に血が落ちた。

 

「マイロード、やはりおんぶは最高ですよ。ママンのおっぱいが背中に当たって……うっ」

 

「まぁまぁ、トロワ大丈夫?」

 

 勢いよく吹き出た鼻血に変態の背中にいたおばちゃんが心配しているが、ある意味で大丈夫じゃないと言うか、これを無事であると言って良いかと聞かれると頷いていいモノか迷う。

 

「……まぁ、何だ。若干言葉に困るが、人質は居なくなったな」

 

 ついでに指揮を執る筈のマリクの母親は床か扉で頭を打ったらしく気絶しており。

 

(これって、一応トロワを褒めておくべきかなぁ?)

 

 俺の頭を悩ませたが、いつまでもただ突っ立っている訳にもいかない。

 

「まだ、やるつもりか?」

 

 状況に理解が追いつかず、棒立ちになっていた男達に問いかけつつ俺は身構え、最終通告する。

 

(いくら人間じゃないとは言え、出血過多で寝かされていた後なのにあの出血だもんな)

 

 変態マザコン娘の方はこのまま放置すると拙い。

 

(出血と言えば、床の血って俺達で掃除すべきとか?)

 

 汚したのはトロワだが、体調的に床掃除が出来るとは思えないし、おばちゃんが掃除する姿を見て追加の鼻血を出されても困る。

 

「アン、そこに転がってる女の確保を頼む」

 

 指示を出したのは、トロワからおばちゃんを引っぺがす為であり、やられたことをそのままお返しする為でもある。

 

「奥様? させ」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

「ぐげっ」

 

 こちらの意図に気づき、おばちゃんへ襲いかかろうとした男の背へ部屋にあった壺を投げつけ、直撃した男が倒れたことで生じた穴を利用してそのまま包囲を抜ける。

 

「あ」

 

「しまった」

 

「完全に形成は逆転だな」

 

 唯一の優位だった包囲も解けてしまい、主は囚われ、助け出すにはまず俺を何とかするしかない。

 

「さて、これ以上時間をかける訳にもいかん。大人げないが、少々本気を出させて貰うぞ」

 

「くっ、怯むな、かかれぇっ!」

 

 この状況下、追いつめられれば暴発するのは想定内。

 

「がばっ」

 

「ぶべっ」

 

 そして、一人目が壺一つでダウンしたことから予想は出来ていたが、全員を片付けるのにも大して時間はかからなかった。

 

「あらあら、まぁまぁ」

 

「とりあえず、後は縛るだけだな。余計な時間をかけてしまったが……」

 

 説得した場合、どれだけ時間がかかるかを思えば、まだマシか。

 

「この女の処遇も決めねばならん」

 

 個人的には国に着き出して処分して貰うつもりだったが、これでも一応マリクの親には違いない。

 

(なら、次は格闘場だな)

 

 床に転がったままのザマスさんから扉に視線を戻すと俺は鞄からロープを取り出した。

 

 

 




今日は○ッキーの日だったと思ったので、シャルロットが主人公にポッ○ーゲームをねだる小話を書こうかとちらっと思いましたが、自重しました。

そしてやっぱり縛る主人公。

次回、第四百六十四話「判断を委ねる」

ようやくシャルロットの出番が再び……かな?

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