強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百六十五話「誰にとっての想定外」

「ちょっと待っていて下さい、みんなを呼んできますから」

 

 暫く固まっていたシャルロットは、我に返るなりそう言って格闘場へ戻っていった。

 

「……説明、しそびれたな」

 

 変な誤解を招かぬ為にもさっさと背中の変態の事は話して起きたかったのだが、こうなってしまっては是非もない。

 

(それにしても、相当動揺してたみたいだなぁ、シャルロット)

 

 トロワの身体が人目を引かないようマントの下に入れて隠してはいたものの人一人をその程度で隠すなど不可能。こんもり盛り上がっていたと思うのに、スルーされたのだ。

 

「何にしても……とりあえず、コイツは降ろしておくか」

 

 再会したと思った瞬間に背中の上で変態行為を再開されてはたまらない。

 

(降ろしてる最中を見られて誤解されるって言うのも定番のパターンだけどね)

 

 こういう時、盗賊で良かったとつくづく思う。

 

(まぁ営業中の格闘場だし、シャルロット達以外にも人が出てくる可能性はあるんだけど)

 

 どちらにしても誰か近づいているかそうでないかぐらいはわかる。

 

「今の内、だな」

 

 まず周囲を確認してから一番上にかけていたゆったり目のマントをはがして敷き、そこにトロワを横たえる。この時、寝ぼけたトロワに腕を取られないよう注意しましょう。

 

(って、何で料理番組の説明みたいなことになってんの?)

 

 動揺していたのは俺も同じだったと言うことか。

 

(とにかく、降ろして寝かせなきゃ)

 

 マントを既に外して敷いてしまった今、背中の変態は丸見えだ。

 

(いくら動揺してるシャルロットだって気づくし、戻ってくるシャルロットは他のみんなも連れてくる)

 

 シャルロット達が来た時、寝かせる途中で角度的に覆い被さっているように見えたら、それだけで充分めんどくさいことになる。

 

「ふぅ、これでひとまずは大丈夫か」

 

「ん……ママン」

 

「……と言うか、そろそろ起きても良さそうな気がするが」

 

 寝言を漏らす変態マザコン娘を横目で見つつ、格闘場の入り口にも気を配る。

 

(まだ気は抜けない。あっちが……シャルロット達が来たのを見計らったかのように目を覚ます可能性だってあるんだから)

 

 本来なら、シャルロットに会う前に口裏合わせをしておきたいところだったが、相手は色々斜め上に突き抜けたマザコンである。

 

(仮にここで目を覚ましたとしても、話し合いどころじゃないよな、うん)

 

 まず、おばちゃんの居場所を聞いてくる。

 

(プラスしてこうなった経緯、かな)

 

 忠誠を誓うと言っては居たが、実の母親のパンツを貰って忠誠を誓うレベルなのだ。おばちゃんを最優先してもおかしいところはない。

 

(あと問題なのは……俺達を勇者一行だって気づいてなかったことかな)

 

 バラモス軍から離反したので、シャルロットが勇者と知る分には問題ない。

 

(拙いのは、前の肩書きを名乗っちゃう場合かな)

 

 過去にバラモスの元を去ってこちらについたレタイト達の事があるから、元と訂正すれば一瞬即発の空気になったりはしないと思うものの、不安要素しかないのが、シャルロット達を待つ時間の中、ストレスに変わって苛む。

 

(っ、耐えなきゃ。おばちゃんの子供は最低でもまだ一人はいるんだ)

 

 出来れば息子の方はまともな人であって欲しい。

 

「お師匠様ぁ~」

 

「ご主人様ぁ~」

 

「っと、いかん。考え事に意識を傾けすぎたか」

 

 元バニーさんに至っては随分久しぶりの再会のような気がするものの、おそらく気のせいだろう。

 

(色々あったからなぁ、何だか精神的に疲れることが多かった気もするし)

 

 癒やされたい、と声には出さず思う。

 

「ご、ご主人様、聞いてくだっ、あ」

 

「あ」

 

 思いつつ抱きつかれて、足を取られた。

 

「くっ」

 

 そのまま倒れれば、変態の上。どんなオチが待っているかは想像がつく。

 

「危ないところだった、な」

 

 持ちこたえられたのは、身体のスペックのお陰か。

 

「す、すみません」

 

「しかし、強くなった」

 

 足を取られたとは言え、転倒防止に身体のスペックを頼ることになったのは、元バニーさんが成長したからでもある。

 

(敢えて言っておくけど、成長っていっても胸の事じゃないですよ?)

 

 心の中で弁解してしまう理由は解らない。

 

「あふ……ママン?」

 

 いや、そんなことを考えてる場合じゃないと言うべきか。

 

(ちょっ、割と取り込み中なこのタイミングで)

 

 足下で何かがむくりと起きあがる気配がしたかと思えば、それは徐にしがみついたのだ。

 

「ママんぶっ」

 

「ひっ」

 

 元バニーさんの下半身へ、顔を丁度お尻に埋める形で。

 

「くっ」

 

 流石にこれは想定、だが放置出来るはずもない。

 

「すまん……何をしている!」

 

「んべっ」

 

 短く詫びてから、俺は元バニーさんを振り解き、しゃがみ込みながら回り込んで変態に弱めのチョップを叩き込んだのだった。

 

「復活早々これとは……」

 

 失血で寝ていた相手だからと若干手加減はしたが、いきなりなにをやらかしてくれやがるのか。

 

(まぁ、勇者一行じゃ元バニーさんが一番大きいけどさぁ)

 

 何がとは言わないが、そも大きいからといって色々と駄目だろうとも思う。

 

「……とりあえず、説明をして頂けますわね?」

 

 いや、まず駄目なのは一部始終を魔法使いのお姉さんに見られてしまった俺か。

 

(俺達のお説教は、これからだっ!)

 

 再会の初っぱなから最悪であった。

 




ある意味既定路線の様にやらかしたトロワ。

割と最悪の初顔合わせとなった変態マザコンと勇者一行。

主人公を待つお説教とは?

次回、第四百六十六話「修行の成果」




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