強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百六十七話「次の行き先」

 

「成る程な」

 

 壮観と言うべきだろうか。巨大な竜が視界の中に四体並びなかなかの迫力だと思うと同時に気づいたことがある。

 

「やはり、個人差はあるのか」

 

 いや、個人差というのもおかしいかも知れない。四体の竜の内、三体は似通った容姿で、一体だけ顕著に違う個体があったのだから。

 

「……まぁ、話は呪文の効果が切れた後の方が良さそうか。シャルロット」

 

「は、はい」

 

「ミリー達の変身した竜を見てどう思う?」

 

 名指しで質問したことには、自分の考えが他者からずれていないかという程度の、せいぜい答え合わせ程度の意味しかない。

 

「え、ええと……ミリー達だけ同じというか」

 

「マリクの竜だけ随分違ったな」

 

「ですね。と言うか、ボクはちょっと驚いたんですけど……ボクがドラゴンって言われて思い浮かべるものと一人だけ随分違っていましたから」

 

「やはり、そうか」

 

 こちらの言葉に応じたシャルロットの話に確信する。

 

「えっ、やはり、ですか?」

 

「ああ。魔法使いの使う変身呪文は他にも存在するんだが、この変身呪文にはイメージが関係するらしい」

 

 今回のケースでは己の抱いた竜のイメージを参考に四人は竜へと変じたのだと思う。

 

「それで、変身後の姿が似通っている三人は全員がアリアハンの出身。ドラゴンと言われて三人の変身した者がイメージに近いと言ったお前もアリアハンの出身だろう?」

 

 ここに一つの仮説が立つ。

 

「アリアハンには『竜と言えば、これ』と言える程のモデルになる何かが存在していて、三人だけが似通った形になったのは、同じモノを参考にしたからだ、と言う仮説がな」

 

 これなら、二種に容姿が別れた説明がつく。完璧な理論だと少しだけ俺は自画自賛し。

 

「ええと……お師匠様、その」

 

「ん? どうした、シャルロット」

 

「ミリー達の変身が似てるのって、アリアハンにモデルと言うか……スレッジさんの変身をお手本にしたからじゃ?」

 

 よりにもよってシャルロットの前で大恥をかいた。

 

(……言われてみればそうだよ。ジパングで引率したのに)

 

 何故、先人をお手本にした者とその他の違いと気づかなかった。

 

(って、失敗したと思うのも早計か)

 

 声は上げなかったし、俺にはポーカーフェイスがある。

 

「……よくその可能性に気づいたな?」

 

「えへへ。じゃあ、やっぱりお師匠様も」

 

「あくまで、仮説が立つと言っただけだからな」

 

 うそ です。してき される まで わすれてました、ごめんなさい。

 

(とは言えシャルロットのお師匠様像を壊す訳にも行かないし)

 

 後ろめたいが、今回だけは知ったかぶりを押し通そう。

 

「しかし、スレッジの変身した竜と三人の竜が似ているとすれば、マリクは全く別の竜と言うことになるな」

 

 おろちに気に入って貰えるかという意味合いで不安要素が増えてしまったが、だからといってアランの元オッサンを差し出す訳にもいかない。

 

「いや、イメージが影響するなら他の三人をお手本にドラゴラムで変身して貰うなら、あるいは――」

 

 問題はマリクがそれを良しとするかだが、説得しようにもドラゴラムの効果は持続中。まともな会話にならないだろう。

 

(思考力落ちるからなぁ、変身中)

 

 この辺りは体験した身だからよくわかる。

 

「お師匠様……」

 

「ん?」

 

「次の目的地でつけど」

 

「ああ。とりあえず、マリクがスレッジのモノに似た竜になれるかとは関係なくジパング、だろうな。まだあまり日は経っていないが、竜の女王の事も気にかかる」

 

 首尾良くカップルが誕生すれば、残る目的は二つ。

 

(最後の鍵はこの調子ならスルーしても何ら問題はない。となると、バラモスとの決戦か)

 

 時間をかけすぎれば、トロワの離反に気づいたバラモスが新たな人材を呼びかねない。

 

(おばちゃんの息子とか召喚されたらめんどくさいことになるし)

 

 呼ばれたなら探す手間は省けると言う一面があるかも知れないが、そもそもおばちゃんの息子が呼ばれると言う保証はない。

 

(ウィンディとトロワに並び立つ変態だったりした日には……ねぇ)

 

 間にあっさり倒されたエビルマージも居たような気がするが、あれだってあっさり倒すことは出来たモノの、ルーラを利用して想定外の場所から味方を出撃させるという斜め上な戦法を編み出した曲者だったはずだ。

 

(倒しちゃったからあれだけど、実は私生活では二人と同レベルの変態だったかもしれないし)

 

 バラモス軍は変態揃いだったから、それこそやっぱり出終わりそうな気がする。

 

(って、何の話だったっけ? ああ、そうかおばちゃんの息子の話、か)

 

 息子に関しては最初におばちゃんの立てたプラン通り、シャルロットにおばちゃんが同行して敵として出遭ったら説得のパターンで良いと思う。

 

(いや、その前にトロワから出来る限り情報を貰った方が良いかも。うーん、そうなってくるとこの話は後だな。この場で話すとシャルロット達に大魔王ゾーマの存在が知られてしまうし)

 

 順番から言っても、マリクの母親の処置決定の話が先だ。

 

「あとは、あちらか……」

 

 ちらりと見てみたが、四人のドラゴラムはまだ解けそうになかった。

 

 




え? マリクの竜の姿ですか?

ラーの○神竜とか?

うん、冗談です。

尚、この冗談を仕込む為に彼をマリクという何したかはご想像にお任せするのです。

次回、第四百六十八話「何度目だったかな、ここに来るのも」

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