強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百七十二話「主人公、本気を出す」

「とりあえず、マリクの強さを見て貰うと言う約束は取り付けてきた」

 

 シャルロット達の元に戻れば、待っているのは当然の如く報告だ。

 

「それで、お師匠様……おろちちゃんにはスレッジさんのこと」

 

「話した。老齢故に思いに応える見込みが薄いことも、な」

 

 以前世話になっていたからか、特におろちとの話し合いのことを聞きたがるシャルロットへ俺はヒミコの部屋で話したことをあらかた語った。

 

「では明日、そちらのマリク様が戦いますのね」

 

「ああ」

 

 流石に人前では話せない内容だったので、宿の個室での話となったが、部屋にいたのはシャルロットのみではない。魔法使いのお姉さんに頷きを返すと、荷物から兜を取り出す。

 

「まず、これを貸しておく」

 

「え、あ、ありがとうございます……これは?」

 

「ミスリルヘルム。ミスリル製の兜で、俺が知る限りこれより強度のある頭防具は殆どない。にもかかわらず、軽くて魔法使いにも扱える品だ」

 

 ぶっちゃけ、この段階ではどんな事をしても入手不可能な品でもある。アレフガルドに赴けば普通に市販されてる防具でもあるのだけれど。

 

「そんな貴重な物を僕に?」

 

「明日の勝負、勝ってくれるぐらいでないと俺にも都合が悪いのでな。出来る限り防具は性能の高いものを揃えたいところだが、後はりりょくのつえに魔法の盾、みかわしのふく辺りが限界だろうな。女性専用の防具なら入手可能でもっと強いモノがあるのだが……」

 

 何せここにはチートな水着防具を作ろうと夢見てダーマをがーたーべるとまみれにしやがった変態商人こと元バニーさんのおじさまが居るのだ。

 

「……本気、ですのね」

 

「無論だ。と言うか、なりふり構わず強さを求めるならもっと強くなる方法が他にも手は有るがな」

 

「「えっ」」

 

 周囲から驚きの声が上がるも、存在するモノは存在するのだから仕方ない。ただ、全力でオススメ出来なくもあるのだけれど。

 

「ええと、その方法……教えて頂いても良いですか?」

 

「構わんが、本当になりふり構わん方法だからな。勧められんぞ?」

 

 マリクが興味を示すもこちらの立場は変えられない。話せばドン引きされること請け合いだから。

 

「……そこまで断りを入れられると気になりますな」

 

 だって いうのに なんで がいや まで きょうみ を もちますかね、あらん の もとおっさん。

 

「モシャスという変身呪文があることは知っているな? あの呪文は異性に変身すればその性別専用の防具も身につけられる……そう言うことだ。ついでに言うなら、強さも使える呪文も変身した相手のものになる。例えば、そこのミリーに変身した場合、賢者が扱える武器防具を扱えるようになるし、魔法使いの呪文だけでなく僧侶の呪文も扱えるようになる」

 

「良いことずくめじゃないですか、お師匠様」

 

 俺の説明に感心した様子でシャルロットは言うが、メリットだけなら俺がオススメ出来ないと言うだろうか。

 

「そう思うか? 自分そっくりになられた異性が着替えるんだぞ? しかも、女性専用の防具で強力なモノとなると、ミリーのおじさまが開発しようとしていた水着になる訳だが」

 

「「あ」」

 

 ハモった声の主達は、俺の説明でようやくこのアイデアのデメリットに気づいたらしい。

 

「水着ともなれば、着る時は裸になると言っていい。モデルになったモノは、写し取られた自分の裸体を見られることになる」

 

 そして、変身した側も何かの喪失感を覚えたり、心に傷を負ってしまうのだ。

 

(と言うか、クシナタ隊のお姉さん達、なんで大丈夫だったんだろう)

 

 今思い返すと、精神的にタフすぎると思う。

 

(と言うか純粋に楽しんでたお姉さん居なかったっけ? って、ああああ゛あ゛ああ゛あ)

 

 思い出したら、心の傷が開いた。

 

「ご、ご主人様? その、大丈夫ですか?」

 

「ん? あ、あぁ……何でもない」

 

 回想で精神に大ダメージを負うとか、危ないところだった。

 

「ともあれ、一つめのデメリットがそれだ。そして、デメリットはもう一つ」

 

「えっ、まだありますの?」

 

「ああ。そもそもモシャスは他人の強さを写し取る呪文。それで勝ったとしても、証明されるのは写し取った元の相手の強さだ。夫に求める条件が強さのみのおろちがモシャスの仕組みを知れば――」

 

「好意を抱くのは、術者ではなく強さを写し取られた者、と言うことですな?」

 

 アランの元オッサンに、俺は無言で頷く。

 

「本末転倒だ。一つめのデメリットを消すなら、強い同性に変身すればいい訳だが……」

 

 変身元の他人がモテても仕方ない。

 

(アランの元オッサンが持てたら魔法使いのお姉さんとの修羅場、俺に惚れられた場合は、そもそもマリクって言うおろちの婿候補を立てた意味がないし)

 

 ついでに言うなら俺にモシャスされた場合、魔法使いと僧侶の呪文が使える事がばれてしまうと言う致命的な問題まで有してるのだ。

 

「俺が薦められないと言った理由がわかっただろう?」

 

「……はい」

 

 流石に問題が有りすぎるとわかったのか、マリクは素直に頷き。

 

「モシャス……その呪文が会得出来れば、この身体をママンの身体にして、あんなことやこんなことも……」

 

 あと、マザコン変態娘はごく普通に平常運転だった。

 

 




ぎゃぁぁぁぁっ、おろちとの戦いまでいけなかったぁぁぁぁぁっ!

すみませぬ。

次回、第四百七十三話「男を見せる日」

次回こそ、次回こそはっ!

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