強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百七十八話「やれるだけのことはやったとおもいたい」

「竜の女王のことは予め話してはあったし、マリクとくっついた経緯を鑑みれば俺が竜の女王に会いに行こうと言い出すのは想像も出来るだろう。しかし……」

 

 自分で伝言をしに行っておいて何だが、こんなにあっさり返事が返ってくるとは思わなかった。

 

「ご主人様?」

 

「ああ、いや……その、な? 一国の主が数日国を開ける予定をこんなにも早く作れたことに驚いただけだ」

 

 女王が身体を空ける為にお付きの人や文官にあたる人達が泣いていないと良いが、諸悪の根源である俺には案じる権利さえないだろう。

 

「ともあれ、おろちが作ってくれた時間を無駄にする訳にもいかん。俺は明日にでもこのジパングを発つ。行きはキメラの翼を一枚貰うが、帰りはマリクのルーラが使えるだろうからな」

 

 一枚だけ貰って行くとシャルロットに伝えてくれるよう元バニーさんへ伝えてから部屋に戻ると、昨日のようにトロワを縛ってベッドに寝かせてから布団に入る。

 

(これで、ようやく一つ肩の荷が下ろせる……)

 

 残った荷物もさっさと片付けたいところだが、処分する方法がシンプルなのはバラモスだけだ。

 

(おばちゃんの息子は何処にいるかも不明だし)

 

 娘の方はどうするか、まだ模索中。

 

(厄介なのはどっちかって言うとトロワの方か)

 

 息子の方はおばちゃんが一緒にいることが前提だが、敵として遭遇した場合でも説得で矛を収めさせたりこちらに引き込めるかもしれないのだ。

 

(マリクみたいにピンポイントであのマザコンを好いてくれる相手が出てくれば良いんだけど、まぁ無理だろうなぁ。奇跡は滅多にないから奇跡って言うんだし)

 

 マリクと出会えただけでも僥倖だったのだ、これ以上を望めば罰が当たると思う。

 

(こう、モヤモヤするけど今は保留するしかないか)

 

 横にあるベッドをちらりと見上げると、俺は目を閉じ。

 

(……寝よう)

 

 考えるのを止め意識を闇に委ねた。

 

「んっ……」

 

 そして、次の日の朝だと思う。最初に感じたのは、圧迫感だった。

 

(なんだ、これ? 金縛り?)

 

 一瞬何処かで聞いた怪談を思い出し身じろぎしようとすると、想像に反して手足は自由に動き。

 

「ん゛、んんぅーうーっ」

 

「うわあっ」

 

 目を開けるとぼやけた視界一杯にあったのは、おそらく昨晩縛った変態娘の顔だった。

 

「っ、どうした? と言うか、何故こっちにお前が居る?」

 

 おそらくさっきから感じている圧迫感の正体はトロワが胸にくっつけてる二つの凶器によるものだったのだろう。

 

(と言うか縛るだけじゃ甘かったか、今度はベッドに固定もしな……あ)

 

 そこまで考えて、思い至る。

 

「もしかして、トイレか?」

 

「ん゛ん」

 

 頷くトロワの目は、よく見ると若干涙目だった。縛られた状態で俺の側まで来たのだから相当せっぱ詰まっていたのかも知れない。

 

「そうか……ならロープを解くからとりあえず上から退け」

 

「ん゛んっ」

 

「よし」

 

 即座にころんと上からマザコン娘が転がり退いたことで、俺は布団から抜け出すと、まず腕を拘束していたロープを解いた。

 

「せっぱ詰まってるなら、手伝え。俺は足のを解く」

 

 布団を汚して追加料金&社会的に俺死亡のルートなどご免被る。

 

「解けた! いけっ、トロワ!」

 

「ん゛っ、んーんーんっ!」

 

 まだ猿ぐつわをしたまま、変態娘は部屋を飛び出して行き。

 

「……さて、朝の支度を終えたらおろちの所だな」

 

 ロープを片付け、俺は着替え始めた。

 

「ご、ご主人様おは」

 

「あ」

 

 もっとも、その前に気づくべきだったのだろう。トロワが飛び出していった時に部屋の鍵を開けていったことに。

 

「す、すみません。すみません。あ、う……」

 

「とりあえず、後ろを向いて貰えるか?」

 

 心の中の冷静な部分がナレーションをする声を聞きつつ、俺はやった来た元バニーさんにそう言い、着替えを続け思う。

 

(事件のない朝が、欲しいな)

 

 背中には平謝りする元バニーさんの声。

 

「ちょっと、今の声は何で」

 

 そしてこのタイミングで駆けつけてくる魔法使いのお姉さん。

 

 

 

 

「……と言うことがあってだな」

 

「それは、大変でしたね」

 

 その後のゴタゴタも全て、心を読める竜の女王の前では隠しようがない。一応、朝っぱらから生じたそのコントの様な出来事以外はごくすんなり話は進んだのだ。

 

「今の内に政務を経験しておく必要がある」

 

 と、合流するなりおろちが後継者に政務を押しつけ時間を作ったことをマリクに腕を絡めたまま説明し。俺は原作でもおろちが倒されるなり二代目の女王が立った事を思い出しつつ、納得し、キメラの翼を使って竜の女王の城に飛び、今こうして女王との会談に至っている。ちなみにトロワには内密の話があるから今回もノーカンと席を外して貰っている。

 

「おろちとマリクはそこの小部屋にいる。この話は流石に聞かせられんからな」

 

 まぁ、聞かれて拙い話と言うより聞かれると恥ずかしい話の方が多かった気もするけれど。

 

「子を託す親と受け取る義親の会話を聞くつもりもない。話が終われば、俺はマリク達をここに呼び、そのままジパングへ戻つもりだ」

 

 心を読める相手と同席というのが気まずいのもあるが、竜の女王の子にトロワのマザコンが伝染るようなことがあったら不祥事では済まされない。

 

(出来ればあれをどうにかする方法とか相談出来たら良かったんだけど、病竜に負担かける訳にも行かないしなぁ)

 

 朝のカオスを説明してる段階で、何かをこらえるように竜の女王の声が震えていたのもきっと負担に入ると思うから。

 

「ではな。もう会うこともないかもしれんが」

 

「そうですね。我が子の為に骨を折って下さってありがとうございました。そして、今更ですが一つだけお詫びしておきます」

 

「ん?」

 

 次の瞬間、俺は何を言われたか理解出来なかった。

 

「そなたが提示してくれた案の中に一つだけ私の病を治せるものがあったのです」

 

 




 また間延びしちゃいそうだったので、おろちからのお返事~出発して事情説明に至るまでを回想にしてしまいました。

 これで、この件もあと一話ぐらいで終わるはず。(たぶん)

次回、第四百七十九話「さて、あちらの方も復活しててくれるといいんだけど」

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