「お師匠様、みんな行くよ? ルーラっ」
シャルロットの呪文で俺と勇者サイモンを含む合計六名がポルトガに向けて飛び立つ。
(さて、ここからだなぁ)
もうすぐ到着するであろうかの地を拠点にし、一同はロマリアの関所に向かうのだ。
(関所の内兵士が居るのはロマリア側だけの筈)
魔法の鍵がないと開かない扉、最後の鍵がないと空かない鉄格子があったと思ったが、マシュ・ガイアーの解錠呪文の前には無意味。
(確か、旅の扉を抜けたの先はオリビアの岬の他にサマンオサ方面に移動出来る旅の扉もあったし)
そちらを使えば目撃者は、サマンオサ側の出口である教会の神父のみに絞られる。
(あとはサイモンさんと入れ替わるタイミングだな)
顔が割れているので、レムオルで姿を隠してついて行き、サイモンさんにはそのままマシュ・ガイアーしていて貰うと言うと言う手もある。
(サマンオサじゃ顔は割れてるだろうし……ん?)
そこまで考えて俺は大きなポカに気づいた。
(って、わざわざ旅の扉経由しなくてもいいじゃん)
そう、サイモンにキメラの翼で飛んで貰えば良いのだ、元々サマンオサにいた人間なのだから。
(色々考えてた俺っていったい……)
ちょっと悲しくなったが、ここは精神衛生上、更なるショートカットが見つかったと喜んでおこう。
(少々変更はいるけどこれで、サマンオサまで行ける)
適当なタイミングでシャルロット達を置いて、先行したことにして実際はルーラでひとっ飛びすればいい。
(問題は帰ってくる時ルーラの目的地に選べるのがポルトガしかないことだよなぁ)
そうなると、サマンオサ側の旅の扉出口で待たせ、ラーの鏡を手に入れてから戻って合流するのが良いか。
(圧政による人々の犠牲を最小限に抑えることが主目的だし)
上手いこと国を救えたらそのときは例の交易網の話を本物の王と出来ればそれで良い。正直、シャルロット達にはサマンオサ周辺の魔物は強すぎるし「ドキッ、死と隣り合わせのパワーレベリング大会」なんてやらせる気もない。
(範囲攻撃をもたないボストロールとどんなのが居たのかも覚えてない周辺の雑魚を一緒にはできないよね)
ブレス攻撃とか攻撃呪文持ちが居たらシャルロットやバニーさんはともかく、僧侶のオッサンや魔法使いのお姉さんは一発でアウトである。
(となると、どれだけ早く合流出来るかかな)
はっきり言って今の勇者一行はビジュアル的なインパクトが尋常ではない。こんな面々と旅の扉を封印する鉄格子越しに教会の神父が対面してしまったら、どうなるだろうか。
(そう、例えば――)
俺は一緒に飛んでいるシャルロット達の格好を見て、想像する。
ある日、いつもの日課である旅の扉を閉ざす鉄格子の確認をしていた神父は、物音に気づいて足を止める。
「誰か、そこに居られ――」
書けようとした声は、途中で途切れ、目は限界まで見開かれて立ちつくす神父さんに覆面とマントの怪人物がかわりに口を開いたのだ。
「えへへ。えっと、お邪魔してます?」
お邪魔してますという問題か、即座に言い返そうにも声が出てきません、何故なら。
「すみませんすみませんすみません」
身体を締め付けると同時に周囲を威圧するような背徳的な拘束衣を身につけた娘が何故かひたすら謝り倒していたのだから。
「お騒がせします」
「お、お構いなくですの」
いや、それだけではない。全身タイツに仮面の変態やあげくには人型モンスターまで鉄格子の向こうに居るではないか。これはもう緊急事態だ。
(うん、前情報無かったら教会捨てて逃げ出したって誰も責めないと思うな)
常人の理解を超えていたので、俺は間接的に自分がこの格好にさせたことを棚に上げて、まだ見ぬ神父に同情した。
(ま、それはそれとして)
続いて、衝撃に備える。我に返ったら丁度見えてきたのだ、眼前に海に面したポルトガの街と城が。
(宿は数日分部屋だけ取っておいて貰って、聖水で敵を避けつつ、まずはロマリアの関所に行くか……)
それともシャルロット達に宿の手配を任せてサイモンと一気にサマンオサに飛ぶか。
(情報だけでも手に入れておいた方がいいよな)
結論は、着地するまでに出た。
「シャル、マシュ・ガイアーの話ではここから先、ルーラで飛べるのはサマンオサだけらしい」
故にここポルトガを拠点にすると告げると、俺は更に言葉を続けた。
「そして、俺はラーの鏡を探す為、一足早くサマンオサに向かう」
「えっ」
「俺の本職は盗賊だ、戦わず逃げ回りながら情報を集めるだけなら脅威にはとられん」
シャルロットは驚きの声を上げたが、流石に弟子達に任せきりにしつつ一人だけお留守番では師としての立つ瀬だってない。
「そもそも、マシュ・ガイアーは目立ちすぎるしな」
と言う一言で納得させると、俺は宿の手配を任せてマシュ……サイモンに道具屋で買ってきたキメラの翼を手渡した。
「すまん、少々予定を変えてしまった」
「かまわん……いや、構わないッ」
もとより助けを求めたのはこちらなのだからと、サイモンは小声で言って。
「では、行くとしようッ」
「ああ。外は、こっちの方が近かったな……」
街の外に向けて歩き出した俺達二人は、やがて外に出てサマオンサに向かって飛び立つ。
(信じよう……自分を)
浮遊感と共に上昇し始めた俺は、ぐっと拳を握りキメラの翼が誘う先へと目を向けた。
そう、本来なら悲劇と強敵が待つであろう地へと。
訪れた圧政下の国、サマンオサ。
主人公を待つのは新たな出会いか、それとも。
次回、第四十六話「戦士ブレナン」
この辺りの為に保存していた検証データを上書き出来る日が、やっとくる。