強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百八十話「ジパングへの帰還」

 

「ふぅ」

 

 叫んだことで些少なりとも気は晴れたのかも知れない。

 

「……もうすぐジパング、か」

 

 どこか日本列島を思わせる島が近づいてくるのを見つつ呟き、ちらりと後方を振り返る。

 

(「色々なモノを天秤に」かぁ。選択を迫られるのは、きっとあり得たかも知れない未来だけじゃないよな。その時は俺は……後悔無く道を選び取れるだろうか?)

 

 全て知っているからこそ竜の女王が口にした言葉を胸中で反芻しつつ前へ向き直ると自分自身へ問う。

 

「……心の準備だけはしておかないとな」

 

 口をついて出たのは明確な答えとはとても呼べないモノであり。

 

「あ」

 

 思わず声を漏らしたのはこの直後。

 

「……うん、流石に今回は動揺してたからな。きっと、仕方ないと思う。けど、流石にこれは」

 

 フォローのしようもないポカだろう。

 

「トロワ、竜の女王の城に忘れて来たぁぁぁぁぁ!」

 

 いくら変態マザコン娘が相手だったとしても流石にこれは人としてどうよと言われるべき所業である。

 

(しくじった……マリクが気を利かせてこっちに戻ってくる時に回収してくれてたらいいけど、流石に自分のミスを人に拭って貰うとか色々駄目だよね)

 

 やっぱり駄目だ、俺は駄目な奴だったんだ。

 

(戻ろう)

 

 ただ、以前アリアハンでにあったように入り口でシャルロットが帰りを待っている可能性もある。

 

(とんぼ返りでルーラするところを見られたら拙い。と言うか何でこんなタイミングまで気づかないの、俺? 今から変装とか時間的に無理じゃん)

 

 頭を抱えたくなる自体の中、俺の身体は目的地に近づいたことで徐々に下降していて、空中早着替えをするような時間的余裕は皆無。

 

(もしシャルロットがジパングの入り口にいるなら、恥を忍んでトロワを忘れてきた事を告げて、キメラの翼を貰うかぁ)

 

 秘匿している事実がバレるよりは恥をかいた方がマシである。

 

「くっ、シャルロットには早く復帰して欲しいと思っていたのに……」

 

 まさかこんな事態になるとは思わなかった。

 

(魔法使いのお姉さん達が良い仕事をしたとしても素直に喜べないとか)

 

 人間、感情的になるとロクな事がない。

 

「あ、お師匠様ぁぁぁ」

 

 そして、着地予想地点の側から降りてくる俺に気づいて手を振るシャルロットの笑顔は、きっと俺への罰なのだろう。

 

(こういうとき に かぎって きっちり しごとするんですね、おねえさんたち)

 

 持ってくれ、俺のポーカーフェイス。

 

「……ただいま、シャルロット」

 

 着地するなり、とりあえず弟子に対して言葉を返す。挨拶は基本だ。

 

「どうでした、その……お話は?」

 

「ああ、おそらく竜の女王は卵を産んでマリク達へ事後を託し、息を引き取るだろう」

 

 シャルロットが知りたがった事かは解らない。それでも俺は一つの事実を告げ。

 

「ただ、な……」

 

「え」

 

「俺も少々動揺したのだろうな。竜の女王との話だからと席を外させていたのを忘れて戻ってきてしまった」

 

 素直に失敗を白状した。

 

「……と言う訳でだ、竜の女王の城までトロワを向かえに行かねばならん、それで……」

 

 気まずさと、シャルロットのお師匠様像を傷つけてしまったのではと言う申し訳なさに苛まれつつも、俺は切り出そうとした。

 

「ルーラですね? でしたら、ボクが送ります」

 

「シャルロット? いや、俺のミスだからな? キメラの翼を往復分融通して貰えれば」

 

「いいえ。大丈夫です」

 

 予想外の申し出に俺は断ろうとするが、シャルロットは頭を振り。

 

「それにボクだけじゃなくてみんな揃って竜の女王様のお城まで行けば、そのままバラモスの城に乗り込めますよね?」

 

「な」

 

 続いて示した案に俺は言葉を失う。

 

「お師匠様がマリクさん達と竜の女王様のお城に向かった後、みんなと色々お話しして、決めたんです。お師匠様が戻ってくるまでに決戦の準備を整えておこうって……それで、これがボクの新しい装備です」

 

 たぶん、シャルロットがそう言ってマントの前を開くまで、俺は気づかなかった。出迎えてくれたシャルロットがまるでてるてる坊主の様にマントで首から下を隠していたことも、その理由も。

 

「しゃ、シャルロット……?」

 

「似合いますか? ミリーのおじさまがここの刀鍛冶の人と協力して完成させた防具なんでつけど」

 

 口元に手を当て、恥じらってみせるシャルロットの身を包むそれは、白い羽根の意匠のされたビキニ。

 

「神秘の……ビキニ?」

 

「はい、ええと、ボクとミリーとさっちゃんにアンさんの分までは完成してます。トロワさんはお師匠様と一緒でしたからサイズ合わせが出来なくてまだですけど」

 

 なんぞ それ。

 

(うん、原作じゃ一着しか入手出来なかったモノを量産ってのは百歩譲って良しとしよう)

 

 だけどさ、女性陣全員水着で決戦とか、こう、何て言うんだろう。

 

(俺がバラモスだったら、全力でぶち切れると思う)

 

 主に馬鹿にされていると判断して。

 

「あー、何だ、強力な防具……とは聞いているが、いいのか?」

 

 シャルロットはあぶない水着もどきとがーたーべるとの合わせ技で以前精神的に傷を負っているし、水着で戦うのは恥ずかしいんじゃないかと俺は問う。

 

「はい。世界の平和のためですから」

 

「そ、そうか」

 

 眩しい笑顔で頷いてしまうシャルロットを見た俺はそれ以上何も言えなかった。まして、目の毒だから考え直して下さい、などとは、とても。

 

(以後の戦闘は最前列、か)

 

 水着姿のシャルロット達が視界に入るのは色々拙い。

 

(と いうか、げんさく より きわどいですよ、この びきに)

 

 刀鍛冶にあぶない水着やら何やらを預けた影響だとしたら、こんな所で祟られる事になるとは思わなかった。

 

「と、ともあれ……そう言うことなら他の皆とも合流せねばな」

 

「はいっ」

 

 何とか気を取り直しつつ促すと、俺は返事をしたシャルロットと共に宿屋の方へと歩き始めた。

 

 




刀鍛冶に危険物が預けられれた伏線及びおじさまの最終目標伏線、回収。

サラ達にシャルロットを任せた結果が、これだよ。

ちなみに、決戦準備はサラとアランの提案で、お揃い水着になったのは元ばにーさんのせい。

「決戦の準備をしておいてはどうですかな?」→「あ、あのでしたらおじさまに良い装備がないか聞いてきますね?」

と、こんな感じ。

次回、第四百八十一話「わすれていたものをとりにゆく」

うん、トロワのことなんですけどね。

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