強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百八十一話「わすれていたものをとりにゆく」

「こちらの勤めは果たしましたわよ」

 

 少し誇らしげに魔法使いのお姉さんは言う。

 

「ああ、そうだな。助かった」

 

 歩き始めてから宿屋に着くまではそれ程時間もかからず、お姉さんの言葉に俺は感謝の言葉を贈るだけ。

 

(「なんでこうなった」なんてツッコめない。ツッコめる筈がない)

 

 魔法使いのお姉さんもシャルロット同様、前をしめたマントで身体を隠していたが、そこに言及して痛い目を見るのは俺の方である。

 

(女性がほぼ全員ビキニで戦うことになった原因は魔法使いのお姉さんにはないのに、俺はポカで勇者一行に寄り道させる事になってしまった主犯だもんなぁ)

 

 反撃でトロワを忘れてきた事に言及されたら、返す言葉がない。

 

「わすれていたものをとりにゆく」

 

 とか、格好を付けても結局は恥ずかしい失敗をした自分の尻ぬぐいを自分でするだけのことなのだ。

 

「しかし、いよいよ魔王との決戦ですな」

 

 もっとも、ポカがもたらした失敗を気にしているのは、俺だけのようにも見受けられたが。アランの元オッサンは、真面目な顔を作ると、魔法使いのお姉さんの傍らで更に言葉を続ける。

 

「この国に魔王の元親衛隊の魔物が居たのはある意味で幸いでした。おかげで、魔王の城を守る魔物達の力量はだいたい把握出来ました」

 

「ほう」

 

「イシスでの修行で力を付けた我々なら、まず問題なく大魔王の元にはたどり着けるでしょう。ただし、これは城の警備態勢と構造が以前のままだった場合ですがな」

 

「まぁ、流石にそれはあるまい」

 

 トイレを借りられた上にボコボコにされたあのバラモスが何もしていないとは考えにくい。

 

(警備は強化してるだろうし、下手をすれば凶悪な罠だって仕掛けてる可能性がある。もっとも、その辺りは俺と言うか怪傑エロジジイの侵入経路をバラモスがどの程度把握しているかにもよると思うけど)

 

 フックつきロープで屋上の通路から壁を乗り越え地面に降りてショートカットしたなんてところは、魔物ならエピちゃんぐらいにしか見られていないのだ。

 

(ただ、フックの跡だとか、正解(ほんらいとおる)ルートなら遭遇しているはずの魔物がエロジジイに遭遇していない、なんて状況から反則やらかしてた事実に辿り着かれることもあり得る)

 

 エロジジイと戦った時は良いとこなしだった様な気もするバラモスだが、甘く見て失敗をやらかすよりはそれこそ後者でショートカットを見抜き、対応まで済ませてるぐらいに考えておいた方が良いだろう。

 

(まぁ、親衛隊がごっそり離反したし、ウィンディの後任が一人俺に討たれ、もう一人は竜の女王の城に置いてきぼりなのを考えると、今補佐役とか軍師ポジションにまともな人材が居るかはちょっと怪しいんだけどね)

 

 油断をする気はない。失敗はもうたくさんだ。

 

「あ、あの……ご、ご主人様……に、似合いますか?」

 

 うん、それに ね、もとばにーさん。まんと を ぬいで くるっと いっかいてん って さーびすしーん も いま は いいんだ。

 

「あ、ああ」

 

 とりあえず頷いておいたが、あぶないみずぎのきわどさを取り入れた神秘のビキニに元バニーさんのコンボは凶悪すぎた。

 

(大きいのは知ってたけど……そもそも、あのビキニ肩ひもがないんだよな)

 

 つまり、揺れても弾んでも本来支えになるモノが存在しないのだ。

 

(どうやって胸の部分にくっついて……はっ、それが神秘か! ……じゃなくってぇ!)

 

 とりあえず水着の構造の謎を考えるのは今は止めよう。

 

「ただな、これから呪文で空の旅をする。上空はここより冷えるからな。少なくとも戦闘になるまではマントぐらい羽織っておけ。何なら上に何か着込んでもいい」

 

 と いうか きこんで ください。そのまま では おもいっきり め の どくです。

 

「あ、そ、そうですね。すみません」

 

「いや、謝る事はない」

 

 むしろ、それぐらい気づけよと言われるべき人物は、他にいる。

 

「でしたらお師匠様、ルーラで飛んでる間、お側に居てもいいですか? くっついてると暖かいと思いますし」

 

 そうだよ、俺だよ。シャルロットがこう言い出すんじゃないかと、マントを着せる名目での発言を終えるまで気づかなかった この俺だよ。

 

「で、でしたら私も……ご迷惑でなければご主人様を温めさせて頂けますか?」

 

 そして、もとばにーさん が しょくはつ される ところまで は よそう が ついてましたよ、しっぱい を さとった あと に した よそう で ですけどね。

 

「……着地に失敗はするなよ?」

 

「「はい」」

 

 副音声で「着地失敗するかも知れないからくっつかなくても良いのよ」と言ってみたが、無駄だった。

 

「あらあらまぁまぁ」

 

 生温かくおばちゃんに見守られる中、ポーカーフェイスの裏で引きつった笑いをするしかなかった俺は、このあと水着の女の子二人にくっつかれて空を飛ぶ事になるのだろう。

 

(て も だせず、せきにん も とれなかったら、これって ただの なまごろし だよね?)

 

 宿の一室、ちらりと見た窓の外の空は青い。絶好のルーラ日和だ。流石に元バニーさんだって宿のロビーでマントを脱いでまわるほど羞恥心を脱ぎ捨てては居ない。

 

(だから、今居るのは宿の一室なんだけど……なんでかな、こう、今すぐそこの窓を破って逃亡したくなるのは)

 

「……はぁ」

 

 出来るはずがない、いくらなんでも、そんなこと。

 

「どうしました、お師匠様?」

 

「ご主人様?」

 

「いや、何でもない。さて、俺は荷物を取りに自分の部屋に戻るな」

 

 だから訝しげに見られても首を横に振り、一言告げてからその場を後にし。

 

(これで女の子二人と密着空の旅が確定、かぁ)

 

 部屋にたどりつくなり荷物を回収すると、ドアノブに手をかけて嘆息する。

 

(いや、今回はまだマシだ。竜の女王の城からは更に一人増え……あ)

 

 自分を慰めようとし、更に酷い自体に思い当たって凹んだのはその直後だった。

 




ぎゃあああっ、出発まで書けなかったぁぁぁっ

あ、次回、第四百八十二話「さいかいはしれんのきょうか」

しゅじんこう って すごいなぁ、おんな の こ ふたり と みっちゃく しても ぽーかーふぇいす なんて。 ぼく には とても できない。



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