強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百八十五話「まちがってはいないのかもしれないけれどななめうえすぎませんか、これは」

「お師匠様っ」

 

「ご主人様、だ、大丈夫ですか?」

 

 駆け寄ってきた二人にああと短く答えつつ俺は身を起こす。

 

(仮設トイレって、やっぱりあれだよね? 前に捕縛したエピちゃんがトイレに行きたくなって……)

 

 一番近いトイレがバラモス専用だったため、使わせて欲しいと交渉した時、不満を口にした気がするのだ。

 

「そもそも、この城トイレ少なすぎじゃろ、エロジジイ」

 

 と。

 

(侵入者の要望に応えるとはバラモスめ……)

 

 何て親切なんだ。

 

(じゃなかった、大方「トイレを貸して欲しい」と言う名目で殴り込まれない為なんだろうけどさ)

 

 視線を建物の横にやると、そこには立て札が一つ。

 

「『敵は待ってくれない、トイレには予め行っておくこと』って、正しいと言えば正しいですけれど」

 

「『トイレ周辺は中立地帯とする、人間どもも安心して用を足して行くが良い』……何ですかな、これは」

 

「いや、俺に聞かれても困る。それに」

 

 立て札を読み上げて困惑した一組のカップルから向けられた視線へ、俺は正直に答えつつ首を巡らせる。何故なら、俺より説明に最適な人物がここには居るのだ。

 

「驚かれましたか、マイ・ロード?」

 

 そう、場にいる面々の中で一人だけ驚くどころか得意そうな変態が。

 

「以前、トイレを貸せとこの城に押し入りバラモス様に暴行を働いた老人がいたそうで、対策を講じよと言われはしたものの勇者一行の手にかかり何も手を付けずにこの世を去った前任者の代わりに私が建てさせたのがこの仮説トイ、あぐ、ま、マイ・ロード? 何故私の頭を鷲掴みに? つ、掴むなら胸の方が柔らかくて気持ちい、ぐぎっ、や、止め」

 

「お前か、お前のせいかぁぁぁぁ」

 

「ぎ、ぎゃああああっ」

 

 女性にあるまじき悲鳴をあげるマザコン変態娘に叫びつつ俺がアイアンクローをかましたとしても、絶対に仕方ないと思う。

 

「まぁまぁ、仮設にしてはしっかりした作りねぇ」

 

 もっとも、母親の方が悲鳴をあげる娘をスルーし、感心した態で、娘の仕事ぶりを検分している事にもツッコミたい所だったが。

 

「ええと、アンさん? 娘さんなんでしょ、いいの?」

 

 ただ、こちらは俺が尋ねるよりも早くシャルロットが同じ疑問を投げかけ。

 

「あらあらありがとう。けどね、娘が殿方とイチャイチャしてるところにしゃしゃり出る程おばちゃんは無粋じゃないのよ」

 

「「えっ」」

 

 帰ってきたのはとんでもない勘違いかつ爆弾発言だった。

 

「お、お師匠様?」

 

「ご主人様?!」

 

「ちょっ、ま、待て、どうしてそうなる?」

 

 シャルロットと元バニーさんが振り向くなり未知のモノを見る目でこっちを見てくるが、変態娘の頭を握ってるのは、OSIOKI以外のなにものでもない。

 

「ご、ご主人様……痛いのは苦手ですけど、ご主人様が」

 

「み、ミリー? ぼ、ボクだっ」

 

「だっ、誤解だ! 誤解! ほら」

 

「べっ」

 

 いかん、このままでは変態サディスト野郎の烙印を押されてしまう。 俺はOSIOKI中だった、トロワを解放し、地面に尻餅をつくマザコンアークマージの前で片膝をついた。

 

「そんなことより、聞きたいことがある。侵入者対策はお前が行ったと言ったな? 他にはどんな仕掛けが追加されている?」

 

 先程は思わずさらりと流してしまったが、城の改装を行ったのがトロワだとすれば最高の情報源である。

 

「うう、他……ですか? ライオンヘッドとスノードラゴン用にペット用のトイレも設置、そこで用を足すようにしつけたことで、掃除の手間が減りまし……マイ・ロード? 何故額をおさえておられるのです?」

 

「サラ、説教を追加で頼めるか? ついでに情報の聞き出しも頼む」

 

「えっ」

 

「……承りましたわ。幸いここは中立地帯ですものね。あまり話し合いに向いた場所とは思えませんけれど」

 

 俺の要請に応えてくれた魔法使いのお姉さんはトロワを女子トイレに連行してゆき。

 

「で、対策はトイレオンリー、と?」

 

「その様ですわ。ちゃんとした侵入者対策も一応は考えていたようですけれど、資材の準備をしてる間にアンさんを探すためこのエロムラサキがここを離れ、未帰還のまま今に至るようですわね。ちなみに、資材が揃って着工するのは、だいたい今から二ヶ月後らしいですから」

 

「トイレが増えているだけという訳か」

 

 バラモスに時間を与えないことを心がけたことが、城の改造を防いだと言えるかも知れない。

 

「ならば、さっさと攻略してしまうとしよう。改装前の構造はスレッジに聞かされてだいたい知っている。まぁ、最初からコイツの立場を鑑みていれば魔物に化けてついて行くという策も使えたかもしれんが」

 

 ここまで騒いでしまってはどうしようもない。

 

「先頭は俺が行く。敵の気配を察知するにもそれが一番だからな」

 

 後は、トロワをおばちゃんの前方に配置する事ぐらいだろう、変態一名を除いた女性陣が水着で戦うことを想定した場合の布陣は。

 

(とにかく、おばちゃんの水着姿はトロワに見せないようにしないと)

 

 勇者一行初の死者がどうしようもない理由で誕生しかねない。

 

「いくぞ、皆」

 

「「はい」」

 

 マントを脱ぎ捨ててる可能性もあるので振り向かずに言って歩き出せば、返事に複数の足音が続いた。

 

 




ばらもす だと おもったら とろわ だった。


次回、第四百八十六話「もう、迷わない」

そりゃ、一度攻略したお城ですもんね、トロワって関係者もいるし。

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