強くて逃亡者   作:闇谷 紅

536 / 554
第四百八十六話「もう、迷わない」

 

「左手に敵の気配がある、迂回して行くぞ」

 

 忍び歩きで先頭を進みつつ、呟くと言葉通り右手の壁際を進む。

 

(敵にエピちゃんみたいな女性が含まれてることを考えるとなぁ)

 

 甘いとは思うが、下手すれば攻略中に捕虜を抱えるという以前この城に来た時の二の舞になる可能性がある。

 

(トイレの増設で前と同じオチは無いと思うけれど)

 

 荷物は荷物。シャルロット達の前では全力戦闘が出来ないことも踏まえると、大きな荷物を負うのは流石に拙い。

 

(一応、無駄な戦闘をして消耗するのを避けるって名目もあるし、今はこのまま出来るだけ戦闘を避けて行くしかないか)

 

 幸いにも構造は把握しているのだ。

 

(この外壁と建物の間を抜ければ正面に池が見えたはず)

 

 池の中央にある人工的な小島の中央に地下に降りる階段があり、以前トイレを借りるためその階段を下りたことは覚えている。

 

(池に橋がかけられれば更にショートカット出来るんだけれど、まず間違いなく魔物に気取られるしなぁ)

 

 一応外壁の内側に何本も木が植えられているので、邪魔が全く入らなければ間に合わせの丸太橋くらいは作れるのだ。もちろん、机上の空論に過ぎないのだが。

 

「シャルロット、戦闘準備だ。迂回出来そうにない位置に魔物が陣取っている」

 

「えっ、あ、はい」

 

 シャルロットの返事を聞きつつじっと見つめる先に居るのは、前に来た時には無かった砂場で砂をかく蝙蝠のような翼が生えたライオンに似た魔物の姿。

 

「しかし、あれは……」

 

 何故だろうか、ペット用のトイレにも見えるソレに何処かの変態娘の言葉を思い起こしたのは。

 

「ああ、ちゃんとしつけたとおりトイレが出来てるようですね」

 

「……やっぱりか」

 

 砂場からペット用トイレを連想したのは間違っていなかったらしい。

 

「しかし、あの程度の数なら不意をつけば瞬殺も可能だな」

 

 後始末中の相手を襲撃すると言うところに、若干モヤモヤしたものは感じるが、気にしている場合でもない。

 

「よし」

 

 襲撃しようと足を一歩前に進めた時のことだった。

 

「マイ・ロード、お待ち下さい」

 

 トロワが後方から制止の声を上げたのは。

 

「見たところ、あそこにいるのはライオンヘッドだけの模様。私にお任せ下さい」

 

「……何とか出来るのか?」

 

「無論です。ママンに良いところを見せるチャンスですから」

 

「そうか」

 

 いっそ清々しいまでに下心をだだ漏れさせての言葉に、俺は横に退いて道を空けた。

 

(動機がアレだから信用出来るというのも微妙だけど)

 

 少なくともトロワの病的な母親好きは本物だ。

 

(さてと、一体どうやってあの魔物達を何とかするんだろう?)

 

 若干興味を覚えつつ、横を通り抜け魔物に向かって行くトロワの背中を見つめれば。

 

「お前達、飯の時間だぞ」

 

「「ガウ?」」

 

「さぁ、餌場に行った行った」

 

「「ガウッ!」」

 

 声をかけられ一斉に振り返ったライオンもどきの群れは餌場という単語を聞いた瞬間、すくっと身を起こしダッシュで何処かへ走り去る。

 

「そろそろ餌の時間でしたし、トイレをしつけたのは私ですからね」

 

「成る程、な」

 

 ドヤ顔をするマザコン娘の裏切りが発覚したのは、つい先程。だから、あの魔物達はトロワを敵ではなく世話をしてくれる者と認識して指示に従った、と言うことか。

 

「助かった、礼を言う」

 

「当然の事をしたまでで……マイ・ロード、どうかされましたか?」

 

「いや、何でもない」

 

 何かもっとあっと驚くような奇策を使って追っ払うのかと思った俺が間違っていたのだろう。

 

「それより、先を急ぐぞ」

 

 トロワの話だと魔物達は餌を食べに行っただけ、食べ終われば戻ってくる可能性が高い。

 

「そこのペット用トイレの脇にある建物に入って屋上にあがる。どうやら建物の中に敵の気配はなさそうだが、慎重にな」

 

 前回来た時は、この屋上か屋上から隣の建物に伸びた連絡通路の壁を乗り越えてショートカットしたと思う。

 

(ここまでくれば、あと少しだ)

 

 立ち塞がる難関は、二つ。一つはバラモスとの戦闘。

 

「……上階にも魔物の気配はない、な。先行する」

 

 振り返らずに告げて階段を上ることで、辿り着いたのは、もう一つの関門。

 

「ここだ……」

 

 視線を動かせば、水色生き物に似た形状の屋根があり、以前かけたフックの跡も残っている。

 

(フックつきロープを引っかけて、外に降りる、そこまではいい)

 

 俺は盗賊、そう言う作業はお手の物だ。

 

(問題はアランの元オッサンとあのマザコン娘以外なんだよ)

 

 全員が水着、しかもやや際どく露出度が高いのだ。

 

(ロープを降りる時に肌が擦れて痕でも残ろうものなら……)

 

 水着で凱旋する勇者一行、その肌にくっきりと残るロープ痕。

 

(俺とアランの元オッサンの社会的地位が死ぬっ)

 

 と言うか、それ以前にハプニングが起きるのではと戦々恐々している俺が居て。

 

「ここからロープで降りますの?」

 

「ご安心を。先に降りて控えておりますからな。万が一の時には受け止めます」

 

 若干不安そうな魔法使いのお姉さんへアランの元オッサンがかけた言葉は、爆弾だった。

 

(え? あ、ちょ)

 

 一瞬遅れてその言葉がどういう効果をもたらすか理解した俺は、思わず振り返り。

 

「お、お師匠様……ぼ、ボクもちょっと不安だから下で受け止めてくれますか?」

 

 上目遣いに見つめてくる水着姿のシャルロットへ俺はNOと突っぱねることも、お前勇者だろ不安ってどういう事だよとツッコむことも出来なかった。

 

「あ、あのご主人様……」

 

「マイ・ロード、申し上げにくいのですが……」

 

 そして、びんじょうしてくる おんなのこ が ふたり。

 

(あー、うん、そんなこと だろう と おもいました よ?)

 

 後に言う第一回水着の女の子受け止め大会INバラモス城である。二回以降があるかは知らないし、考えたくもない。あとトロワは別に水着じゃないが、ママンを受け止めるのは私だとか言い出したから、主権限で止めておいた。

 

「鼻血に惹かれて魔物が集まってくるのはほぼ確実だからな。流石に容認できん」

 

「ひ、酷い……マイ・ロードの意地悪ぅ」

 

 ガチ泣きする変態にちょっとだけ心が痛んだが、これは譲れなかった。

 




順調に攻略する一同の前に現れた一つめの関門。

親方、空から水着の女の子が。

と、なってしまうのか?

次回、第四百八十七話「○○○キャッチ、プリ――」

某ドワーフさんが踊る動画、好きです。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。