強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百八十八話「先生助けて、シャルロットちゃんが――」

 

「仕方ない、俺が受け止めるしかないか」

 

 理由はよくわからないが、あれではとても受け止めることなど出来そうにない。

 

「あ、あのご主人様」

 

「ん?」

 

 やむを得ずロープの下に向かおうとした俺は、声をかけられて振り返った。

 

「あ、アンさんでしたら私が受け止めます。ですから、ご主人様は……シャルの側に居てあげて下さい」

 

「そ、そうか? わかった、すまんがそっちは頼むぞ」

 

 呪いが解けていない頃の元バニーさんなら問題だろうが、異性の俺が受け止めるより同性の方が間違いも起きないだろう。

 

(うん、間違いをやらかした俺が言えるような事じゃないけど……)

 

 あんな事をされたにもかかわらず、受け止める役までかわってくれたのだから、せめて俺は頼まれたことを果たそう。

 

(シャルロットの側に……か。確かに敵地にいることを鑑みれば、あんな状態のシャルロットを放置しておくのは拙いな)

 

 出来ることなら復活もさせるべきだと思う。

 

(となると、何故ああも衝撃を受けてしまっ……あ)

 

 解決の為、理由を考えようとすれば、すぐに思い至った。先程の惨事は、シャルロット目線からすれば、尊敬する師匠が目の前で仲間に痴漢行為を働いた、と言うことになる。

 

(そりゃ、放心もするわ……何でこんな簡単なことにすぐ気づかなかったんだ、俺)

 

 美化されていればされている程、あの光景は精神ダメージになったことだろう。

 

(意図した訳じゃないって一点だけが救いだけど、弁解すると余計にシャルロットのお師匠様像を傷つけてしまいかねないし)

 

 良案は、すぐに思いつけなかった。通りすがりの精神ケアの達人がいたなら、先生助けてと縋ってしまっていたかも知れない程に、打つ手を思いつけず。

 

(駄目だ、せめてシャルロットをこの場から動かした方が良いかもとも思うけれど、今の俺がシャルロットに触れるのは拙い)

 

 シャルロットにとって、俺の手はつい今し方良からぬ事をやらかした異性の手である。状況が悪化しても不思議はない。

 

(なら、人に頼る……と言っても、トロワは魔物をあしらいに行かせたし、これ以上元バニーさんに頼る訳にも……)

 

 消去法から行くと、もう今まさに元バニーさんの上からロープを伝って降りてきているおばちゃんしかいないことになる。

 

(うん、一見問題なさそうに見えて戻ってきたマザコン娘がへそを曲げるのが目に見えている)

 

 八方ふさがりである。

 

(なら、どうすればいい? どうしたらこの状況を打破出来る?)

 

 思いつかない。みんなにシャルロットを任せて単身乗り込み即行でバラモスを殺ってくるぐらいしか。

 

(いやいや、うん、拙いのは解ってる。シャルロット達がここに来た意味が消失するし、ゾーマにだって警戒されかねないし)

 

 総大将が倒されれば、魔物達も動揺し、残されたシャルロット達を襲うこともなくなるかも知れないが、これはない。

 

「お師匠様」

 

「ん、シャルロットか。すまん、今考え事……を?」

 

 それでも打開策を求め悩んでいた俺は、反射的に答えて向き直りかけ、硬直した。

 

(えっ)

 

 こちらがひたすら悩んでいる内に復活を遂げるなど想定外だが、流石勇者は違うと言うべきか。

 

(こうして、一つ一つ経験していって大人になって行くって事なのかな)

 

 うん、げんじつとうひ してる ばあい じゃない ってのは わかる。

 

「シャルロット、話はバラモスを討った後でいいか? 騒ぎに気づいて魔物がこちらに向かっている。この場に留まるのは拙い」

 

 本来話しかけてくれたシャルロットに、こんな事を言う資格などないことも理解はしていたが、魔物は基本的に空気を読んでくれない。無論全てがそうだと言い切るつもりもないが。

 

「わかりました。お話は世界を平和にしてからですね」

 

「っ、ああ」

 

 穏やかな表情ですんなりこちらの言い分を呑むシャルロットに漏れかけた驚きをポーカーフェイスで無理矢理押しとどめると、女性陣の受け止めなどで邪魔になるからとベルトに挟んでいたほのおのブーメランを引き抜き、歩き出す。

 

(気配がさっき魔物とは別方向から……と言うか、これはバラモスが居る筈の地下からだな)

 

 進行方向からで、地下へ至る階段のある島へかかった橋は今渡り始めた一本だけ。

 

(引き返すより、突破した方が早い。恨むなよ)

 

 全ては俺とこんなめんどくさい城の構造にしたバラモスのせい。トロワのように直接手を加えたりしたのが別の者だったらバラモスはえん罪に聞こえるかもしれないが、そもそもバラモス達がこちらの世界に侵攻などしてこなければこんなことも起きなかったのだ。

 

(盾は良いか)

 

 まかり間違って世界の悪意がやって来るであろう敵をエピちゃんよろしく女性のエビルマージにしたとしても命を奪わぬように鞄から取り出した鎖に左手の装備を変えつつ、俺は橋を渡りきり。

 

「トラマナを頼む」

 

 後ろも見ず、以前の反省を行かして声を発した。

 




シャルロット は かくごをきめた?

次回、第四百八十九話「ねぇ……主人公。前哨戦って虚しいものなの……」

誰かを傷つけ……何かを失い……いつかこの作者はその結末をしょーもないオチで終わらせてしまう……。

……あるぇ、ひょっとして主人公とくっつくのはシャルロット以外ですか?



・NG編(途中まで書きかけて止めて全力で他作品パロ持っていったのがこちら)

「お師匠様」
「ん、シャルロットか。すまん、今考え事……を?」
 それでも打開策を求め悩んでいた俺は、反射的に答えて向き直りかけ、硬直した。
(えっ)
 こちらがひたすら悩んでいる内に復活を遂げるなど想定外だが、流石勇者は違うと言うべきか。
(こうして、一つ一つ経験していって最終的には「ねぇ……お師匠様。大人になるって悲しいことなの……」とか言うのかな)
 とりあえず、教会は雷属性攻撃で破壊しておきたい。

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