強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百八十九話「ねぇ……主人公。前哨戦って虚しいものなの……」

 

「来るぞ」

 

 踏み込むとダメージを受ける力場や毒沼から身を守る呪文が完成した直後に警告を発す。

 

「なっ」

 

「邪魔だっ、でやぁっ」

 

 階段から顔を半分覗かせる形で驚きの声を上げた六本腕の人骨剣士に右手のブーメランを投じ、頭蓋骨を両断され傾ぐじごくのきしを踏み台にする形で後ろにいた黄緑色の覆面ローブの魔物目掛けて飛ぶ。

 

「マヒャ」

 

「遅い」

 

「きゃああっ」

 

 着地より早く、呪文の発動よりも早く振るった左腕の鎖になぎ倒された黄緑ローブが悲鳴をあげつつ仰向けに倒れた。

 

「トロワ、縛っておけ。猿ぐつわも忘れるな」

 

 案の定というべきか。

 

(まったく、悪い方の予想はこういう時に限って当たるからなぁ)

 

 女性と判断した時点で手加減はしたので、生きてはいるだろう。ただ、構っていられる余裕はない。

 

「なんだ、今の悲鳴は?」

 

「上からだぞ、侵入者か?」

 

 下階から悲鳴を聞きつけた魔物の者らしき声がし、倒れた黄緑ローブの魔物を飛び越え奥に進んだ俺には見えていたのだから、今まさにこちらへと駆けてくる多腕の骸骨達が。

 

「ちいっ、だが――」

 

 階段を下りきった先に居たのが、貴様らの不幸だ。俺はしゃがみ込むと壁にぶつかって落ちたブーメランを拾い上げ、投擲する。

 

「ぎゃあっ」

 

「がっ」

 

 仕留めるつもりで投げたほのおのブーメランは一投でこちらに向かってきていたじごくのきしたちを倒す。

 

「す、すごい」

 

「……と言うか、私達の出る幕、完全に有りませんわね」

 

「まったくですな」

 

 後方の反応は真っ二つに分かれたようだが、それはそれ。気にしている暇はない。

 

「このまま捕虜はトロワに任せて、一気にバラモスの元まで直行する」

 

 変態娘は、元々バラモスの下で軍師をやっていたこっちに寝返ったとは言え、かつての主との戦いに引っ張り出すのは酷だろう。マザコン娘を捕虜担当にしたのにはそう言う思惑もあるが、もう一つ。

 

(あの変態マザコン娘だけ神秘のきわどいビキニを着てないもんなぁ)

 

 つまるところ、他の女性陣と比べて防御力が格段に劣るというのも理由だった。

 

「アンも無理はするなよ? ビキニは高性能と聞いているが、相手はバラモスだ。当たり所が悪ければ一撃で殺られかねん」

 

 いくら呪文と防具で守りを固め高い防御力を得ても事故が起こりうることを俺は知っている。主に原作に置ける灰色生き物達と戦闘で。

 

(あの防御力の固まりだって会心の一撃をくらえばダメージ素通しだもんなぁ、まして中途半端に防御力を上げただけじゃ……それにアークマージのHPって200も無かったはず)

 

 レタイトの最期を思い出すと、蘇生呪文で蘇らせることは可能だろうが、戦死者が出るような戦いは避けたい。

 

(えーと、バラモスの真っ当な攻略法は、確かマホトーンで呪文を封じてフバーハとスクルトでブレスと直接攻撃対策をしたら回復でHPを維持しつつぼこるだけ、だっけ?)

 

 対象を眠らせるラリホーの呪文を使う攻略法があったような気もするが不確定な情報を元に誰かの行動を浪費する訳にもいかない。

 

「な、なんだきさ」

 

「ちぃっ」

 

「かふっ」

 

 予期せぬ遭遇だったか、驚き立ちつくす黄緑ローブの魔物を見て舌打ちすると、俺は再び鎖を振るってなぎ倒す。

 

「まだ女がいたとはな……」

 

 声の高さで瞬時に手加減攻撃に変化させた自分を少しだけ褒めたい。エピちゃん達と比べるとローブの内から布地を押し上げる胸部装甲は薄目だが、横を通り抜け態にちらりと見ると胸の膨らみは確かにあった。

 

「トロワ、頼む」

 

 ポツリと漏らすと、返事も待たずただ奥へ。

 

(おのれ、バラモスめ。こっちが災難に見舞われているというのに、エピちゃん2号3号に囲まれてハーレム展開か)

 

 回りを女性ばかりで固めるとはとんでもない好色魔王である。

 

(え、おれ? こっち には あらん の もとおっさん が いるじゃないですか、やだなぁ)

 

 何処かからツッコまれたような気がしたので胸中であんなハーレム魔王とは違うことをきっちり明言しておく。

 

「しかし、あれが最後か」

 

 階段を降り立った先を満たす礫の浮き上がるエフェクトもどきを、以前バラモスは侵入者への備えと言っていた。部屋の隅々まで力を行き渡らせ範囲内に異物が侵入すれば解るようにするためのものだと。

 

(つまり、バラモスは俺達が迫ってきていることに気づいている筈)

 

 いくらこちらがダッシュで向かっていって居るとしても、何らかの判断を下すと思う。

 

(侵入者の迎撃に向かわせるつもりなら、気配を俺が察知しているはず)

 

 それが無いと言うことは、近くに部下が居ないか、部下をその場に止めて迎撃態勢を取ろうとしているかの二択だろう。

 

(お供随伴だと面倒だけど、以前一人の爺さんにボコボコにされた経緯を鑑みると、部下侍らせてても不思議じゃないかぁ)

 

 俺がバラモスだったなら、とりあえず傷を全快させる呪文を使える黄緑ローブの魔物、エピちゃんのお仲間を従え、それを全力で庇う。HP全快呪文が使え、精神力が無限というチートさえ倒されなければ、半永久的に終わりのないディフェンスが可能だからだ。

 

(流石に俺でもバラモスを一撃で仕留めるのは無理だし、そうなってくると本拠地であるバラモス側の増援が延々と駆けつけてきて……下手すると詰む)

 

 攻撃のダメージは防具と補助呪文で軽減できるが、俺でも対処しきれない量のじごくのきしに囲まれてやけつく息を吐かれた場合、マヒによる全滅というみんなのトラウマが具現化することだってあり得る。

 

「……と言う訳だ。ミリー、アラン、決戦前にピオリムを頼む。もしバラモスの側にウィンディやエピニアと同じ魔物が居たら庇われる前に先手を打って倒さねばならん」

 

 うん、せんせいこうげき で せんめつさせる って かいけつさく は あったんですけどね。

 

「ぴ、ピオリムですね……」

 

「ふむ、確かにそれをやられると脅威でしたな。わかりました」

 

 足を止めてスレッジからの情報とした上で、俺が危惧を説明し頼めば、アランの元オッサンは頷いて元バニーさんに続く形で呪文を唱え始め。

 

「ピオリム」

 

「ピオリム」

 

 双方の呪文が完成する。

 

「すまんな。ともあれ、直前のトラマナを除けばこれで準備は程調った。先程話したように後ろから増援の魔物が来ることも考えられる。後方からの急襲にも気をつけるようにな」

 

 最後にアークマージ二人に忠告すると、俺は再び歩き出す。バラモスとの決戦は、もう間近だった。

 

 




と言う訳で、今回は主人公むそーでした。

次回、第四百九十話「大それた奴」
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