「ちいっ」
舌打ちしつつ、咄嗟に身体を縮こめた。凶悪な爆発を起こすイオナズンの呪文とどちらがマシであったか。
(咄嗟に散開って声は上げたけど)
眼前にかざした手によって周囲の状況は解らない。
「く、シャルロット、無事か?」
「けほっ……はい。アランさんが呪文をかけてくれたお陰で、なんとか」
「ですけど、とんでもない炎ですわね。どさくさ紛れにフバーハの呪文をかけて頂いていなかったらと思うと、ゾッとしますわ」
謎の奪衣体験コースに名乗りを上げなかったから、見る余裕があったのか。アランの元オッサンが唱えた呪文はバラモスの吐いた炎の威力を確かに減退させていた。
「なら、サラはマホカンタの呪文をかけておけ。魔王がただ火を噴くだけな筈があるまい。おそらく呪文攻撃もしてくるだろう」
今更だが、範囲攻撃呪文は出来れば避けたい。
「……道理ですわね。承知しましたわ」
俺の言葉に頷いた魔法使いのお姉さんが呪文を唱えだし。
「ベホマラーっ、ご主人様、シャル」
「あ、ありがとう」
「すまん」
元バニーさんの範囲回復呪文が俺達の身体に出来た火傷を消してゆく。
「い、いえっ……少しでもお役に立てたなら」
「充分役に立っているぞ。良くやってくれた。……さて、今度はこちらの番だな」
「うぐっ」
相変わらず水着の筈で戦闘中でもあるため、後ろを向かず褒め、再び足を前に踏み出せばバラモスの顔がひきつる。
「貴様がほざいたような変態的意図はないがっ」
有言は実行させて貰う。
「がっ」
「ふっ」
顔面にブーメランを直接叩き付け、怯んだところで衣服を掴み、テーブルクロスか何かの様に一瞬で引き抜く。
「シャルロット」
すかさず俺が弟子の名を口にしつつ後方に飛べば。
「はいっ、たああああっ!」
「ぎゃああっ」
一糸纏わぬバラモスの身体を、かわりに飛び出してきたシャルロットが袈裟懸けに斬って、やはり後ろに飛ぶ。
「うぐっ、おのれ、おのれぇっ」
むろん、それだけでバラモスは倒れない。傷をおさえつつ憎悪に顔を歪めるが、全裸なだけに、微妙に滑稽だった。
「ぷっ」
相当アレだったからだろう、誰かがこらえきれず吹きだし。
(けど、バラモスが完全な人型でなくて助かったなぁ。多分オスだろうし)
俺は胸中で呟く。相手が完全な人間型の敵だったら女性陣が前を向いて戦えたかどうか。
(ともあれ、これで防御力はがくんと落ちたはず。呪文耐性をはっきり覚えていない上、俺はメインアタッカーになれないし)
このままシャルロットの斬撃を中心にさっさとカタを付けるべきだろう。
(そして、いくさだつい の けん とか を しょうり の よろこび で うやむや に したい)
今考えるべき事じゃないが、どうするかを考えると頭が痛いし、戦闘を長引かせてこれ以上墓穴を掘る訳にもいかなかった。
「バイキルト」
「アランさん?」
「勇者様はそのまま攻撃をお願い出来ますかな?」
こちらの意図を察したのか、アランの元オッサンがシャルロットに攻撃力倍加の呪文をかけてニヤリと笑い。
「これなら、押し切れる」
と、俺が確信した時だった。
「ぬううっ、貴様が、貴様さえおらねば、バシルーラっ」
「な」
俺は失念していた。最悪のポカだと言ってもいい。この魔王に戦線を強制的に離脱させる呪文があることは解っていた筈なのに。
(しまっ)
バラモスからすれば、厄介な相手を戦線から外すのは、当然の判断。だが、そんなことより。
(俺は一体何処に戻される? 元の世界? アリアハン?)
受けたことのない呪文だからこそ、効果は解らない。だが、完成した呪文を回避する術など、いくらこの高スペックの身体にもなくて。
(俺は、終わるのか? こんな、こんな大事な局面で、こんなに中途半端な形で)
時間の流れがやたら遅く感じた、まるでスローモーションの様に。
(くそ、ごめん……シャルロットのお袋さん。シャルロット、ミリー、みんな)
約束を果たせないなんて最低だ。俺は心の中で謝罪の言葉を吐いた。
次回、強くて逃亡者最終話「またいつか、会えると信じて」
というのは、嘘です。驚いた?
次回、第四百九十三話「ベタな展開であること始めに謝っておく」