強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百九十四話「最終奥義」

 

「ん゛」

 

 何か言おうとでもしたのか、封印呪文によって濁った音を一つ漏らしただけのバラモスに肉迫すると、まずオレンジのブーメランを叩き付けた。

 

「ん゛ぇっ」

 

 流石にこの距離では外さず、狙い通り首にそれがめり込んだのを見て、まじゅうのつめを手放す。

 

(本来攻撃の動作というモノは次の動作に繋げるための動きや回避行動までセットで一つの動きになっている)

 

 例えばブーメランなら、投げるのとキャッチで一動作、と言う風に。

 

(なら、投げるだけで行動を終わらせてしまえば、0.5動作と言うことなんだ)

 

 理論上、受け止める気がなければ、俺はブーメランを片手で四回投げられると言うことになる。

 

(そして、原作にははやぶさのけんと言う武器が存在した、刀身が軽くその為に本来一度の動作をするところで二回攻撃出来るという武器が)

 

 もし、その理屈が正しいなら、何も持たない無手の状態でも二回攻撃が出来ると言うことだ。

 

「故に、この奥義は――」

 

 最初の武器を投げから一度に超神速の八連撃を叩き込む。

 

「ん゛、ん゛ぇ、ん゛っ、ん゛ぉ、ん゛、ん゛」

 

 めり込んだブーメランを楔に打ち込まれるのは連続の殴打。そして、一箇所に攻撃を集中すれば、HPの概念なんて意味もない。

 

「散れっ」

 

 一撃前の拳に首の骨を砕いた感触を覚え、気合いとともにくりだした八撃目でバラモスの首が傾ぎ、胴から転がり落ちる。

 

「ば、バラモスが……こんなにあっ」

 

「お師匠様っ」

 

「ご主人様っ」

 

 呆然とした声は誰のものだっただろうか、途中だった声に警告を被せたのは、シャルロットと元バニーさん。

 

「ただでは死なん、と言うことか」

 

 声の意味はすぐ理解出来た。首のない魔王の身体が両腕を振り下ろそうとしていたのだから。

 

(この奥義、放つと完全に無防備になるからなぁ)

 

 攻撃以外の予備動作を削って手数を増やすのだ、当然と言えば当然の弱点を前に、俺は一撃を覚悟し。

 

「マヒャドっ」

 

「やああああっ」

 

 そうはならなかった。

 

「しゃる、ろっと?」

 

 ふぶきのつるぎを構え、俺の左手から飛来する氷の刃を追う形で突っ込んだシャルロットが助走の勢いを借りてバラモスの胸に獲物を突き立たせ、仰け反らせたのだ。

 

「これでっ」

 

「な」

 

 しかも、それだけで終わらない。回避も次の行動への備えも考えず、まるで剣の柄にぶら下がるかのように体重をかけ、傷口から下に向かって魔王の首無し死体を斬り裂く。

 

「た、たった一度、直前に見せただけで」

 

 数では俺のオリジナルに到底及ばない、だが、シャルロットは技の一端を確実に盗んでいた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……お師匠様、大丈夫ですか?」

 

「……ああ」

 

 息を荒くした際どい水着姿の女の子というビジュアルのことはとりあえず置いておこう。

 

「しかし、直前に見ただけであれだけの事が出来るとはな……シャルロット、お前は自慢の弟子だ」

 

「えっ」

 

 声を上げ振り返る魔王を倒した英雄へ、俺は無言で頷く。

 

(俺には勿体ないくらいだよな)

 

 おそらくだが、俺のトラウマことイシスでクシナタ隊のお姉さん達にさせられたアレを見せれば、四回攻撃までは可能だろう。それ以上は武器の性能に頼らないと駄目だと思うが。

 

(ともあれ、首を落としたのは俺だけどラストアタックはシャルロットだろうし、これでシャルロットもアリアハンの英雄、だなぁ)

 

 ゾーマが控えてるのを知ってるメンバーは俺を含めて三名。だが、一人はぶっ倒れていて、もう一人は少し離れた場所から倒れたわが子を心配げに眺めている。

 

(確か、原作通りならここで回復して貰えたはず)

 

 トロワもそれで一命は取り留められるだろう、そう思った矢先だった。

 

「ぐぅ……お、おのれ、シャルロット……」

 

「ひっ」

 

 足下からの声に元バニーさんが怯えた声を上げ。

 

「わ、わしは」

 

「このっ」

 

「あびっ」

 

 尚も何か告げようとしたバラモスの首をシャルロットが蹴り飛ばす。

 

「えっ」

 

 良いシュートだった、シュートではあるが、最後の台詞を言わせてやらんでよかったものか。

 

「ミリー、アランさん、サラ」

 

「承知しました、バギクロス!」

 

「マヒャド! ほら、エロウサギ、何をしてますの?」

 

「あ、え、えっと、ごめんなさい、マヒャド」

 

 若干呆然とする中シャルロットに声をかけられた三人分の呪文が力場の張られた床に転がった生首に襲いかかる。当然ながらこんなオーバーキル確定の攻撃に首だけが耐えきれるはずもなく。

 

「やった、バラモスをたおしましたわ!」

 

「いやはや、首だけでもしゃべるとは流石は大魔王ですな」

 

 純粋に喜ぶ魔法使いのお姉さんと、バラモスの生命力に戦慄しつつしみじみと生首だったものを見つめるアランの元オッサン。

 

(あ、うん。油断して失敗しかけた前例がここにいるし、徹底的にやるってのは間違いじゃないと思うけどさ、うん……まぁ、いいか)

 

 図らずもバラモスを倒したのが俺以外になったのは、どちらかと言えば歓迎すべき事だ。

 

「さて」

 

 戦いが終わったとなれば、俺がまずすべき事は、一つ。

 

(トロワに目隠ししてやらないとな)

 

 原作通り回復して貰えたとしても、おばちゃんのビキニ姿を見て再び血の海に沈むと言うことは充分あり得る。

 

(これからアリアハンに凱旋って流れだろうし、そこにあのローブでアリアハン行きはなぁ)

 

 ぶっ倒れてる暇など無い、寧ろ人間の町をうろうろしても大丈夫な格好をして貰わないと困る。

 

(側に侍るって言ってたけど、バラモス軍に所属してた格好じゃ兵士に槍を突きつけられても驚かないし)

 

 まぁ、着替えさせるとなるとそれはそれで悩ましいのだけど。

 

「マイ・ロード、着替えさせて下さい。まずは脱がせて……なんでしたらそのまま押し倒して頂いても構いませんよ?」

 

 ぐらいのことは言い出しそうだ。人目を惹きそうな大きい胸とお尻は当人が開発した袋で何とかなるにしても。

 

(うーむ)

 

 そうして事後処理に思いを馳せ、鞄から布を取り出してトロワの元に向かっている時だった、暖かい光が俺達を包んだのは。

 

(しまった)

 

 考え事は後にすべきだったのだ、だが、まだ間に合う。

 

「ん……はっ、ここは?」

 

「っ」

 

 目を開き、周囲を確認しようとする変態娘へ胸中で間に合えと叫びながら距離を詰めると、手に持った布でまず目をふさぐ。

 

「な」

 

「トロワ」

 

「あ、マイ・ロードでしたか。解りました、目隠しプレイという奴ですね?」

 

 呼びかければ視界が突如塞がれたと言うのにあっさり警戒を引っ込め、若干嬉しそうに納得する変態に俺の心は複雑だった。

 

(一応、変態で助かったという一面も有るにはあるんだよな)

 

 連れ回す事を考えると全自動社会的地位殺害機でしかないのだけれど。

 

「とりあえず、抵抗はするなよ?」

 

 何はともあれ、今は大量出血を避けるためにも目隠しをしてしまうべきだろう。

 

「はい、マイ・ロード。何でしたら自分で付けましょうか?」

 

 乗り気の反応に若干頭は痛いが、この程度を気にしていては何も出来はしない。

 

(戻ったらシャルロット達とのOHANASIが待ってるんだもんな)

 

 この城でやらかしたことの清算はどれ程高くつくのか。今の俺には想像もつかなかった。

 




バラモスが倒されたようだな。

あんなにあっさり倒されるとは

まさに我ら四天王の(略)

次回、第四百九十五話「エピローグ」

バラモス倒しましたし、一応ね?

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