強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百九十七話「逃亡者のたたかい」

「大魔王ゾーマよ! 遠いところ俺に倒されによくぞ来た!」

 

 一旦脱いでいたやみのころもを纏いつつ口にした台詞は、こちらへやって来るラスボス様の台詞をもじったもの。

 

「『俺に倒されに』だと?」

 

「ふ、アリアハンは今貴様の部下を倒した祝宴の真っ最中だ。本来なら招かれざる客はお引き取り願おうとでも言うところなのだろうがな、俺は少々虫の居所が悪い」

 

 この段階でゾーマが現れ、アリアハンの兵士を殺すというイベントがなくただの宣戦布告であればここまで急いでシャルロットの元を離れる必要はなかったのだ。

 

(全てがうまくいったとして、どういい訳したものか)

 

 頭の痛い問題だが、そもそもこいつが世界を越えての侵略などおっ始めなければ、シャルロットが父親の居ない家庭で育つことも、年頃の少女でありながら過酷な冒険の旅をする必要も無かったはず。

 

(元バニーさんの親父さんが魔物に殺されたのも、クシナタ隊のお姉さん達が生け贄にされたのも)

 

 全ては目の前の魔王のせい。

 

「わははははは、わしを倒すか……面白い冗談を言う。我こそは全てを滅ぼすもの!」

 

「そんなことは知っている。そして、『滅びこそわが喜び』なのだろう?」

 

「な」

 

 驚くゾーマを前に俺は何ともつまらなそうな態で、言葉を続ける。

 

「お前の部下は愉快な奴だった。同時にアホでもあったが、ある洞窟で俺が居るのにも気づかず、色々しゃべっていたぞ? まぁ、せめてもの情けで内容は伏せるがな」

 

「部下?」

 

「解らんならそれでいい」

 

 半分以上嘘ではあるが、色々知っている理由を親切に説明してやる必要は皆無だ。首を傾げるゾーマに答えることなく、俺は鞄からそれを取り出す。

 

「だが、邪魔なそいつは消させて貰おう」

 

 ゾーマに単身立ち向かうのだ、流石に準備はしてきてある。おばちゃんを送るためのキメラの翼を貰うとシャルロットの持っていた袋を手にした時、こっそり拝借してきていたのだ、ゾーマを弱体化させる光の玉を。

 

「ほほう……わがバリアを外すすべを知っていたとはな。しかし、むだなこと」

 

「ふ、無駄かどうか試してやろう」

 

 普通に考えれば、単身でゾーマを倒すのはレベルがカンストしてようがきついと思うが、一動作分で二度動ける今の俺なら、前提条件が違う。

 

「でやあっ、はあっ」

 

 地を蹴るなり一気に距離を詰めると、最初に振るったのは、鎖を絡ませた左腕。

 

「奥義、戦奪衣っ」

 

 兜なのか帽子なのかよくわからない被り物の側面に生えた角に鎖を絡ませ、腕を引くことでまず頭防具を奪う。

 

「な」

 

「バラモスの死体を見てこなかったのか? 何故あいつが全裸だったと思う?」

 

 バリアを外すだけなど手ぬるい弱体化で終わらせる気はない。

 

「盗賊の恐ろしさ、そのみにとくと味あわせてくれる!」

 

「ぐっ」

 

 二撃目は、バイキルトで威力を倍加させたまじゅうのつめによる斬撃。すくい上げるように振るった一撃で散ったゾーマの血をバックジャンプでかわすと身構える。

 

「来い、大魔王」

 

「お、おのれ……おのれぇっ!」

 

「ちいっ、流石にバラモス程度には速いな」

 

 激昂して両腕を叩き付ける様に振るうゾーマの一撃が身体をかすめるが、この程度は許容範囲。そも、ひかりのたまで攻撃力まで弱体化している上、こっちは呪文で防御力を底上げしているからか、損傷は軽微だ。

 

(冷静な判断をされちゃ、拙い)

 

 ゾーマの使う呪文や特技の中で一番厄介なのは、全ての補助呪文効果をかき消す凍てつく波動。

 

(呪文は反射され、ブレスは軽減され、ここに来て攻撃まで当たらないとなれば)

 

 いくら頭に血が上ってようが、補助呪文の解除を狙ってくる。

 

(一発二発貰ったとしても、回復呪文を使えば良いだけのこと)

 

 補助呪文をけっこう使ったが、攻撃呪文を使わず物理攻撃中心で戦えば、精神力が枯渇することもないだろう。

 

「ならばっ」

 

 バックジャンプで距離が開いたせいか、ゾーマが吹雪を吐き出し。

 

「くっ」

 

 顔を腕で庇いつつ俺は顔をしかめる。

 

(寒っ、て言うか痛ッ。フバーハで軽減出来てるとは言え、直接攻撃の比じゃないし)

 

 攻撃の手数を減らして身を守ればある程度はどうにかなるが、それだけだ。

 

(そう言えばシャルロットの親父さんはこのブレス無効なんだっけ、羨ましいなぁ)

 

 ふいに今は割とどうでも良いことを思い出すと、身体を揺すって貼り付いた雪を落とす。

「流石は大魔王か、だがな。俺も弟子をもつ身、早々容易くは負けられんっ」

 

 右手はまじゅうのつめ、左腕はチェーンクロス。二つの武器を交互に振るえば攻撃の手数は実質、倍っ。

 

「ぎっ」

 

 叩き付けるように振るった鎖を支点に自分の身体をゾーマの懐まで運び。

 

「でやあっ」

 

「ぐお、うおっぶっ」

 

 爪で一撃をくわえた上で絡ませていた鎖を引いて顔面を地面へ叩き付け。

 

「はあっ」

 

「がっ」

 

 倒れ込んだゾーマの身体にまじゅうのつめを突き立てる。

 

(防御を捨てれば倍は攻撃出来るんだけど)

 

 八連撃でも流石にラスボスは倒せまい。

 

「ぐううっ」

 

「ふ、流石にこの程度では死なんか」

 

 起きあがってくることもわかりきっては居た。だからこそ俺に驚きはなく。

 

(原作だとこいつのHPってどれくらいだったっけ。あー、こういう時詳しいデータ覚えてたらなぁ)

 

 無い物ねだりであることを理解しつつ胸中で嘆きつつも、再び地面を蹴る。

 

「ならば倒れるまで切り刻むだけだ」

 

 俺にとって他の選択肢はないに等しかったのだから。

 

 




へいる は いくさだつい を はなった!

ゾーマ に232 の ダメージ! ゾーマ の しゅびりょく を 25 さげた!

へいる の こうげき!

へいる は ゾーマ に 306 の ダメージ!

ゲーム風にするなら戦いの一部はこんな感じです。

次回、第四百九十八話「たたかいのゆくえ」

ゾーマのHPからすると最短5ターンぐらいで決着が付くかな、アレがなければ。


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