「……まったく、お前という奴は」
新たな旅立ちが変態マザコン娘と一緒になったのには微妙な悪意を感じるが、流石にここで放り出す訳にもいかない。
「ところでマイ・ロード、他の方の姿がありませんがよろしいのですか?」
「よろしいも何も、説明する暇さえなかっただろうが、さっきは。……まあいい、目的地に――バハラタに着くまでは些少の余裕があるからな」
今の内に説明しておくのもいいだろう。
「この旅の目的はゾーマ討伐とは別のもの、必然的にゾーマを倒しに行く勇者のシャルロット達とは別行動になる。そして、アンもあちらについて行くだろうからな、こっちについてきたからには別行動だ」
「え゛」
俺の説明に早速固まる辺り、やはり先程は何も考えず抱きついたと言うことか。
「ままんと……はなればなれ? べつ、べつ? 」
ブツブツ呟きつつ虚空を見つめる瞳は完全に焦点が合っていないが、あの異常なマザコンッぷりを見ればこの反応も無理はない。
「そもそもアンはお前や息子をシャルロットとゾーマの戦いで失わぬようにこちらについたのだからな。ゾーマ討伐で息子がシャルロットと戦うことを避けるつもりならあちらに同行するのは仕方あるまい?」
俺としてはトロワがあっちに行ってくれてもいっこうに構わなかったのだが、側に侍るという誓いを守るためか、ただ子供が欲しくて何も考えていなかったのか、抱きついてきた結果が現状である。
「バハラタには少なくとも連絡要員ぐらいは残っているはず。そこでまず、クシナタ隊と合流して、隊を二手に分ける」
もう変態マザコン娘には聞こえちゃ居ないだろうが、俺は説明を続けた。
「片方はシャルロットのゾーマ討伐に協力する為の隊。ゾーマが取り巻きを引き連れて本気で勝負してくるようならこちらも数で相手をせねばならん。2~3パーティで同時に戦えばそれでもおそらくは勝てると見た」
複数グループを全て一つの集団と見なしてしまえば、補助呪文の要員を減らすことが出来る。スクルトやフバーハと言った補助に手を割く人間が四人中三人では厳しいが、八人中の三人ならば充分攻撃に回せる人員が出てくるし、十二人中九人が攻撃に回れるなら、左右に前座のメンバーを引き連れたゾーマとの戦いだって充分勝負になると思う。
「そして、ゾーマとの戦いで単身強敵に挑むというのが軽率だったことを俺も学んだ。失敗してようやく気づくとは我ながら度し難くはあるがな。故に、残りの隊のメンバーとお前で神竜に会いに行くためのパーティーを編成する」
もっとも、そのままでは足手まといになる面々も居るであろうから、レベリングは必須だ。
「まぁ、修行の前にダーマに寄ることになると思うがな」
ガチで神竜に挑むつもりなら相応の準備が必要になる。出来れば全員が補助呪文と回復呪文の使えるメンバーであることが好ましい。
(遊び人から賢者にした上でそのままか、もしくは盗賊が鉄板だよな)
問題はこの鉄板に一番近いクシナタ隊のメンバーが俺の天敵であるという点だ。
(スミレさんは……うわぁ、迷う。シャルロットに同行して貰うと変なこと吹き込みそうだし、こっちに着て貰うとトロワと嫌な化学変化起こしそうだし)
いきなり編成問題で壁にぶち当たった気がする。
(カナメさんはエピちゃんがもれなくついてくるだろうから、勿体ないけど控え……かなぁ。エピちゃんが最終決戦で生き残れる程に強くなれるなら話は別なんだけど)
ちなみに、クシナタさんはゾーマとの対決側だ。勇者になっちゃってるのにゾーマと戦わないのはアレだし、ゾーマと取り巻きを一緒に相手にすることになるなら、敵全体を攻撃可能な範囲攻撃の上威力も凶悪な勇者専用魔法の使い手が多いのに越したことはない。
(ただし、サイモンは駄目だろうなあ。色々やること残ってるみたいだし)
ついでに言うなら、レベルも足りないと思う。もし、同行して貰うなら、イシス名物はぐれメタル風呂フルコースは必須だ。
(うん、トロワにも必須のコースだろうけれど、トロワだし、良いよね?)
流石に女性へあんな変態的修行法を強制するのは外道だが、元々変態だし、許されると思う。
「ふむ、あとは装備面か。シャルロットに同行するメンバーに装備を調達、時々こっちへ戻ってきて貰うよう依頼しておけばある程度は何とかなるな」
防御力だけなら元バニーさんのおじさまが開発した「きわどい神秘のビキニ」があるが、あれを変態娘に装備させるのは危険すぎる。
(確か、マイラの村のすごろく場のよろずやでドラゴンローブってブレスに耐性のあるローブが買えたはず)
資金面は交易網作成の報酬があるから問題はない。
(ああ、それならシャルロット達が出発した後、アリアハンに戻らないとな。借りを返し忘れたメダルマニアのオッサンがいたし)
迷惑料としてすごろく遊び放題のアレを要求しても問題はあるまい。
(とりあえず、やるべき事はそんなところかな。強いて言うなら、あとは最後の鍵の回収ぐらい)
もう解錠呪文のアバカムが使える人間が三人居るシャルロット一行には必要ないとは思うけれど、回収したら防具を持ってきてくれたシャルロット同行組のクシナタ隊に渡してもいい。
(……そう言えば、鍵が必要だって言ってたオッサン、クシナタ隊の魔法使いと会えたかなぁ? そっちも一応追跡しておくか)
戦力揃えて神竜と対決するだけで良いかと思ったら、意外とやることは多いなぁと俺は呟くが。
「ままん……ふふ、うふふふふ……」
目の死んだ同行者は、まだ戻ってくる気配がない。
「まぁ、コレは追々どうにかするとして……まずは着地か。あ、ひょっとしたら着地の衝撃で我に返るかな? いや、腰でも打って歩けなくなったらこの発情型変態娘を背負わにゃならんくなるし……うーむ」
最初にしなければならないこと着地について考える事になるのは、悲しいと言うか情けないものの、着地失敗のめんどくささは骨身に染みている。
「どうか着地を失敗した上クシナタ隊の連絡要員に目撃されるなんてオチが待っていませんように」
空の上で、俺は祈りを捧げる。
「あっ、これってフラグ何じゃ……」
とか縁起でもないことを後になって気づいたが、もう遅すぎた。
「ままん、ままぁん」
「うわ、ちょ、抱きつくな! 俺はお前の母親じゃ、正気に戻、って、やば、もう着」
せかい は なんで こんなに あくい に みちて いるんだろう。あと、うった こし が いたかった です。
ほぼ毎日更新がこれで終わりだとでも思っていたのか?
さて、どうなるでしょうね?
とりあえず、最終話のちょっとした補完のお話をお送りしました。
こうして主人公の苦難は続くのであった。
と、そんな感じで今回は締めくくってみるのです。
とーびーーこんてにゅー?