強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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EX3・番外編「変態の夜(???視点)」

(しかし、本当に何があるか解らないものだな)

 

 縛られたまま、ベッドに転がりつつ私は胸中で呟く。アレフガルドにいた頃は、こんなことになるなんて思いもしなかった。

 

(いや、そもそも将来起こりうることを予め知りうる者の方が希なのだろうが)

 

 そう言えば、ゾーマ様には未来を予見する力があると言う噂が一時期あったが、あれは本当なのだろうか。

 

(だとすれば、私がこうしてマイ・ロードのお側に居ることも、既に見通していたと……)

 

 そこが解らない。こちらの世界に赴任する許可を出されたのは、かつての主だったゾーマ様だが、未来を予見出来るなら、私が離反する事さえ知っておられたはず。

 

(何もかもがまだあの方の掌の上と言うことか、それとも……)

 

 バハラタにつくなりマイ・ロードのお話しになったことには驚きの連続だった。

 

(まさか、人間の身でゾーマ様とやり合えるだなんて……)

 

 単身で宣戦布告に来られたゾーマ様と戦い、圧倒。私の作ったあの袋に忍ばせたバラモスの骸から作り出したゾンビを加えての二対一になったことで勝機は消え、ゾーマ様が引き分けと仰って引かれたことで決着はつかずに終わったとの事だが、私の胸中は複雑でもある。主を単身で戦わせてしまった後悔とそして安堵。

 

(もし、その場にいたなら私は迷った筈)

 

 ゾーマ様はかつての主であり、その力の強大さも知っているが、マイ・ロードについたとしたら、ゾーマ様の元にいる弟の身が危うくなる。

 

(とは言え、マイ・ロードを裏切ることもあり得ない)

 

 ママンの命の恩人であるし、私自身マイ・ロードには恩がある。

 

(ゾーマ様とマイ・ロードの一戦でその恩も一つ増えてしまった)

 

 マイ・ロードは足手まといだからと仰ったが、おそらく私が葛藤することを見越して敢えて一人で赴かれたのだろう。そんな気遣いをさせてしまったことが、僕としては口惜しく、同時に嬉しくもある。

 

(少々マニアックなプレイのお好きな方ではあるが)

 

 こうして毎夜毎夜縛られるのも、最近は悪くないように感じ始めた。

 

(最初は縛ってからあれやこれやされるのかと思ったものの、そうでもないのだからな)

 

 おそらく、私を試しておられるのだろう。縛られれば、当然こちらは無防備になる。無防備な自分を曝せるほどの信頼を見せ続けてマイ・ロードの信を得た時、ようやく次のステップに進めるのだ。

 

(マイ・ロードの信用と寵愛、そしてゆくゆくは)

 

 ああ、その日が待ち遠しい。

 

「ん゛んぅーう」

 

 主を呼ぼうにも猿ぐつわをかまされたままではくぐもった声が漏れるだけ。

 

(いや、聞こえたとしても「トイレか?」と言われるだけかもしれないが)

 

 少し聞きかじっただけだが、マイ・ロードが信を試されたのは私だけでは無かったらしく、私より以前に信を試され粗相をしてしまった者がいたらしい。そのせいか、せっぱ詰まった時は呼べばすぐに察して貰えるのだが。

 

(隠語にされた先達に感謝せねばな)

 

 心の中でありがとうエピちゃんと私は礼を言う。

 

(しかし、先達と言えばあの人間達……シャルロットとミリーと言ったか)

 

 マイ・ロードの側に侍りやりとりを拝見していればすぐ気づく、マイ・ロードが私より同族の女達を重く扱っていた。同族の上、古参。当然と言えば当然でもある。

 

(マイ・ロードとの間にも信頼関係が築かれていたようだし)

 

 だからこそ、バラモスを倒し約束を果たしたので別れたのだとマイ・ロードが仰った時、驚きを禁じ得なくもあったのだが。

 

(約束という繋がりだけで互いにああも想い合うとは、思えない)

 

 人間だから私とは違うと言うことなのかもしれないが、種族の違いで割り切るには不可解が過ぎた。

 

(あれど、私は僕。詮索すべきではなかろう)

 

 主の寵愛を選るには、側に同性が居ない方が都合が良いというのもあるが、立ち入ってはいけないようなものがあるとも思えるのだ。

 

(マイ・ロードがお怒りになると、痛いしな)

 

 アリアハンを飛び立った後、頭を握り潰さんがばかりに掴まれた記憶は、まだ新しい。

 

(だが、初めて私を叱って下さった方でもある……)

 

 思えば産まれて物心が付いた頃には両親から褒められたくてひたすら品性方向に振る舞っていたが、だからか誰かに怒られたり叱られたという記憶が私には殆ど無い。

 

(だから、新鮮だったな。まぁ、痛いモノは痛いのだが)

 

 我ながら歪んでいるとは思う。その新鮮さを味わいたくてわざとアホなふりをしたり、主をからかったりすると言うのは。

 

(何だかんだで人の良い方であられるからな、マイ・ロードは) 

 

 私がふざけて叱って頂けるのも、主人の性格のお陰である。ただ、あれほどのお力を持ちつつ、男性としての自己評価が驚く程低いところが若干気にかかるが。

 

(だからこそ、身体が目当てだというあけすけもない直球ならば効果的の様ではある。ものの……)

 

 あの主と別れた人間の娘達が気にかかる。

 

(マイ・ロードはあの二人のことをどう思っておいでなのだろう……いかんな、結局こうなるか)

 

 詮索は越権だと思いつつもやはり気にしてしまう自分が居て、縛られたまま苦笑しつつ私は寝返りをうった。

 




弟だったので今度は姉のターン。

変態と見せかけて叱られたい誘い受けな変態さんだったというお話。

さて、お気づきでない方もいらっしゃるかも知れませんが、新作始まりました。

いや、このお話の続編にもあたるんですけどね。

タイトルは「強くて挑戦者」、主人公が神竜に挑むお話(になる予定です)。




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