強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四十九話「どきどきだっしゅつだいさくせん?」

「いや、仲間にどうのこうのの前によく考えたら爺さんどうやってここに? 平然と入ってくるから流してたが」

 

 時間差ながら、割と的確なツッコミだった。

 

(人間、それが当然だと言わんがばかりに行動してると結構気づかないもんだからなぁ)

 

 小学校の時、運動会の組を間違えて別の場所にいたのに、気づいたのは競技が終わった後だったのを思い出しつつ、俺はとぼけたように笑う。

 

「ほっほっほ。なあに、この世界には『きえさりそう』という煎じて使えば一時人を透明にする不思議な植物が売られて居る町があるのじゃよ」

 

 効果としてはレムオルと同じという使い切りアイテムだが、使い方によっては犯罪にさえ利用出来てしまうモノを普通に道具屋で販売していて良かったのかと今更ながらに思う。

 

「少々稀少じゃが、道具として使うと相手を眠らせる呪文と同じ効果を持つ魔法の杖も広いこの世界では売られて居るのじゃよ」

 

「……そんなモノホイホイ売ってて大丈夫なのか?」

 

「むぅ、おそらく相手を見て販売してるのではないかと思うんじゃがな、節操なくとはワシも考えとうないわい」

 

 世界の闇というか矛盾に図らずも光を当ててしまう結果になったような気がするが、これはゲームだからで割り切るしかないのだろうか。

 

(って、そんなこと考えてる場合じゃなかった)

 

 いけない、危うく脱線するところだった。

 

「で、話を戻すがのぅ。実はこの国の王は……王座にいる方はこの国に伝わる変化の杖という魔法の杖で王の姿に化けた魔物なのじゃ」

 

 だが、この魔物を何とかするには真実の姿を映し出すラーの鏡というモノを捜し出し、鏡の力で正体を明らかにしてから倒す必要があるとも俺は説明する。

 

「何でそんなまどろっこしいことを? 偽物だってわかってて……って、倒すって言ったよな? 倒す算段が付いてるようなら尚のこ」

 

「そうもいかんのじゃよ。まず、ワシのような爺の言うことをあっさり信じたことの是非は置いておくとしてな、もし人が魔物と入れ替わって居ることが発覚すれば、疑心暗鬼に駆られる者が出てきおる」

 

 王が偽物だったなら他にも偽物が居るんじゃないかと疑う人が出てくるのでは、ということだ。

 

「これが拙い。一応当人にしかわからん質問をしてみるなどという確かめ方はあるんじゃが、人とあまり関わっておらなんだ者にはこの方法は適用出来ぬやもしれぬし」

 

 場合によってはその事態を悪用する者が出てくる可能性もある。

 

「例えばじゃ、サマンオサ王には娘が居る。その姫も魔物やもしれぬので服を脱がせ裸にして検分する必要があるなどと言い出す者が居た、などという展開がわかりやすいかのぅ?」

 

「っ、なんだそりゃ? いったいどうしてそんなことに……」

 

 ぶっちゃけ、最悪の場合もっとえぐいことをしでかそうとする輩が出ると俺は見ている。

 

(まぁ、要するに「魔女狩り」が発生する危険性だよな)

 

 この世界のモンスターではなく、現実世界の西洋とかでおきた言いがかりによる虐待や処刑と言ったアレだ。

 

「人は誰しも善良という訳ではない。ここほどではないが別の国にも牢はあった。人も集まれば唾棄すべきような人間の一人二人居るもんなんじゃよ」

 

 最悪の事態を考慮に入れたからこそ思い至った最悪のケースは疑心暗鬼が広がって魔女狩りが横行、国が更に荒廃すると言うパターンである。

 

「ま、その事態もラーの鏡が有れば解決できるじゃろう?」

 

 言いがかりがつけられた人を魔物じゃないと照明した上で、悪意のある言いがかりであった場合は逆に言いがかりをつけてきた方を処罰する。本当に魔物だったなら、ボストロールの後を追わせてやるだけなので何の問題もない。

 

(まぁそんな鏡があるとわかった時点で、知能のある魔物だったら普通逃げ出すよな)

 

 ともあれ、まずは偽国王の正体を暴くことだ。

 

(だいたい、ここで鏡を見つけておかないとシャルロットの子孫が一生犬の姿で過ごすことにだってなりかねないし)

 

 ラーの鏡の確保は譲れないのだ。

 

「そんな訳での、ラーの鏡は偽国王にとって都合が悪い。じゃからこの牢に囚われておる者の中に鏡のことを知って居る者がおらんかと探りがてら助けに来たのじゃよ。……お前さんが捕まった原因も元はワシが話を振ったことでもあるからのぅ」

 

「なるほどな。後のことまで考えりゃ爺さんが正しい……てか、俺のことはほっといてくれても良かったんだが」

 

「そうもいかんじゃろ。だいたい、鏡を確保するにしてもまだ情報が殆ど入って居らぬ。危険な場所にあった場合、優秀な戦士が護衛してくれると力強いとは思わんか?」

 

「爺さん……」

 

 俺の方をじっと見つめてくるブレナンから俺は背を向けると、肩を竦める。ぶっちゃけ、変装が未完成なのでまじまじ見られると困るのである。

 

(うん、色々台無しな気はするけどね)

 

 追求しないで居てくれるとありがたい。

 

「で、問題は脱出するかどうかなどじゃな。死刑が執行されないという保証が有れば窮屈かも知れぬが、ワシが鏡を見つけ、偽国王が倒されるまで待ってて貰うのも手なんじゃが」

 

「ない、な」

 

「うむ、となるとワシの思いついた案は二つ。この牢の入り口を何らかの手段で塞いで引きこもると言うのが一つめ。あくまで立てこもりと言うよりは牢の一部が崩れて閉じこめられてしまったという態じゃな。人が来られぬなら処刑もない。時間稼ぎにしか過ぎ」

 

「ちょっと待った、入り口を塞ぐってどうやんだ?」

 

「うむ、世の中には爆発を引き起こせる危険な道具があってじゃな」

 

「って、またそのオチか」

 

「オチと言うでない」

 

 実際は道具と誤魔化して呪文で落盤させちゃおうと言うかなり危険でいい加減な作戦なので、これは保険だ。

 

「もう一つはじゃな、名付けて『どきどきだっしゅつだいさくせん』まぁ、単に脱走じゃな。ワシとてこう見えて知り合いは居る、仲間を呼んで人質にされそうな家族ごと異国に一旦逃がすというものじゃ」

 

 キメラの翼を多用すれば、一人一組でかなりの数をポルトガに逃がせるだろう。

 

「どっちにしても一時しのぎでよい、最終的には偽国王をやっつけるのが目的なのじゃからな」

 

 さっき眠らせた看守が責任を取らされて処刑されるという可能性もあるので、あの兵士には申し訳ないが強制的に逃亡劇に付き合って頂く予定である。

 

(だいたい城に詳しい協力者は絶対必要だもんな)

 

 恨まれる可能性は大だが、そこは後払いで国を救うことでチャラにして貰おう。

 

「だいたい話はわかった。けど、どうやってここから逃げんだ?」

 

 最初の案は無かったことに下らしく、質問してくるブレナンに俺は言う。

 

「なぁに、こういう牢には抜け道があるのが相場と決まっておる」

 

 ゲームの場合逃げられないと詰むから、とは言わない。

 

「無いようなら無理矢理こじ開けるから安心せい」

 

「あー、なんだ、悪ぃけど不安しか湧いてこねぇ」

 

「むぅ」

 

 かわりに安心させようと続けた言葉は引きつった笑いを返されて、腑に落ちないものを感じながら、俺は考える。

 

(抜け道は用意されてるとして、抜け出した後か。ブレナンを連れてルーラすればキメラの翼で輸送出来る人間が一人増える)

 

 助け出した人達全員にやってもらうことで効率アップというのも考えたのだが、おおっぴらにやると「戻ってきたら兵士が街の入り口で大歓迎」なんて対策を立てられる恐れもある。

 

(ブレナンなら兵士相手でも些少の立ち回りは出来るだろうけど、一般人の皆さんにそれを要求するのは酷だよな)

 

 せいぜい頼めてシャルロット達までだろう。あとは、アリアハンに残ってる居残り組の女戦士。

 

(そして、あとはマシュガイアーか)

 

 別行動故に所在地不明な謎の人は今何をしているだろうか。

 

「とうッ」

 

 俺が、そんなことを思ったからではないと思いたい。

 

「なっ」

 

 驚きの声を上げたブレナンよりも聞き覚えのある声に意識は向いた。顔は嫌が応にも引きつった。

 

「ここは、地下牢かッ」

 

 ビシッとポーズを決める覆面マントの変態さん。別行動してるはずの謎の人が牢の通路奥にあった階段から上がってきてすぐそこにいたのだから。

 




なにやってんですかましゅ・がいあーさん。

何故か地下牢に現れた謎の人。

脱出どころか変態がやって来たでござる。

次回、番外編5「残された者達(商人視点)」

ほら、あっちも放置しっぱなしじゃかわいそうだし……

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