強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第五十話「牢獄の奥からやって来た変態」

 

「な、何じゃお前さんは?!」

 

 人目があること、別々に動いていたことを思い出した俺は、少し遅れつつも初対面の態を装って覆面の人に誰何の声を投げた。

 

「私の名は『マシュ・ガイアー』。そう、複数の呪文を使いこなす謎の人物なのだッ!」

 

「自分で自分のことを謎の人物って……」

 

 俺が教えたとおりに名乗り謎の人物がポーズを決めれば、ブレナンは胡散臭げにかの人を見やる。

 

(えーと、この展開って俺のせい?)

 

 もっと無難なキャラで設定しておくべきだっただろうか。

 

(けどなぁ)

 

 その場のノリで動けるようなあのキャラでなければ、ほこらの牢獄にから囚人を脱獄させようなんて行動には移せなかった。

 

(あの時は必要だったんだ)

 

 今は演じてくれてるサイモンさんにひたすら申し訳ない気持ちで一杯だが。

 

(とりあえず、ここを抜け出してさっさと「マシュ・ガイアーセット」を受け取ろう)

 

 ラーの鏡についての情報収集が残っているが、ひょっとしたらこの牢内に情報提供者が居るかもしれない。

 

「ともあれ、地下から来たということはそこの謎の人とやらが土から湧いて出てくる生物でなければ、地下にも外に繋がる場所があるということじゃろう」

 

「や、土から湧いてくるとかそれどんな怪現象だよ」

 

「違うかのぅ?」

 

「うむッ、正解だッ。地下通路があるッ」

 

 挙げた二択の片方に入るツッコミをスルーしつつ俺が問えば、謎の人は頷いて。

 

「爺さんの冗談じゃなかったのかよ。って言うか相場って……」

 

「そこは言葉のあやじゃ。そもそも城ともなれば王族の脱出用に隠し通路の一つや二つ設けるものじゃろう? ま、地下牢に有るかどうかは賭けじゃったがの」

 

「……おいおい」

 

「もっとも、この城は川で町から隔離されて居る。このパターンで脱出用の隠し通路を設けるとしたら、船を使って川を水路がわりにするか川の底を抜けて行く地下道のほぼ二択じゃ」

 

 そして、後者なら地下から通路を延ばした方が労力も費用も少なくて済む。

 

「よって、この程度は想定内と言うことじゃよ。問題はこっちの御仁が何故その通路からやって来たかの方じゃが」

 

「言われてみればそうだな」

 

 ブレナンも俺の言葉に頷いたが、まさにそれが謎である。

 

(最初から知ってた可能性だって否めないけど)

 

 マシュ・ガイアーに仲間が居ることを悟られぬ為、わざわざ単独行動をとって貰っていたのだ。ここで合流しては単独行動していた意味がないし、それぐらいのことはサイモンさんも承知だろう。

 

「説明しようッ、墓地を歩いていたら足下が急に崩れたのだッ」

 

「「は?」」

 

 思わず声をハモらせた俺とブレナンに謎の人は語る。落ちた場所が通路の出口らしき場所だったので、気になって逆に辿ってきたのだッ、と。

 

「では、純粋な好奇心から辿ってきたと?」

 

「うむッ」

 

 マシュ・ガイアーは頷くが、俺は知っている。それが真実ではないことを。

 

(たまたま隠し通路を見つけて、そのまま帰るのは忍びないと下見しようとしてくれたんだろうな)

 

 墓地に寄った理由はこの場で答え合わせする訳にはいかないから憶測だが、知り合いの安否を確かめたかったのではないかと思う。

 

(ずっと牢獄の中だった訳だし)

 

 圧政で人々が処刑されているという状況下、あの格好では人に聞いて回る訳にも行かず墓を一つ一つ確認して知人の無事を確かめたかったのではないか。

 

(しっかし、墓地に続いてたのか)

 

 抜け道があることは疑っていなかったが、出口の場所は完全に忘れていた。

 

「何にせよ脱出手段は確保出来たようじゃし、ここでぼやぼやしとっては処刑を執行する為の人間がいつ降りてくるとも知れん。そろそろ失敬せんかの?」

 

 そもそも、俺がこの時点でボストロールを倒すと一大決心をしたのも、処刑される人達を救いたかったからだ。とりあえず逃がす手段を得たのだから、実行に移すべきだろう。

 

「あ、ああ」

 

「きまり、じゃな。お前さん、悪いが先導してくれんかの?」

 

 提案に頷くブレナンを横目で見るた俺は、謎の人に水先案内人を頼みつつ、脳裏で今後の計画を修正する。

 

(とりあえず、処刑される危険性の高い人間から逃がすとして……国王も一緒に一旦逃がすべきかな)

 

 囚人がごっそり居なくなれば、誤魔化しようがない。逃走経路を探す過程で偽国王からすると見つかって欲しくない本物が見つかってしまったら拙いことになる。

 

「最悪口封じされる可能性もある。よって、囚われておる者はみんな連れて行くことになるが、何とかなるじゃろ」

 

「何とかって……」

 

 二の句も告げないと言った顔でブレナンが見てくるが、こればっかりはしょうがない。計画が大幅に狂ったのだ。これこれこうして成功する、なんて保証も詳細説明も出来かねる。

 

「お前さんには王様を背負って貰うと言う大役を担って貰おうと思って居るのでそのつもりでの? ちなみにワシは一番楽なポジションじゃ」

 

「ちょっ、てか楽って何だよ?」

 

「ほっほっほ、この老人に力仕事は無理なのでのぅ。便利な道具でちょちょいと追っ手の対策をな」

 

 抗議に戯けるようにして俺は答えたが、ぶっちゃけ殿である。

 

「待てよ、追っ手の対策ってそれ、殿ってこ」

 

「先に逝くのは年老いた者からと相場は決まって居る。そも、お主には家族が居るじゃろうに」

 

 こういう時だけ勘のいいブレナンの言葉に自分の言葉を被せると、俺はブレナンの手にキメラの翼の束を持たせ、一人片っ端から牢の鉄格子に解錠呪文をかけて行く。

 

「さて、『どきどきだっしゅつだいさくせん』の開始じゃな?」

 

 口調は楽しげにするが、ここから始まるのはハードワーク以外の何ものでもない。

 

(場合によっちゃ助けた人からの聞き取り調査や王様の介抱みたいな危険のない仕事はそれこそポルトガのシャルロット達に頼ってもいいだろうし、マシュ・ガイアーとブレナンも居る)

 

 俺だって無茶する気は更々ない。中身は一般人である訳だし。

 

「爺さん……死ぬなよ?」

 

「勿論じゃとも……カム」

 

 自分の背に投げられたブレナンの声に応じると、また一つ鉄格子を開いた。

 




ちなみに堀を水路に使うパターンはドラクエⅤのラインハットですね。

流石に混同はせず、例としてあげただけでしたが。


次回、第五十一話「鏡を求めて」

次で鏡の場所ぐらいは突き止めたい。

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