「向こうに一人の戦士と覆面をかぶった怪しい男が居る。彼らに続くのじゃ」
外に出られる、逃げられることを説明して囚人を逃がしては次の鉄格子を開ける。しばらくはその繰り返しだった。
(騒がないようにとも言い含めてるしなぁ)
上にいる城の人々とボストロールはまだ知らないのだろう、大規模な脱獄計画が進行中であることなど。
(とは言え、あの眠らせた看守だっていつまでも寝っぱなしってことはないよなぁ)
だからこそ殿に残った訳でもあるのだけれど。
(そろそろ何かあってもおかしくないし、説明は省略するか)
解錠呪文で鉄格子だけ空け、看守の居た場所へと。
「これ、何処に行くつもりじゃ? そっちには看守が居る」
流石に牢を飛び出して階段の方へと行こうとする様な輩は止めたが、そこまでイキのいい囚人は本当に少数だった。
「そこまで元気が余って居るなら、そこのご老人を運んで貰えんかの? 何、何でそんなことをしないとじゃと? 鍵を開けてやったじゃろ?」
と、鍵を開けてやったことを持ち出して労働力になって貰ったおかげでブレナンの仕事が少し減ったのは収穫かも知れない。
(もっとも、一人二人増えたところで完全脱獄までは暫くかかるだろうけれど)
それまでの時間を稼ぐのが、俺の仕事である。
「っ、お前は……よくも戻っ」
「ラリホー」
「うっ」
再会から僅か数秒、二度目なので失敗するかと思ったが対象を眠らせる呪文はきっちり仕事をし、眠りこけた看守が起きない内に俺はロープで看守の身体を縛って猿ぐつわを噛ませる。
(あとは牢にあったムシロで簀巻きにして……っと)
これで些少の時間は稼げた。上から兵士が降りて来る可能性もあるので油断は出来ないが、かといってずっと階段と睨めっこしていないといけないほどの状況下と問われれば答はNOだ。
「ふぅ……さてと、そろそろ正気に戻って貰えんかのぅ?」
俺は一息つくと、まだ鉄格子が閉じたままの牢にいた青年に話しかける。
「えっ、あ、貴方は一体……」
「スレッジというただの爺じゃよ。実は今、この牢の者達が処刑されてゆくのを見かねて逃がしておる所でのぅ。ワシがこうして追っ手を食い止めて居る間に下に降りてブレナンと言う男に伝言を頼みたいのじゃ」
我に返った青年に託す伝言は、これからそちらへ向かうと言うもの。
(よく考えたら、解錠手段の無いブレナン達じゃ先に進んでも鉄格子は開けられないもんな)
結局の所二度手間というか、俺が追いつかないと鉄格子が開けられないのだ。かといって他の二人に殿を任すのは不安があった。
(俺なら看守にモシャスして凌ぐって方法もあるし)
だったら先行して動けない者を運んで貰ったりしようと思ったのだ。
「ふおっ?」
ところが。
「むッ、時間切れかッ」
ブレナンの入っていた檻の側まで辿り着き、再びアバカムしつつ下に降りた俺が見たのは、鉄格子に取り付いて鍵穴に針金らしきモノを突っ込んだまま顔を上げた覆面の人の姿。
(ちょっ、何やってるんですかサイモンさん)
聞かれたならピッキングとか答えてくれたかも知れない。
「鍵無しで鉄格子を開けるのはやはり難しいものだッ、一つ出来たならもう一個ぐらいはと思ったがッ」
「一つ?」
言われて周囲を見回せば、内側から開けられた鉄格子が一つ。
(そっか、抜け道の入り口って牢の中だったのか)
先程のマシュ・ガイアーの行動から察するに、隠し通路を逆に辿ったサイモンは似たようなことをやって鉄格子を空け上に来たのだろう。
(知人の姿を探したが町に姿が無くて、墓地に行ってみても墓が確認出来ず……)
落ちた先の通路が牢に繋がっていたので、様子を見に来てしまったといったところか。もちろん、これは俺の想像だ。人前で有る以上、突っ込んだ話は不可能なのだから。
「ま、まぁ結果オーライと言うことじゃの」
あの服は元々俺のモノである。盗賊らしく服の何処かに解錠器具的なモノが入っていたのだろう。
(で、それを使って鉄格子を開けた、と)
勇者サイモンも牢獄に囚われていた身、きっと抜け出そうとして解錠技術を会得し、あと一歩と言うところで脱獄騒動に巻き込まれ命を落としたのだ。
謎の人が発言するまで、俺はそう思っていた。
「うむッ、暫く使われていない牢だったからか錆びていてバキッと解錠出来たがッ」
「バキっと……って」
「この分だと何もせずとも傷みが激しくて、いつしか交換したやもな」
ゲームでは交換後だったって設定なんですね、わかります。
(ま、まぁ本物の国王だって飲まず食わずじゃ命を落とすし……)
少なくとも食事を与える為に誰かが来ていたのは、間違いない。
(けど、誰が直したのやら……)
うっかり牢を間違えたボストロールが鉄格子を壊してしまい、城の者に隠れてコソコソ鉄格子を交換してるというシュールな絵面が浮かんだが、即座に忘れることにする。
「って、んなことはどうでも良い。それより爺さん、見つかったぜ、ラーの鏡知ってるって奴」
「なぬっ」
正確に言うと、吹っ飛んでしまったが正しいか。
「あ、それじゃあんたがブレナンさんの言う……俺にとっても恩人だ、大したことは知っちゃいないがこれで礼になるなら聞いてくれ」
待ち望んだ情報は意外なところからではなく、しかも予想外と言えるほど唐突でもなく。
「なるほどのぅ」
うろ覚えの知識を補完して俺に次の目的地を示すのだった。
有力情報を得た主人公。
次に向かうは鏡の在処か?
次回、第五十二話「その前にしておくこと」
ああ、そう言えばまだ地下牢でしたよね。