強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第五十五話「ラーの鏡」

(うわぁ)

 

 聳える二本の柱、間に鎮座する宝箱。いかにもここが正解でしたよと言わんがばかりの光景は強烈な腐敗臭を伴って眼下に広がっていた。

 

(この距離でも色々キツイな)

 

 俺がロープでぶら下がっている穴から落ちたのであろう動く腐乱死体は、ぼーっとしたり呻き声のようなモノを上げながらのたのたと地底湖の中にある小島を歩き回る。

 

(まぁ、所謂ゾンビに知性を求めてもあれかぁ)

 

 小島にはさらに下の階層に落ちる穴が見受けられるのだが、落ちてここから出るという発想に至らないらしく、くさったしたい達は、上から落っこちてここから出られなくなったのではないだろうか。

 

(いっそのこと、ここから呪文で一掃したいんだけど)

 

 見た目も臭いも接近戦などご免被りたい。だが、シャルロットにはラーの鏡を探すのは師匠である自分がすると説明している。

 

(ここでスレッジがラーの鏡を見つけた何てことになったら師としての立場が危うい)

 

 故に、ラーの鏡を見つけたのは勇者の師、盗賊の俺でなくてはならないのだ。

 

(一人で何役もやろうとしたんだ、自業自得か)

 

 スレッジが洞窟にやってきたところで丁度鏡を手にした俺と遭遇したという筋書きである。故に、ここで攻撃呪文の痕跡を残すのは宜しくない。

 

(となると、他に方法はないな)

 

 眼下のくさったしたい達に悟られぬよう嘆息すると、俺は振り子のように身体を揺すってからロープを手放した。

 

「せいっ」

 

「お゛ぉあぁ」

 

 着地点は死体の背中。

 

(う゛っ)

 

 もの凄く嫌な感触がしたが、動く腐乱死体は穴に蹴り落とされて見えなくなる。

 

「まず一体」

 

 ポツリと呟いて、足下から石を拾い、こちらに気づかない別のくさったしたいへ投げつける。

 

「う゛ぉぼっ」

 

「あ」

 

 後頭部にそのまま石が直撃したその個体は、頭のど真ん中に風穴を開けて崩れ落ちた。

 

(そ、そう言えば守備力は低かったっけ、あいつ)

 

 見た目の嫌悪感から投げた石に想像以上の力がこもっていたらしい。

 

「お゛ぉぉぉ」

 

「うぉっ」

 

「お゛」

 

 それでもすぐに起きあがってくるなどと、だれが考えよう。俺は思わず声を漏らし、頭部の真ん中に穴の空いた死体は、声に気づいたのかゆっくりと振り返る。

 

(ちょっ勘弁してくれ)

 

 冗談抜きに、足がすくんだ。

 

「お゛ぉぉぉ」

 

(うぐっ)

 

 よたよたとこちらへ寄ってくる様には、反射的に攻撃呪文を使いそうになった。

 

(耐えろ、耐えるんだ)

 

 こう言うゾンビ的なモノと戦う人って本当に凄いと思う。俺は、自分を鼓舞しながら立ちつくし。

 

「お゛ぉおぉぉぉ」

 

 くさったしたいは俺目掛けて真っ直ぐ進み――穴に落ちた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 これで二体目。動き自体は遅いこの魔物だけならこうして数を間引けば、間を縫って宝箱の所まで行くのは難しくない。

 

(念のため判別呪文のインパスで宝箱自体が罠じゃ無いかも確認するとして)

 

 余裕をもって事に当たるならこの釣り出して穴に落とすループを暫く続ける必要がある。

 

(武器を使えばもっと楽なのは、解ってる)

 

 だが、使い捨ての武器ならいざ知らず、今手にしているまじゅうのつめは替えの聞かない強力な武器なのだ。

 

(何処かに替えのききそうな武器は……)

 

「シャァァァ」

 

 見回してみても地底湖から上がってきたらしいガメゴンぐらいしか見あたらない。

 

「しかたない、か」

 

「シギャァァァァッ」

 

 妥協の結果、すれ違ったガメゴンの首が断末魔を上げながら、飛び。

 

「っ、うおおおおおっ」

 

 俺は身体のスペックを頼りに首を失った魔物の身体、馬鹿でかい首ナシの亀にしか見えなくなった死体をひっくり返す。

 

「でやぁぁぁぁっ」

 

 ひっくり返ったなら次は全力で押す。ひっくり返った亀の甲羅を蹴飛ばして敵をなぎ倒せたらそれはもう別のゲームである。だから、押した。

 

「お゛ぼ」

 

「お゛ぶ」

 

「お゛ぼあぁぁぁっ」

 

 濡れた甲羅はよく滑って、進路上にいたくさったしたい達がはじき飛ばされ地底湖に水柱を上げる。

 

「カカカカカ……」

 

「邪魔をするなっ」

 

「カカカッ?!」

 

 カタカタと歯をならしながら剣を持った六本腕の人骨が柱の影から現れたが、もう、関係ない。俺は宝箱に当たらないよう進路を変えると甲羅でぶちかましをかけて、尚も押す。

 

(……バイキルト)

 

 密かに攻撃力を倍増させる呪文まで使い、甲羅の縁を握りつぶさんばかりに力を込め。

 

「沈めっ」

 

 骸骨の態勢が崩れたのを見るや、トドメとばかりに甲羅を蹴り込む。

 

「ふぅ」

 

 声帯がないのか、とっくに力尽きたのか断末魔さえあがらなかった。骨の魔物は手にしていた鋼の剣やら骨やらをばらまきながら甲羅ごと地底湖に突っ込み、俺は額の汗を拭うと宝箱に向き直った。

 

「インパス」

 

 この大立ち回りの合間も動かず、今更宝箱の魔物でしたというオチも無いとはおもったが、案の定インパスの呪文に宝箱が見せた反応は、宝物を示す青く淡い光で。

 

「……これは」

 

 中に入っていたのは、一枚の鏡だった。

 

(これが、ラーの鏡か)

 

「お゛ぉぉ」

 

 間違いがないか検分したいところだが生憎小島の魔物を一掃できたわけではない。ついでに言うならさっきの立ち回りで他の魔物がこちらに気づいてしまった可能性だってある。

 

(長居は禁物だな、ん?)

 

 警戒の為に周囲を見回した俺は、浮かぶガメゴンの甲羅の向こうに目を留めた。

 

「宝箱か」

 

 もうここまで来たならついででもある。

 

「お゛ぉぉぉ」

 

「はっ」

 

 地面に刺さった鋼の剣を引き抜くと、こちらへやってくるくさったしたい達から逃げるように地面を蹴って甲羅の上に着地する。

 

「シャァァァ」

 

「せいっ」

 

 突如水面から飛び出してきた二体目のガメゴンに持っていた鋼の剣を投げつけて、牽制し。

 

「ギャァァァ」

 

「悪く思うな」

 

 顔面に剣が直撃し悲鳴をあげたガメゴンの首をやはりまじゅうのつめで斬り飛ばして、その甲羅を二つめの足場にする。

 

「インパス」

 

 更に甲羅の上から俺が呪文を唱えると、島の対岸にあった宝箱は青く光った。

 

(よし、鋼の剣は少し勿体なかった気もするけど、あれをとって戻ろう)

 

 予定と違ってちょっと大暴れしてしまった気もするが、ガメゴンとくさったしたいに挟み撃ちされたのだから仕方ない。

 

「さてと何が入って……って、これか。まあいい……リレミト」

 

 俺は宝箱の中から出てきた場違いに可愛い人間サイズのぬいぐるみに思わず顔を引きつらせると、リレミトの呪文を唱え、洞窟を後にする。

 

(まぁ、中途半端な老人の扮装より良いか。守備力もあるし)

 

 新たな、キャラの登場も視野に入れながら。

 




・Get
 ラーの鏡
 ぬいぐるみ

・Lost
 鋼の剣
 アサシンダガー
 ロープ

手にしたのは、鏡とぬいぐるみ。

そして、考える主人公。

まさか、着るのか? やめるんだ、誰も得しな(ザー)

次回、第五十六話「師の帰還」

 師匠、シャルロットの元に帰る。
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