強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第五十七話「出撃、マシュ・ガイアー」

 

「お師匠様、さっきはすみません。えっと、こちらです」

 

 サイモン扮するマシュ・ガイアーは俺を迎えに来ていたらしく、城に入るなり俺は待ちかまえていたシャルロットに頭を下げられたり手を引かれたりして、城の一室に通された。

 

(ああ、ここもゲームの時より部屋数が増えてるのか)

 

 ポルトガ王と会ったのは謁見の間だったために足を運ばなかったが、ゲームのポルトガ城は謁見の間とおそらく国王夫妻の寝室、それに宝物庫という下手な民家より部屋数の少ない間取りだった。

 

(まぁ、流石にあのままじゃ色々問題あるもんなぁ)

 

 保護して貰ったサマンオサ王を寝かせようにもゲームのままだったら国王夫妻のダブルベッドに寝かせるしかないなんて事態になってたはずだ。

 

「サマンオサの王様も中に、起きあがるのは無理ですけど、話が出来るぐらいには回復したそうです」

 

「そうか」

 

「はいっ、それからボク達が偽物の王様をやっつけようって計画してるのを聞いて、是非とも打ち合わせに加わりたいってお話で……」

 

「なるほど、それで王を交えての最終確認となったわけか」

 

 城の内部については王の方が詳しいだろう、そう言う意味でサマンオサ王が打ち合わせに加わるのは助かる。

 

「俺達のことを知る人間が増えることは気になるが……」

 

 そもそもこれから行うボストロール討伐は「全てはマシュ・ガイアーが一人でやってくれました」と全てをサイモンの功績にするかわり、バラモスの目をひきつけて貰うという狙いもある。

 

(裏でこそこそ動いていた俺達のことが漏れて、バラモスの耳にでも入ったら)

 

 何せ、一度は出し抜かれてボストロールに国王の座を奪われてしまっている王様なのだ。

 

「それなら心配いらんッ」

 

 不安を覚えたところで口を挟んだのは、覆面姿な謎の人。

 

「君以外の覆面達は元々牢に入れられて抜け出したサマンオサ国民と言うことになっているッ!」

 

 どういうことだと問い返す前に、マシュ・ガイアーは語り始めた。

 

「国王といえど全国民は把握していないッ、そして偽国王の圧政によって捕らえられたとは言え脱獄犯という負い目がある彼女らは自分の正体を明かすことに抵抗があるという設定だッ」

 

「なるほどな、今のシャルロット達の実力はサマンオサ城の兵には及ばない、よってただの国民だったと説明してもおかしいところはない、か」

 

「うむッ」

 

 連れてきた牢の面々と面識がないと言う不自然さはあるはずだが、そこは覆面をして居る上正体を察されないように振る舞っていたとかなんとかとでも言いくるめるのだろう。

 

「ならば、俺から言うことはない」

 

 後は、部屋の中に入って打ち合わせをするだけだ。俺は鞄に手を突っ込むと、中を漁って布きれを取り出す。

 

(まさかこんな目的に使うとは……)

 

 布の服を切り裂いて作った武器を手入れする為の布きれ、俺はそれに細工をして顔の下半分を覆い隠した。

 

「ならば俺もサマンオサ王に素顔はさらせんだろうからな」

 

 かと言ってフードではスレッジになってしまうし、覆面ではマシュ・ガイアーである。

 

(ま、顔合わせするのはここだけだし)

 

 勇者の師匠ではなく、ボストロールとはマシュ・ガイアーとして戦うので、国王からすれば俺はちょい役でしかない。

 

(上半分はそのままだけど、いいよね)

 

 ドアをノックしてから、どうぞという返事を待って部屋へ足を踏み入れる。

 

「揃ったようですな」

 

「その様ですわね」

 

「ふむ……どうやら俺が最後だったようだな」

 

 待たせてすまんと頭を下げ、俺が席に着くのを合図とするかのように最後の打ち合わせは始まった。

 

「まず作戦を再確認しようッ、夜を待って国王の寝室へ侵入し、ラーの鏡で正体を暴くッ、ここまではいいなッ?」

 

「は、はい」

 

「ああ」

 

 発言は主にマシュ・ガイアーが行い、他のモノは疑問点が有れば挙手して発言する。こういう形にしたのも、マシュ・ガイアーの印象を強める為だ。

 

「その後は偽国王である魔物との戦闘になるッ、私は戦いつつ後退し、バルコニーまで退き奴を誘き出すッ」

 

 以後も戦い続けながら消耗度合いを観察し、行けると見たらシャルロット達に合図を出す。

 

(つまり、『仲間を呼んで』一斉攻撃で畳みかける)

 

 一方的な攻撃ならダメージが出なくても良い。うまく勝利出来れば、経験値が手に入ると言う訳だ。

 

(呪文なら近づかなくても攻撃出来るし、僧侶のオッサンは初歩の回復呪文であるホイミしか使えないにしても居ないよりマシ、問題はバニーさんだよなぁ)

 

 いくらリーチが長めの武器とはいえ、流石にはがねのむちでボストロールを攻撃しろ、とは言いづらい。

 

(やっぱり、アレがあるかの確認だけは避けられないか)

 

 出来れば質問で注目を浴びることはしたくないのだが、あるかないかでだいぶ展開が違ってくる。

 

「一つ、いいか? サマンオサ城にコレがあるか聞きたいのだが……」

 

 俺は挙手すると、羊皮紙にペンを走らせて描いた絵を国王とマシュ・ガイアーに向けた。

 

「無論じゃ、とは言うもののわしが牢に入れられる前のことじゃが……」

 

「うむわからんッ、私も城に入ったのは地下からだからなッ。だが、普通に考えれば用意されているだろうッ」

 

 返ってきた答えが微妙に残念だったのは、二人の置かれていた状況を鑑みると責められない。

 

「だが、地下牢の看守なら知っているやもしれんッ」

 

 ただ、マシュ・ガイアーの続けて出した案によって、俺が簀巻きにしてお持ち帰りした看守に話を聞くことで、疑問は解消される。

 

(連れてきてよかったなぁ)

 

 看守曰く有るとのことで、バニーさんの役目も決まり、問題はほぼ解決した。

 

「時にそなた、その声はもしや……」

 

 ただひとつ、サマンオサ王はマシュ・ガイアーの声に聞き覚えがあったらしく。

 

「どうやら俺達はお邪魔のようだ。いったん席を外すぞ?」

 

 俺は覆面の勇者一行に声をかけて退出を促し、振り返ってマシュ・ガイアーに無言で頷く。

 

(ここでサマンオサ王がマシュ・ガイアーの正体を知っておけば、この後の入れ替わり後も「マシュ・ガイアーの正体はサイモン」説を補強してくれるだろうし)

 

 まさに計画通りである。

 

「向こうは取り込み中のようだが、俺もお前達と再びお別れだな……」

 

「お師匠様……」

 

 そして、シャルロット達はこの後マシュ・ガイアーと共にサマンオサに向かうこととなる。そう、今度はマシュ・ガイアーに扮した俺と、だ。

 

(サイモンさんには、この後で打ち合わせしておかないとな)

 

 宿に残してきたぬいぐるみがかわいたら、それを着てサマンオサへ行くようにである。

 

(名付けて、「勇者ニャイモン」ッ!)

 

 サイモンはサマンオサでは顔が割れているので、是非もない。

 

(きっと見とがめられても猫のふりをすれば大丈夫なはず)

 

 ファミコン版ではグラフィックまんま普通の猫と同じだったような気がするし、ちょっと頑張ったら誤魔化せるのではないかなとかとちょっぴり期待してみたりする。

 

(うん、無理だろうけど)

 

 何にしても可愛らしい猫のぬいぐるみの中身が勇者だなどと普通は思わない。故にパッと見ならばれないと思うのだ。

 

「待たせたなッ」

 

 翌日、俺はいや私は再びマシュ・ガイアーとして、シャルロット達の前で、謎のポーズを取っていた。

 

「行こうッ、彼の地へッ! ルーラッ」

 

 覆面集団と共に宙に舞い上がる謎の人。いよいよ決戦当日となった空を飛んで私はサマンオサへ向かったのだった。

 




まさかのぬいぐるみサイモン爆誕。

そして再び変態となる主人公。

いよいよサマンオサで彼はボストロールと対決する。

次回、第五十八話「真夜中の決戦(前編)」

ゆけ、勇気と共に。

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