「いや、本当に勇者様々ですよ。いや、シャルロット様々でしょうか」
宿屋のおじさんにそう言われて、ボクは苦笑するしかなかった。
「シャルちゃんを見に来たお客さんとかで部屋は満室。武装していた人もいるから、ひょっとしたらシャルちゃんの旅の仲間になろうという人も――」
「へぇ」
ルイーダさんの酒場に直行して仲間を募る前に情報収集しておこうかなと思って宿屋に寄ってみたけど、幸先が良いかも知れない。
(王様にも言われたもんね)
魔王を倒す為行動を共にする仲間、どんな人に出会えるんだろうとボクは期待に胸を膨らませつつ酒場の門を叩いた。
もちろん不安もあったけど、ボクは勇者なんだ。
「すみません、通してください」
混雑する客席を少し緊張しながら通り抜けて、カウンターにいるお姉さんの所にゆく。同じアリアハンの住人だし酒場はボクの家の前だからルイーダさんを間違えることなんて無い。
「こんにちは」
「いらっしゃい、ルイーダの酒場へようこそ。ここは旅人たちが仲間をもとめて集まる出会い と別れの酒場よ、何をお望みかしら?」
外で出会えばいつものように挨拶する人だけど、今日のルイーダさんはいつもと違った。きっとお仕事モードなんだろうなぁ。
「それで、一緒に魔王を倒しに行く仲間を捜しに来たんです」
お城から話は行ってるかもしれないけれど、ボクは事情を説明してから振り返る。
(名簿を見せて貰って個別に話をするのも良いかもしれないけど……)
宿屋のおじさんが言っていたように、ボクへ力を貸してくれる為にここに来ている人がいるかもしれない。
(うん)
だからまず呼びかけてみようと思った。
「バラモスを倒す為、力を貸してくださる方はこの中に居ませんか?」
酒場の喧騒に負けないように声を張り上げたのだ、だが。
「バラモスぅ? お~う、嬢ちゃん。そんなんいいからこっち来て酒注いでくんねぇか」
真っ先に声を上げたのは顔の赤い酔っぱらいのおじさんで、呼びかけは最初から躓いた。
(そ、そうだよね。酒場何だからこういう人が居ることぐらい)
ボクが甘かったんだと思う。
ううん、本当に甘すぎた。
「良くないです、僕は勇者として――」
「はぁ、お前が勇者かよ? 勇者って言うから期待したのに女とか」
「何よ、それ。勇者って言うからいい男だと思ったのにぃ」
勝手な期待をし、勝手な失望をして何人もの人が立ち去り。
「……そんな」
呆然としていたボクは気づかなかったのだ、酒臭い息をしたおじさん達が近寄ってきていたことに。
「え、きゃあっ」
「うへへへ、聞いたかおい?『きゃあ』だってよ」
「おぉ。おい勇者の嬢ちゃん、俺達が仲間になってやろうじゃねぇかぁ。一緒に楽しいことしようぜぇ? へへへっ」
突然後ろから抱きつかれて思わず悲鳴をあげたボクの反応を楽しむようにニタニタ笑いながら一人が腰の辺りに手を伸ばしてきて――。
「放してっ」
「うおあっ」
「てめえっ」
「痛っ」
酔っぱらいを乱暴に振り払い距離をとろうとしたけれど、今度はもう一人の酔っぱらいに腕を掴まれる。
「大人しくしてりゃいい気になりや」
その腕を掴んできた酔っぱらいが声を荒げボクの身体を引き寄せようとした直後だった。
「がっ」
「ああっ」
短い声を漏らして酔っぱらいは崩れ落ち、腕を掴まれたままだったボクもバランスを崩して床にへたり込む。
「オイオイ、何の騒ぎですかコレ、うっせーんだけど?」
頭上から聞こえてきたのは、たぶんあの酔っぱらいをのした人の声。
「あ、あの……ありがとうございました」
「はっ?」
慌ててお礼を言ったボクに返ってきたのは、訝しげな反応だった。
「ひょっとして、俺様が助けてくれたとか勘違いしてるクチ? ちょっ、だったらマジ受けるんですけど」
「えっ」
「いや、だって勇者とか言っといてあんな雑魚の対処も出来ずにテーソーの危機? ねーよ、どこの笑い話ですかソレ」
愕然とするボクの前で恩人だと思った人は、お腹を押さえてバカ笑いしだす。
「つーか、お前みたいな雑魚はぁ、ぶっちゃけこの雑魚達とイイコトしてんのがマジお似合い。おおがらすの餌になるより人々にコーケンできるっぜ、ガチで」
「え」
ボクはその人が何を言っているか理解出来なかった。
「言い過ぎよ」
ルイーダさんが止めにはいるまで。
「はぁ? そーゆアンタだって酔客のローゼキガチ放置してたのに?」
「……わかってて言ってるでしょ。人を斡旋する以上こっちにも相手を見極める必要があるのよ」
「あー、そっか。けどよ、この雑魚勇者様試されてたことさえ気づいて無かったんじゃね?」
「試……す?」
まだ理解が追いつかなかった。
「うわ、ポーカンとしてる。ボーゼン、ボーゼンジシツって奴? 悪かった、お前マジ面白ぇわ、雑魚じゃねぇ芸人だな」
「っく」
相変わらずこっちを指さしてげらげら笑う人の言ってることを完全に理解した時、ボクは酒場を飛び出していた。
(ボクがもっと強ければ……しっかりしてれば)
侮られることなんて無かった。みっともない真似だってしなかった。
(強くなろう。そうしたら、きっと……)
仲間だって見つかると思う。あんな失敗はしない。
(何の功績もない、ただお父さんの娘だってだけだもの)
それだけで力を貸してくれだなんて虫が良すぎたのだ。去っていった人達を見返してやろうって気もあった。
(こんな所で躓いたままじゃいられないよね)
メインストリートに出て右に曲がり、アリアハンの外に出る。
「あれは……」
「ピキーッ!」
最初に遭遇したのは一匹のスライムだった。
「ボクだって、スライムぐらいっ」
ボクは力一杯銅の剣を振り上げ、自重を活かして叩き付ける。
「ビギッ」
ただそれだけで、断末魔をあげてあっさりとスライムは動かなくなった。
「や、やった……」
初めての勝利。
(大丈夫、ボクだってやれるんだ)
少しだけど溜飲も下がって、自信を取り戻したボクはレーベに向かって歩き出す。ただ、この時ボクは気づいていなかった、自分がどれだけ無謀なことをしているかを。
この後勇者シャルはスライムの群れに遭遇し、ボコボコにされたところを主人公に助けられるという流れになっております。
シャルロットが本名ですが、ゲームだと文字数的に愛称のシャルじゃないと登録出来ないかも。
ともあれ、次回は本編の予定。
続きます