強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第六十六話「転職の神殿、遠いダーマッ」

 

「確かこっちじゃったな?」

 

 バニーさんから受け取った聖水を振りまいた俺は、うろ覚えの記憶を頼りにとりあえず川を目指した。

 

(とりあえずはダーマを目的地にするか、運が良ければ情報だって手にはいるかも知れないし)

 

 ルーラでゆける場所を増やせば、シャルロット達を連れて行くのも楽になる。

 

(と言うか、そろそろこの格好も終わりで良いかな)

 

 何かポカをやらかしててシャルロット達が追いかけてくる可能性を考慮し、スレッジの格好と口調を続けているのだが、フードで視界は狭くなるし、肉体のスペックが馬鹿高いとはいえ、常に腰を曲げているのはキツいものがある。

 

「念のためにあの木の陰まで行くとしようかのぅ」

 

 商人の覚える呪文、大声で呼べばフィールド上の何処にいても行商人が駆けつけてくる世界であり、町で出会う商人の中には行商を生業としている商人も居た。

 

(この先にダーマがあるなら開けたところで着替えてたら行商に目撃されてもおかしくはないし)

 

 レムオルで透明になって着替えることだって出来るが、精神力がかかる上手元が見えず、緊急時でなければあれを使おうとも思わない。

 

「……さてと、こんなものか」

 

 結果として木陰でいつもの姿になった俺は、東を目指し、歩き出す。

 

「森、か。まぁ、魔物が出ない以上迷わなければ問題はないな」

 

 聖水の効果で魔物と遭遇する可能性がゼロである以上、敵は地形だけである。

 

(方角が分からなくなると拙いし、とりあえず、直進しよう)

 

 橋を渡って森に入った俺は、ひたすら東へと進む。

 

「ん? また川か」

 

 人の足では薦めぬ場所に俺が行き着いたのは、半日以上経ってから。

 

「だが、俺にはモシャスがある」

 

 聖水の効果が切れるのを待って、口笛で魔物を呼び寄せれば川とて障害にはならない。

 

(ついでにここ近辺の魔物とも一度は戦ってみるか)

 

 サマンオサの南にあった洞窟でも魔物とやり合えたのだ。そろそろビビらず魔物と戦えるようになるべきだろう。

 

「「ウ゛ォォォン」」

 

「ヴヴヴヴヴヴ」

 

「くっ」

 

 俺がそんな自分の判断を後悔したのは、二秒後のこと。羽音の主であるストライプ模様の昆虫はまだいい、濁った咆吼と共に地面を蹴った方が問題だった。

 

(うわっ、えっと、なんだっけ、アニマルゾンビじゃなくて……)

 

 ぶら下がった眼球、露出したあばら骨、狼のような肉食動物を腐乱死体のアンデッドにしました、とでも言わんがばかりの存在が複数、俺を包囲したのだ。

 

「とりあえずベギラゴンっ」

 

「「ギャァウォォォォン」」

 

 見た目も酷いし、臭いもきつかったのでつい熱消毒してしまったが、誰に攻められよう。

 

「……これで問題はひとつ、片づいたな」

 

 後は残った巨大昆虫を仕留め、モシャスでその一体に化ければいい。

 

(空を飛んだことはないけど、身体の構造上何度か試せばどうにかなるだろうし)

 

 駄目だったとしてももう一度呼べば良いだけである。

 

「ヴヴヴヴ」

 

 必死の抵抗とばかりに、ギラの呪文を唱えて抵抗してきた蜂だから蠍だかよく分からない昆虫達だったが、昨日ボストロールに殴られたのと比べればどうと言うこともない。

 

「煩わしいとは言え、ここでマホカンタも大人げないしな」

 

 今すべきは、ボストロールの時同様、魔物が自分の身体をどう使うかを観察することである。

 

「では、お前達もご苦労だったな……バギマ、モシャス」

 

 もちろん、延々と呪文を喰らい続ける趣味もなく、適度なところで呪文によって生じた真空の刃を使い、昆虫達を一掃すると、変身呪文を使い同じ魔物の姿へ変身して、ポテッと地面に落ちた。

 

(うぐっ、浮いた状態からスタートってのは、ちょっと意地悪すぎるような)

 

 愚痴を言おうにも、今の姿ではギチギチ顎をならすくらいしか出来ない。

 

(あ、ギラなら唱えられはするか)

 

 ついさっき同じギラ系呪文の最上級をぶっ放した俺からすると頼りないことこの上ない火力だが、この姿に求めるのは空を飛ぶ力だ。

 

(さてと、待ってろよ、ダーマ)

 

 結構あっさりつけるかと思いきや、意外に遠い。俺はまず自分の身体を浮かせることを目標に羽根を動かし始め。

 

(……やったぁ、これで飛べるぞっ)

 

 アクロバティックに八の字を空に描けるようになった頃には、三グループ分同族の死体を周囲に積み上げていた。

 

(しかし、自分の身体に無い器官を動かすのって意外に難しいな)

 

 この分だと、竜に変身して炎を吐くもう一つの変身呪文も何処かで試してみた方が良いかもしれない。

 

(ま、それはそれとして……今は東へ、だ)

 

 モシャスの残り時間も考え、少し急いで俺は川を横断し。

 

「……危ういところだったな」

 

 時間がギリギリになって川岸に人の姿で突っ伏すと言う事態を招きつつも、聖水を再び振りまいて、更に東へ進む。

 

「さてと、そろそろタカのめを使うか」

 

 どれほど東へ進んだことだろう。いつの間にかオレンジ色だった周囲の景色の中、俺は呟いた。

 

(暗くなってからの方が人工の明かりは見つけやすいけど。地形の方は把握出来なくなるもんなぁ)

 

 いざとなればラナルータで昼に飛ぶことも可能だが、ジパングでは犠牲が出続けているのではと思うと、それもし辛い。

 

 だから、確認出来る内に地形を把握しておくのは間違った判断ではないと思うのだ。

 

(え゛っ)

 

 にもかかわらず、俺は大空に飛ばした心の目が移したモノに思わず顔を引きつらせた。

 

(えーと、あれって……)

 

 ポツンと立つ宿屋が見えた、それはまぁ良いとしよう。ただ、更に向こうに見えた見覚えのある列島については確認するまでもない。

 

(なんで ダーマ じゃ なくて ジパング が みえ はじめてる んですか やだー)

 

 どうやら俺はダーマをすっ飛ばしてジパングの方へと来てしまっていたらしい。

 

(どうしよう、とりあえずジパングに行くしかないかな、これは)

 

 ダーマ神殿は遙か遠く、俺はとりあえず頭を抱えたのだった。

 




・本日の犠牲者
 デスジャッカル
 ハンターフライ

遠いどころか、まさかのスルー。

迷わないように直進したのが仇になった主人公。

このまま無策でジパングへ渡るつもりか。

次回、番外編6「ミリーの告白(勇者視点)」

その、前にバハラタにカメラを戻して番外編行こうかと思っております。
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