強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第六十八話「スーさんとでも呼んでくれ」

「ここが、ジパング……」

 

 鳥居を見て懐かしく思うのは、ここに居てから西洋洋式の建物しか見ていなかっただろうか。

 

「世話になったな、他にも助成を願うつもりでいるなら、キメラの翼で行けるところ限定ではあるが送ってやれるが」

 

 振り返って「どうする」と問うと俺を連れてきてくれたジパング人は首を左右に振った。

 

「それは貴方を信じていないと言うも同じでありましょう? われは貴方の言葉を信じ、ここで待ちまする」

 

「そうか」

 

 ならば、信頼には応えねばなるまい。

 

(やまたのおろちを早急に何とかするのは、確定として)

 

 まずは情報収集か。

 

(時間軸的にゲームで来るより早い到着になってるはずだし、シャルロットが……勇者一行が訪れていないことでの差異だってあるかもしれない)

 

 とにかく、調べてみないことには今後の行動も定まらない。

 

「では、俺はおろちのことを調べてこよう。戦うつもりなら万全を期さねばな。俺はスーザン・ノルンオウル、呼びづらければスーさんとでも呼んでくれ」

 

「わかりもうした。ただ、でしたらそれはわれが受け持ちまする。話を聞くに外国の者よりわれの方が適しておりましょう」

 

 ただ、その申し出は少々予想外だった。

 

「……言われてみれば、そうかもしれんな」

 

 ともっともらしく頷いては見たが、ゲームでの状況とどう違うのかを確認するという一面も兼ねての情報収集だったのだから。

 

(とは言え、無碍には出来ないしなぁ)

 

 純粋な好意からの協力をはねつけることなど出来よう筈もない。

 

「ならば、頼む。出来れば――」

 

 出来たのは、調べて欲しい情報に幾つか注文をつけることぐらい。

 

(既に生け贄を差し出し始めてるのか、犠牲はどれぐらい出ているのかぐらいは知っておかないと)

 

 状況がどこまで深刻かでこっちの動きも変わってくる。

 

(最悪の被害が、ゲームでのジパング到達時と同じだとして)

 

 今動くことでどれだけの犠牲が減らせるのか。

 

(今日にでも生け贄が捧げられますってパターンが一番行動を抑制させられるよなぁ)

 

 流石に見捨ててはおけないし、準備の時間がどうのと言っても居られない。

 

(HPとMP全回で、気にかかるのはドラゴンシールドがないことぐらい)

 

 図らずしもゲームで言うところの一ターンに二回呪文が唱えられるようになった今の俺なら、守備力を引き上げるスカラの呪文と炎や氷のブレスから受けるダメージを和らげるフバーハの呪文を一度に使うことが出来る。

 

(あとはスカラで限界まで守備力を上げてしまえば、ボストロールの時ほどでは無いと思うけど一方的な展開になるはず)

 

 そう、ゲーム通りなら。

 

(既に生け贄捧げられちゃってて、やまたのおろちが生け贄の娘さんを盾にするって言うパターンだってありうるよな)

 

 ヒミコに成り済ましてジパングの人々を騙す知能は持ち合わせているのだ、戦闘で圧倒出来るからと高をくくると足下をすくわれる。

 

「さてと」

 

 情報収集に際して、一刻を争う状況なら途中で切り上げてでも知らせに来て欲しいと注文はつけた。

 

(ルーラ使ってしまうと時間が経過しちゃうからなぁ)

 

 ゲームでは夜に使っても到着が昼になったりする辺り、プレイヤーには一瞬だがちゃんと移動時間がかかっているのだ。

 

(サマンオサに飛んで戻ってくる間に生け贄が捧げられる可能性だってあるし)

 

 とりあえず「生け贄を捧げ始めてるか」と「捧げているなら次はいつになるか」の二つを確認しないと動くに動けない。

 

(こういう時モノだけ送れる呪文が有れば便利なんだけど)

 

 ダメもとで手紙を書いて本来なら敵を何処かに飛ばす呪文「バシルーラ」で飛ばしてみるべきか。

 

(飛ばされた仲間ってゲームではルイーダの酒場に戻ってきてたけど、あれって飛ばされた人が自力で酒場まで行ったと見るべきだよな)

 

 当然だが、手紙は歩かないし動かない。

 

(誰かに拾われる可能性も捨てきれないか)

 

 当たり障りのない手紙を書いて試しにバシルーラってみることも出来るが、そもそもちゃん届いたかを確認するにはルーラなり何なりで確かめに行く必要があり。

 

(最悪このままやまたのおろちを倒しに行くのにMPを無駄には出来ないわな)

 

 実験と検証をやるにしてもTOP、時と場所をわきまえる必要があると言うことだ。

 

(何でも一人でやろうとしたことが失敗だったのかもな)

 

 全てとは言わないまでもある程度打ち明けて、協力を頼める仲間が居たなら、この状況下でもキメラの翼かルーラでお使いなり伝言を頼めたと思う。

 

(仲間、か……シャルロットに打ち明ける訳にはいかないとして……)

 

 俺は一通り勇者一行の顔を脳裏に並べてから、頭を振る。

 

(駄目だな、一緒に旅をする仲間に隠し事をし続けるのが難しくてめんどくさいのは自分が一番解ってるもんなぁ)

 

 協力者を作るなら、口が堅くてシャルロット達とはあまり面識のない人物にすべきだろう。

 

(救国の英雄でなければサイモンさんがベストなんだろうけど)

 

 いろんな意味で目立ちすぎてる人間には頼めないし、無理がある。

 

(後は、ほこらの牢獄で助けた人と戦士ブレナンくらいかな)

 

 前者はまだ療養中、後者は俺がサマンオサで姿を借りて色々やらかした記憶がある。

 

(となると……ほこらの牢獄にもう一度行って、誰かの蘇生を試みても無理か)

 

 上手く生き返ってくれたとしても、しばらくは絶対安静だろう。

 

(うーむ、ままならないなぁ)

 

 報告を待ちながら己の考えに耽っていた俺は一つ嘆息すると。

 

「殿っ、スーさん殿ぉ」

 

「ん?」

 

 遠くから自分を呼ぶ声が聞こえて我に返る。

 

「何……ちょっ」

 

 視界に飛び込んできたのは、一瞬ではあったが、盗賊の仮面が脱げかけるほどの事態。

 

(もう、報告いらないかな、これは)

 

 ミスリルヘルムの中で顔を引きつらせて見たのは、輿を担いでこちらに向かってくる一団とそのかなり前を駆けてくる情報収集を請け負ったジパングの人の姿だった。

 

 




生け贄、スタンバイ。

その後、「スーさん殿ぉ」がなまって「すさのお」になったとかならないとか。

次回、六十九話「さくりふぁいす」

おお、作者酷い人準備の時間無しとかおっしゃる?(アッサラーム商人風)

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