「これで全部だな」
「はい」
何とかもってくれたと言うべきかもしれない。
(とりあえずリレミト分の精神力は残ったかぁ)
別の精神力がガリガリ削られている気もするが、俺にはまだやることがある。
「これからリレミトという呪文で洞窟から脱出する。流石に溶岩の煮えるこの洞窟を裸足で歩いて帰る訳にはいくまい」
「言われてみれば」
「流石スー様にございまする」
靴が足りないという問題点へ言われてから気づいたお姉さんが声を上げたが、生き返ったばかりの身の上では無理もない。
(いっぱいいっぱいの人も多いだろうからなぁ、そこにつけ込むのは罪悪感があるけど)
チャンスとも言える。
「が、その前にお前達に話して置きたいことがある」
迷いに迷ったが、はっきり言ってこの人数を連れ歩くのには無理があり、結婚なんて論外だ。
(うぐっ)
お米の食事には後ろ髪を引かれるモノがあるが、ほかほかの白いご飯の為に女性の心を弄ぶ真似なんて出来ない。
「まず、この話は他言無用だ」
本来なら話すつもりなど無かったとも前置きし、俺は語り始める。
「俺が良く読んでいた物語の種類に『憑依モノ』と言うものがあるのだが……」
流石にゲームでは理解しづらいだろうと物語に変えつつ、まずは憑依について説明し、今の自分は他人の身体にのりうつっている状況だと明かした。
「この身体が他人のものである以上、安易に結婚など出来ん。ましてや、お前達を助けられたのもこの英雄の身体によるところが大きいのだ」
はっきり言って生身の俺だったらクシナタさんを助けることだって能わなかっただろう。
「それは、まことにございまするか?」
「ああ、幻滅したか? その上で厚かましくも頼みがある」
少女やお姉さん達がざわめく中、代表して問いかけてきたクシナタさんへ頷きを返すと、俺は言う。
「事情を知った上で協力してくれる人材が欲しい」
と。
(聞きようによっては、協力者欲しさと言う下心で助けたともとれるもんなぁ)
結婚フラグやハーレムフラグなんかはこの説明で折れたと思うが、同時に協力して貰いにくくもなった。
(そして、誕生したのはこっちの弱みを握った女の人がいっぱい)
馬鹿をやってるとは思う。ただ。
「むろん、協力してくれなかったとしても生活の場は用意する。口止め料代わりだとでも思ってくれればいい」
止める気も見捨てる気も無かった。
「生活の場といいますると?」
「サマンオサと言う国がある。つい先日まで国王に化けた怪物が圧政を敷いていた国だが、圧政で人が減っていてな」
怪物は倒され、今は平和になっていると補足説明すると、その国なら些少顔も利くと付け加える。
(クシナタさんを除いて他の人は死んだことになってる筈、平穏に暮らしてくれるなら少なくとも助けた甲斐はあった訳だし)
結婚フラグが折れたことで良しとしておこう。
「服も必要だろう、洞窟を出たらサマンオサまで送って行く」
そしてキメラの翼でジパングにとんぼ返りし、おろちの反応を確認し、出方次第でこちらの方針を決めるという流れだ。
(おろちが逃げ出してたらクシナタさんだけはジパングに帰してもいいよね)
他のお姉さん達は元々神父の存在しなかったジパング、蘇生呪文の存在も下手をすれば知らない可能性がある。
生け贄として死んだはずの人達が帰ってきたらパニックになってもおかしくない。
(他のお姉さん達は根回ししてからじゃないと危ないだろうな)
確かこの洞窟には歩く腐乱死体の魔物なら出没するのだ。準備無しで帰郷すれば、最悪それのお仲間と見なされて攻撃される何て嫌な展開が起こったって俺は驚かない。
「かしこまりましてございまする。ところで、スー様?」
「ん? 質問か?」
いつの間にかまた自らの思考に沈んでいたところで声をかけられ我に返ると、クシナタさんは「はい」と肯定し、尋ねてきた。
「協力する場合はどうすれば宜しゅうございまするか?」
「なっ」
それは、想定外の問いだった。
「スー様、あんまりでございまする。スー様が、どのような方であれ、私達を助けて頂いたのは事実」
「スー様に頂いた命、スー様の為に使わせて下さいませ」
「お前達……」
気がつけば、真っ直ぐな視線が俺を見つめていた。肌色面積的な意味で、こっちはちょっと目を逸らす形になったけれど。
「すまんな」
クシナタさん達の決意は、危険に身を置くことでもある。俺は深々と頭を下げて感謝の意を示したのだった。
こうして主人公は協力者を手に入れたのだった。
次回、第七十七話「もう一度ジパングへ」